青い守護騎士
翌朝。千尋たちは召集令状に記載されていた宿で、王城へと向かうべく準備をしていた。そこへ王城からの使者が、訪問してきて為に余計に慌ただしい朝を迎えていた。
「おはようございます。皆様」
深々と頭を下げつつ、右手を胸に当てて礼をした男は、青いマントと青いとんがり帽子に軽装ながらも鉄の鎧を着ている。
「私は、このエーダフォストを守護する護衛騎士が筆頭、ブラウエリヒトと申します。以後お見知りおきを……」
顔を上げたブラウエリヒトと名乗る男は、なかなかの優男のようだ。中性的な見た目に、さらさらのブロンドの髪をなびかせ、海を思わせる紺碧の瞳は無闇矢鱈と潤んでおり、人目を惹きつける。そして優しい微笑みを堪え、女性の多い勇者一行を見つめている。
シュナレとハーゼはその優男に興味があるようだ。2人で後ろを向いて何やらヒソヒソと話し合っている。
一昔前のアリシアなら、頬を染めて手を差し出したであろうが、今のアリシアは優男の見た目などでは、びくともしない。
「これは、ありがとうございます。私はゼルディア領主、マリアベルの妹。アリシア・フィル・ブライヤです」
アリシアがドレスを広げて礼をすると、ブラウエリヒトは驚いた様な顔をする。
「ゼルディアと言えば、騎士団に私の知り合いがいるのですが、彼はご一緒ではないのですか?」
「騎士団に、知り合い……ですか?」
アリシアが首を傾げると、ブラウエリヒトはいたずらな笑顔を向ける。
「これは失礼します。昔に騎士学校で指導をしたことがありまして……。ランドルフと言う、ゼルディアの騎士なのですが?」
目に見えて、アリシアの顔色が曇る。今度首を傾げることになったのはブラウエリヒトの方だった。
「そうなのですか……」
アリシアが気まずそうに呟くと、メイド姿の千尋が前に出てきてブラウエリヒトにメイド式の礼をする。千尋が顔を上げるとブラウエリヒトは満面の笑みだったが、千尋はなぜか不快感を感じなかった。
「側仕えの千尋と申します。主に代わりお答えさせていただきます。ランドルフ様は、悪漢の手により命を落としました」
「なんと……。それは、本当ですか?」
急に現れた千尋を怪しむこともなく、ブラウエリヒトはアリシアを見つめる。ブラウエリヒトの視線に応えるように、アリシアは無言で頷いた。
「なんという……。彼は剣の腕で言えばなかなかのものでした。その彼を討つほどの悪漢とは……」
まさか、ランドルフを死ぬ寸前まで痛めつけた本人が、目の前にいるとは夢にも思わないブラウエリヒトは、演技じみた狼狽え方をしている。千尋は自分と同じように、仮面を被っているであろう優男の反応が、好きになれず冷たい視線を送る。
「それでブラウエリヒト様は、何の御用で来られたのですか?」
女性に冷たくされるのに慣れていないのか、ブラウエリヒトは言い淀む。
「そ、そうでした。王より勇者だけを連れてくるようにと……」
「なぜですか?アリシア様は神託の勇者ではありますが、この通り普通の女性です。従者は付けさせていただきます」
早口でメイドにまくし立てられ、動揺するブラウエリヒトはもっともな意見と、王の命令の板挟みにあっているようだ。
「いや、しかしですね……」
「では、アリシア様、メネシオン様、ターニャ様とアリシア様のメイドの私ではどうでしょうか?」
ブラウエリヒトは思った。領主の娘と魔族が神託の勇者であるとは知っていたが、もう一人は人間らしいが名前は不明のままであった。メイドの言うターニャという者が勇者なのかと、一行を観察する。
如何にもな白銀の女騎士がおり、3人目はこの女騎士かと、ブラウエリヒトは推察した。
「確かにメイド一人ぐらい増えても、王を害することはできないでしょうし……。分かりました。ですが、くれぐれも下がった場所からで、お願いします」
そう言ってブラウエリヒトはまた千尋に笑顔を向ける。勝ち誇ったよつな余裕の微笑みで千尋は応える。
「畏まりました……」
王城へ向かう道すがら。先頭をブラウエリヒトが進みアリシア、メネシオン、ターニャの順に並び、最後尾に千尋がいる。
「……どうして私なんだ?」
ブラウエリヒトには、聞こえないように小声でターニャが千尋に聞く。
「ついてきたかったでしょ?」
下らない事を聞いてきたかのように千尋は、ターニャに呆れ顔を向ける。確かに宿に残されていたら、今頃ぐるぐると歩き回って、アリシアを心配していただろう。
「……確かに、そうだが……」
「どうかされましたか?ターニャ様?」
少し遅れて歩くターニャを心配して、声をかけるブラウエリヒト。
「いえ、失礼。メイドの歩みが遅いもので……」
笑顔をこちらに向けているのに、一向に目尻が下がらないブラウエリヒトに、ターニャも千尋同様の何かを感じてしまう。
「あの人、怖いな……」
ターニャが呟くと、千尋が同意しつつも、補足する。
「あれは人を見下しているのよ。人全般か、女かはわからないけど……」
「だから既視感があったのか……」
ターニャが交互に千尋とブラウエリヒトを見ていると、いつかと同じ様な張り付いたような笑顔を千尋がターニャに向ける。
「騎士様は、寡黙なほうがよろしいではなくて?」
暗にこの先は喋るなと、千尋はターニャに釘を差した。ブラウエリヒトが何者で、レオニス・エーダフォストと言う王が何を考え、この男を使者に選んだのか。
そんな事に千尋が思考を巡らせているうちに。王城の門が見えてきた。白い壁に黒い鉄の大きな扉、吊り橋に掘りと、見た目の良さと警戒心の強そうな城構えが、ブラウエリヒトに似ていると千尋は思っていた。




