五幕五場 「聞き込みの基本は脚です!」
リホ達は足早にリジェの村を離れ、木像のあったソラクの村へと向かった。
リホは以前魔導卿から聞いた話もあって、モネの安否が心配で仕方がなかった。
「モネちゃん、無事でしょうか?」
「何を言ってるんだ、お前は?」
「だって、モネちゃんが連れていかれて……」
「連れていかれたかどうかは分らんだろう? 単に教団の者が迎えに来ただけかもしれん。それにモネ自身が同行することにしたのかもしれんだろう」
「それは……」
「お前は早とちりしすぎなんだよ。さっきの老人だって『連れ去られた』とは一言も言ってないだろう? 自分で勝手に悪い方へ事態を想定するのは良くない癖だぞ」
「リホさん、今はマスター様の言うとおりソラクの村にあった木像を確かめに行きましょう。そこに木像があるかないかで、その後のことが変わってくると思います」
フーカは比較的冷静だった。
もちろんフーカもモネがリジェからいなくなったことについては十分驚いたが、それよりも師匠が言っていたことのほうがより気になっていた。
「マスター様、もしソラクの木像がなかったとしたら、どうするんですか?」
「問題は誰がそれを持ち去ったかだな。それを確かめる」
モネとは無関係の者が木像を持ち去ったのだとすれば、モネが単純に教団に呼ばれた可能性は高くなる。
だがもし教団の者が持ち去ったのだとすれば、『ご神体』の価値に気づき、モネとの関連性を知った可能性が浮上してくる。
一行は急ぎに急いで3日、ようやくソラクの村が見えてきた。
本当はもっと急ぎたかったのだが、山歩きに不慣れなフーカを気遣った結果、この日数になったのだった。
それでもフーカにとっては結構な強行軍になったようで、魔導卿から貰ったアンクルの効果をもってしても、さすがに疲労感は否めなかった。
「木像があるといいんですけど……」
リホはそう言いながらかつてモネが滞在していた小屋を再び訪れた。
だがそこにあったのは木像が置かれていた台座だけで、その上にあるはずの木像の姿はどこにもなかった。
「………ないですね」
「誰が持ち去ったのか訊いてみるか」
三人は情報収集も兼ねて村の外へ向かう。
畑では前回も話を訊いた農家の女達が作業をしていた。
「あれ、あんたたち。また来たのかい? こんな村に何度も来るなんてもの好きな人もいるもんだね~」
「ちょっと訊きたいんですけど、この村にあったご神体、じゃなかった、あの、こないだお話を伺った神官のいた小屋にあった木像なんですけど、誰か持って行ったりしてませんか?」
「木像? さあ~、そんなものあったっけねぇ?」
「あ~、なんかあの神官の子が毎日拝んでいたやつかい? そういやあったねぇ、そんな像が」
「それです! 今見たら無くなってて。誰が持っていったか分かりますか?」
「さあねぇ。そんなものあたしら気にしたこともなかったからねぇ」
落ち込むリホの代わりにフーカが尋ねた。
「それではあれから誰か村に来ませんでしたか? 神官のような人達とか」
「そういやあんたらがいなくなってしばらくした頃に、神官みたいな恰好した連中が数人来たよ。それでこの村に神官はいるか? って訊かれたから、今はリジェにいるんじゃないかって話したことがあるよ」
リホとフーカは顔を見合わせた。
「その人達、どこから来たとか言ってませんでした?」
「さあ~そこまではねぇ。何だか取っつきにくい感じだったし、どこの宗派かも分からない連中だったから、あんまり話はしなかったんだよ」
「そうですか……」
うまくいけばスターナ教の拠点の場所が分かるかもと思ったリホは少し落胆したが、今はここで落ち込んでいる場合ではない。
「師匠、どうしますか?」
「もう一つの『ご神体』も確認しに行くぞ」
「そうですね、分かりました」
女達にお礼を言うとリホ達はまたもや急いで村を後にした。
次に目指すはカントの村から最初に訪れた集落。
幸いそれほど距離は離れていなかったので、頑張れば一日でたどり着けそうだ。
「でもあそこの『ご神体』は地面に生えてた岩だったんですよね? さすがにあれを持ち運ぶのは難しいんじゃないですか?」
リホの疑問はもっともだった。
「それでも連中がなにかしようとした可能性はあるだろう。持ち帰ろうとして岩を削ってみたとかな」
「そんなことしたら『ご神体』じゃなくなっちゃったりしないんですか?」
フーカが心配そうに師匠に訊く。
魔道具のようなものであれば、道具そのものを傷つけられたり壊されたりすれば、本来の力を発揮できなくなっても不思議ではない。
「どうだろうな。なにせ特殊な『ご神体』だからな」
そんな会話を繰り広げながら、三人は道を急ぐのだった。
集落の傍に着いたのが日没後だったこともあり、一晩一軒家で夜を明かしたのち、次の日の早朝に三人は集落へ入っていった。
谷川から巻き上がる靄がうっすらと立ち込め、朝日に照らされた集落全体がぼんやりと浮かび上がり幻想的に見える。
家々の間を進み、モネが使っていた石造りの小屋までやってきた。
リホが中を覗き込むと、そこには先日見たのと同じ円錐形の岩が立っていた。
「あった、ありましたよ、師匠」
リホの声に呼ばれるように、師匠とフーカも小屋の中に入って岩を覗き込む。
念入りに確認してみたが、この前見た時と比べても岩に何かをされたような跡は見つからなかった。
「手は出さなかったんですかね?」
「お前たち、そこで何をしておる!」
後ろから強い口調で窘められた。
振り向くと先日リホ達に声を掛けた老人が杖を突いた姿勢でこちらを睨んでいる。
「あ、おじいさんお久しぶりです。この間はどうも……」
「……なんじゃ、貴様らか。またのこのこ現れよって、一体何の用じゃ」
「じいさん、少し前にこの村に見覚えのない神官共が来なかったかい?」
師匠の問いかけに老人は一瞬きょとんとしたが、すぐに杖を振って話し始めた。
「おう、来よったとも。スターナとかいう宗派の神官が二人。自分らのところの神官がいた場所を探しているというからここへ連れて来てやったら、あろうことかあやつらその岩を削りだそうとしおった!」
「え、そうだったんですか?」
「そうとも。だがそんなこと儂の目の前でさせるわけにはいかん。この村のものを持ち出すなど許されるものか! 儂の声を聞きつけた村のもんが集まったおかげで、連中は何もできずに出ていきよったわ」
「じいさん、その連中はこの岩を見て何か言ってたかい?」
「そういや、ご神体がどうのといっておったな……、む、そういえば貴様らも前に来たとき、同じことを言っておったな? ならば貴様らもこの岩を奪いに来たのか!?」
「持ち去るつもりなら前回来たときにそうしています。私達が知りたいのは、その神官達がどこから来たのか、なんです」
フーカの返しにリホも横でうんうん頷いている。
「あやつらがどこから来たか、じゃと? カントの街から来たとは言っていたが、それ以上のことは何も言わなんだよ」
「ほう、では連中はカントにも寄ったんだな?」
師匠の言葉にリホも気づいた。
「じゃあ次はカントですね」
そうして三人はカントの街を目指すことになった。




