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第九話 婚約破棄防止委員会発足

仲間が必要だ、と決断した翌日から動き始めた。

条件を整理する。

まず、この状況を説明できる相手であること。

次に、実際に動いてくれる力があること。

そして最重要として、俺の話を頭から否定しない人間であること。

候補を三人に絞った。

一人目は宰相のゴードン卿だ。

長年王宮の内政を支えてきた老練な人物で、「地下書庫で不審な本を発見した」と話しても、まず冷静に聞いてくれそうだ。

二人目は騎士団長のカイル卿だ。

豪快な人柄で知られているが、根は真面目だと記憶している。

何より行動力がある。

三人目はアリアだ。

(アリアを入れるべきか)

迷いはあった。

シナリオの強制力の被害者っぽいとはいえ、状況を共有していない人間を巻き込むのは慎重になるべきだ。

しかし当事者に情報を持っておいてもらう方が、不測の事態への対応ができる。

結果として三人に声をかけた。

ゴードン卿は「承知しました」と一言で了承した。

カイル卿は「何かあったのか」と多少警戒した顔をしたが、こちらも了承した。

アリアは少し驚いた後、静かに頷いた。

会議の場所は、王宮の小会議室を使うことにした。

当日、全員が揃った。

ゴードン卿は普段通り落ち着いた顔をしている。

カイル卿は普段通り威圧感がある。

アリアは場違い感を全身で発しながらも、背筋を伸ばして座っている。

俺は一度深呼吸して、口を開いた。

 

「本日集まってもらったのは、ある問題の解決のためだ。その問題というのは」

 

全員の目が集まった。

 

「婚約破棄を起こさない、ということだ」

 

沈黙があった。

ゴードン卿が静かに口を開いた。

 

「……それは、当たり前のことではないでしょうか」

 

カイル卿も続けた。

 

「殿下が婚約を破棄するおつもりがないなら、それで解決では」

 

アリアが静かに頷いた。

 

「私もそう思います」

 

三人が三人とも、同じ方向を向いていた。

(みんな当然だと思っている)

俺だけが必死なのは、わかっていた。

だがこれほどすんなり「当たり前」と言われると、少し傷ついた。

気を取り直して続けた。

 

「そう単純な話ではない。この一年以内に婚約破棄が起きる可能性を示唆する情報を入手した。そのための対策が必要だ」

 

ゴードン卿の目が少し鋭くなった。

カイル卿が腕を組んだ。

アリアが眉をひそめた。

ここから先をどこまで話すか。

地下書庫の本の存在は、今は伏せておく方がいい。

「俺が転生者でなろう小説の知識がある」などという説明は、まともに受け取られないだろう。

 

「詳細は現時点では話せない。だが確度の高い情報だ。関係各所に目配りをして、婚約破棄に繋がりそうな動きを未然に防いでほしい」

 

ゴードン卿がゆっくりと頷いた。

 

「承知しました。殿下の御意志が婚約の維持であることは理解しました。具体的にはどのような動きを警戒すべきでしょうか」

 

少し考えてから答えた。

 

「まず、俺の評判を意図的に落とそうとする動き。次に、エレノアに対する不当な中傷。そしてもう一つ、俺とアリアを引き合わせようとする何者かの介入だ」

 

全員の視線がアリアに向いた。

アリアが少し固まった後、静かに口を開いた。

 

「……私も、そう感じています。何者かに誘導されているような感覚があります」

 

カイル卿がアリアを見た後、俺を見た。

 

「アリア嬢を今回の件に関与させるのは、なぜですか」

 

「当事者だからだ。状況を把握している人間が多い方が、不測の事態に対応できる」

 

カイル卿がしばらく考えてから頷いた。

 

「わかりました。私の方では、王宮内の不審な動きを監視します」

 

ゴードン卿も続けた。

 

「宮廷内の情報収集は私が受け持ちましょう。エレノア嬢への不当な接触があれば、すぐにご報告いたします」

 

アリアが少し躊躇ってから口を開いた。

 

「私は……何をすれば」

 

俺は少し考えた。

 

「変な動きに引き込まれそうになったら、俺かゴードン卿に知らせてくれ。それだけでいい」

 

アリアが静かに頷いた。

会議が終わった。

全員が退室して、一人残った俺は椅子にもたれた。

(婚約破棄防止委員会が発足した)

自分でそう名付けてみたが、誰にも伝えていない。

伝えたら変な顔をされそうだからだ。

それにしても、と思った。

ゴードン卿もカイル卿も、特に驚かなかった。

「婚約破棄を防ぎたい」という言葉に対して、驚きではなく「それは当然」という反応が返ってきた。

(みんな、俺がエレノアを大切にしているとわかっているのか)

そうか。

外から見ればそういう王子に見えているのか。

なるほど、それならそれで都合がいい。

もう一つ気になったことがある。

カイル卿は「婚約破棄を防ぐ」という話を聞いて、一言も笑わなかった。

ゴードン卿も、内容の奇妙さには触れなかった。

アリアも、自分が会議に呼ばれた理由を不審がらなかった。

つまりこの三人は全員、何かしらの違和感をすでに感じていたということだ。

(俺だけが見えているわけじゃない)

その事実が、少しだけ心強かった。

窓の外に夕日が広がっていた。

一人でやれることの限界を感じていたが、仲間が増えた。

地下書庫の謎はまだ解けていない。

シナリオの強制力も健在だ。

だが昨日より、少しだけ前に進んでいる。

(胃の痛さが三割減くらいだ)

減った分は、また明日増えるかもしれない。

それでも今日は、少しだけ気が楽になった。














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