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奴隷オークション

 この世界には、亜人という生命体が存在する。人間と別の生き物が混じっていたり、そもそも人型のモンスターだったりする。トンのような獣人も、亜人として括られる。

 彼らは、純粋な人間たちにとって、恐怖や奇異の対象になりがちだ。そんな考えの行き着いた先が、奴隷制度である。売買し、管理する側に立ってしまえば、恐ろしさを誤魔化してしまえる。異質な存在を前にして、肝っ玉の小さい人間が胸を張るには、こういった制度設計が必要だったのだ。

 悪事を働いた、借金返済の目途が立たない、親に売られた、など奴隷になった理由は様々だが、皆扱いは同じ。主人への反抗を不可能とする特殊な魔法が込められた首輪を付け、死なない程度に餌付けされている。奴隷商人から契約の譲渡さえ済んでしまえば、絶対服従。落札した者がどんな扱いをしても、餌をやらずに死んでしまっても、問題にならない。


「友達が居ないなら、奴隷を買えばいいじゃない」


 マヒトは、自ら考えた作戦名をぼそりと呟いた。最低の作戦だったが、手っ取り早く獣人の仲間が手に入るならそれが一番だと思ったのだ。

 解散となった黄金の剣の中で、唯一マヒトに逆らわなかったのが、トンだった。彼ら獣人は、知能が低い傾向にある。そのため、作戦の立案のような難しい思考が苦手であり、成果が得られると分かってしまえば、文句も言わない。その単純さが、完璧主義のマヒトには有難かった。

 指示から逸脱したパーティーの責任を全て負えるほど、マヒトの度量は大きくない。逆に、自らの指示通りに動いたパーティーが敗北したならば、メンバーに非は一切ないと、そう思える男だった。そんなパーティーが、彼の理想だった。


「奴隷番号、一番」


 手持ちの木槌がカンと鳴って、オークションが開始した。

 クラシック音楽のコンサートホールのようなステージに、番号で呼ばれた奴隷が前に出てくる。証明しようのない血統、鯖を読まれた年齢、盛りに盛られたスリーサイズなど、意味のない情報が羅列される。結局、この亜人が何の亜人であるのかくらいしか、分からない。

 犬の男、猫の女、狼の男女。その次に出てきた鷲の女は珍しかったようで、金貨十枚の値が付いていた。一般家庭の一か月の生活費を超える額である。


 しかしマヒトにとっての問題は、奴隷の値段そのものではなかった。鷲の女を競り落として満足そうにしている、巨漢の方が厄介だったのだ。臙脂《えんじ》色の分厚いコートに、純度の高い金のネックレス。腹に溜まった贅肉。その何もかもが、彼の身分の高さを主張していた。

 巨漢が競り落としたのは猫の女、狼の女、鷲の女。つまり、女性の亜人は全員競り落としている。仮に彼が女を全員買い占めようとしているならば、メンバーの候補は半分。仕方がないと割り切るほかないが、マヒトにとっては不運か。いや、男の方が戦闘に特化した個体は多い。こういった太客が女に執着しているのは、不幸中の幸いと言えよう。


「奴隷番号、六番。馬の獣人。女。身長、六フィート七インチ」


 マヒトはもう、目を伏せて情報を遮断していた。女と分かった時点で、自分には関係のない話であると、諦めていたのだ。しかし、だ。六フィート七インチ。その一際高い身長に興味を引かれ、ステージに視線を戻す。


 睨まれている。

 そう錯覚するほどに、ステージ上で胡坐をかいた彼女の眼光は鋭く、瞳は烈火の如く燃え滾っていた。赤茶色のたてがみは背中の方まで伸びて、その下から生えた尾が、左右にゆったりと振れている。トンとは異なり顔は人間に近しい造りをしていたが、耳は頭上に在り、額には十字に抉れた痛々しい傷跡が残っていた。組まれた手足は、枷を軋ませて破壊してしまいそうなくらいに、はち切れんばかり。

 サラブレットだ。筋肉は奴隷の身に落ちて尚、唯我独尊を語っている。その肉を動かすための赤い液体は、才能の息吹によって流れている。

 脳味噌によって死線を潜り抜けてきたマヒトと、腕っぷしで若きを謳歌した獣人。真反対の武器で生きてきた、二人の暴君。その出会いであった。


 彼は、町で一番の記憶力を誇る男である。しかし、御し易い素直なペットを求めてこの場にやってきたことなんて、もうすっかりと忘れてしまっていた。

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