悪魔の独り言
一体窓が何枚あるのか、数えようもないくらいの大豪邸。建物と正門の間には噴水まであり、その周りを切り揃えられた植物が囲んでいる。
このハルバード家の屋敷にマヒトが訪れたのは、オークション翌日の晩であった。約束の日は、オークションから一週間後であったはず。わざわざ異なる日取りの夜更けに訪れたのだ。悪い理由でしかない。
アクツ・マヒト。彼の方から加害意思を持つことはないが、刃向かってきた対象は、殺されても仕方がない命という位置付けになる。それが、彼が決めたルールであった。
目的のためならば、手段を選ばない。今回の行いも窃盗や略奪の類であるが、お構いなし。罪悪感など、欠片もない。人としてどこかズレている。ハルバード家自慢のお坊ちゃま、レオンとは真逆の、捻くれた人間だった。
「こんな豪邸おったてて、見回りは一人かよ。平和ボケしてんな」
そう言ったマヒトの視界がぼやけて、ハッキリとして、またぼやける。よじ登った木の上で、望遠鏡のピントを調節しながら、黒いローブまで被って、完全に盗人の様相である。
「…現在時刻は十時。豪邸は三階建て。離れなどは確認できない。全ての階層に明かりが灯っている。およそ、景色が一番よく見える最上階が、クソデブの自室。ジジイは寝るのが早い。ほら、三階だけが真っ暗になった。一階は広間と来客用スペース。普段はクソメイドどもが複数名で使用するはず。残る二階がクソナヨの部屋か。アイツ、フロアの空き部屋を全てぶち抜いて美術品を飾ってるとか言って、鼻を高くしてやがったな。馬鹿が。となると、奴隷は三階の何処かに詰め込まれている?いいや、そんなわけはない。クソプライドデブが、自らと同じフロアで奴隷を寝かせるわけがない。奴隷如きを、自慢のクソ息子の上で寝かせていいわけがない」
マヒトは情報を集めながら、念仏のように長い独り言をぼそぼそと早口で呟くと、ブーツの裏をブレーキ代わりにして、ザーっと木を降りた。望遠鏡を後方の藪に投げ捨てる。安物だ。隠密行動中に落とす危険を考えたら、捨ててしまった方が良いと判断した。
「こりゃあ、地下だな」
奴隷は、地下室で飼育されている。
そう確信を持ったマヒトは、二階と一階の大部分の明かりが消えるのをじっと待ち、遂に、潜入を開始した。




