幕間④ 思い出の橋
赤金の鎧のマリアベルと白銀の鎧のターニャ、黒鉄の鎧の鎧を着たクリーゲインときて、黒い革鎧に赤い髪に黒い角を魔族が並べば、まさに勇者の一行といって差し支えなさそうな豪華な布陣だ。
当然のように先頭を行くマリアベルは、久々に袖を通した赤金の鎧の感触に、顔を綻ぼせている。領主の代行など務めてはいるが、自分は根っからの冒険者なのだと、マリアベルは城壁の外に出て改めて思う。
「ん〜!城壁の外はいいね!風が心地良い!」
うんと背伸びをしてその風をあびるマリアベルが微笑むと、メネシオンも真似をして背伸びをする。メネシオンの赤い髪が風に揺れ、メネシオンは思わず目を細める。
「ほんと、最近振り回されっぱなしで疲れてから……」
かつては盟友のシュナレの御礼参りにゼルディアを襲ったメネシオンが、こうしてマリアベルと共に歩く事実に、ターニャは長い息を吐きつつも、肩の荷が下りたような顔で2人を見て、同じく背伸びをする。
「悪くないな……」
「ほんと、あのふざけたメイドのせいで、最近カリカリしてたから気分転換に丁度いいな?」
クリーゲインは憎まれ口を叩きながらも、そのふざけたメイドのためにわざわざ薬草を探しに来たと言うのだから、言葉とは裏腹の優しさをにじませる微笑みを見せる。
「本当に君たちは、千尋くんに振り回されているんだね」
先頭を行くマリアベルは振り返ると、千尋のいないこの瞬間を享受する3人の反応に屈託のない笑顔を向ける。
「一番の被害者はターニャでしょ。付き合い長いの?」
メネシオンは、後ろ手で頭を支えるように手を組みながら、ターニャを見る。その視線にターニャは遠い昔の思い出を話すように、
「あいつ、最初は男のふりをしてたんだよ。まあいろいろあったな……」
そのいろいろについては、その面子に話さないほうがいいのだろうとターニャは苦笑いをする。なんだかんだと、人一倍正義感の強そうなこの仲間たちと千尋を気遣うターニャだった。
「は?メイドの真似事以外にも、男装までやってやがったのか?」
あからさまに顔をしかめるクリーゲインに、ターニャは苦笑いで返して誤魔化す。ゼルディアから森へ向かう途中にある石橋は、ゼルディア城壁よりも古めかしく苔むしており、ところどころ石畳がかけているせいか、歩き心地が悪い。
マリアベルは何度も通った石橋の中程で立ち止まった。冒険者になると決めてゼルディアを飛び出した時も、帰ってきた時も気にならなかった石畳の傷みは、領主の真似事をしてみると気になってしまう。
「この石橋……。こんなに古かったっけ?」
メネシオンとクリーゲインは知る由もなく肩をすくめる。唯一ゼルディアの近くの村生まれのターニャが、過去の自分の思い出も交えて口を開く。
「馬車でも凄く揺れます。山道のほうがマシでしょうか……」
「この橋を直したほうがいいよね……」
マリアベルが石畳の欠片を蹴り上げると、欠片は小川に吸い込まれるように落ちていく。ゆるやかな川の流れに不意にたった波紋は、マリアベルの心の機微のようでもある。
「直すって言っても、この橋使えねぇ間どうすんだ?」
マリアベルの悩みなど興味もなさそうなクリーゲインが、ことのほかまともな事をいいターニャとメネシオンを驚かせる。
「クリーゲインって、千尋と言い争う割に、意外とまともなの?」
新時代の魔王改めて神託の勇者に言われると、エーダフォストの守護騎士クリーゲインは、どこかのメイドと比較されていたのかと憤慨する。
「当たり前だろ!こっちは守護騎士だぞ?」
ふんっと鼻を鳴らしメネシオンに抗議するクリーゲインに一同は苦笑する。
「そっか……。新しい橋か、仮の橋が必要になるんだ……」
そう言ってマリアベルは、石畳を手のひらで慈しむように撫でる。マリアベルからすればこの橋は少しばかり思い出の橋だった。狂っていくフィル・ブライヤ家から逃げ出し、この橋の上から故郷ゼルディアを振り返った。
「……なら、仮の橋がいいな」
「なら、貧困街の連中にやらせたらどうだ?。陛下がよく言ってた……。なんだっけかな……、そうそう。持つものが持たないものに食を施すのは偽善だが、職を与えるのは善だって」
レオニス・エーダフォストは傲慢で不遜な王といって差し支えない。だからこそ、貧民に手を差し伸べるような見栄えの良い善政は行わず、貧しいものを働かせ、学びを与え、自立を促す。
「へえ〜、あの王さまがねぇ……」
腕組みをして敬愛する王の言葉を思い出していたクリーゲインだったが、メネシオンの意外とでも言いたげな反応に、粗暴な守護騎士の顔になる。
「おう?なんだ、やんのか?」
二の腕に血管ご浮かぶほどの握り拳を作るクリーゲインを、ターニャがなだめる。千尋と知り合ってからというもの、こういった苦労が絶えない。お陰で人の間に立つ立場に自然と収まるようになってきていた。
「まぁまぁ、メネシオンも悪気があったわけでは……。それに守護騎士なのですから、もう少し言葉づかいを……」
「レオニス王は凄いね!」
マリアベルは、ともすれば一触即発だった状況に目もくれず、クリーゲインの握り拳に触れると目を輝かせる。
「お、おう?」
急に満面の笑みを見せられたクリーゲインは毒気が抜け、少し間の抜けた表情でマリアベルを見る。
「そうだよ!そうしたら、みんなご飯が食べられるし、橋も直るし、馬車で来やすくなるし、いいこと尽くめだよ!」
息抜きの冒険の最中に、意外な気付きを得たゼルディアの自称領主代行のマリアベルは、鼻息を荒くして右手の人差し指を天に掲げ、一人何かを決心したようでもあり、勝ち名乗りを上げる勇者のようでもでもあった。




