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王都への招集

 神官達がエーダフォストの王都、ルナミリアからの報せを持ってきたのはメネシオン達が領主の館に厄介になり始めて、1週間が経った日の事だった。


「……アリシア様、レオニス・エーダフォスト王より、書状を賜りお持ちしました」


 エルフ信教の神官の1人が傅きアリシアに渡してきたのはルナミリアの王、エーダフォスト18世からの書状だった。神官は筒に入ったそれをアリシアの前まで持ってくると跪き、差し出すように頭上に掲げる。


「ありがとうございます」

 

  受け取ったアリシアが、同席している面々の顔を見る。メネシオンは大きく頷き、千尋は興味なさげに神官を観察して暇をつぶしているように見える。千尋の隣にいるターニャがかわりに頷き、アリシアは書簡を開く。


「王はなんと?」


 アリシアの左右に立っている執政官の1人、ウルブリヒトが冷静に聞き、ブュートリッヒは落ち着かない様子で脂汗をかいている。


「そ、そうです。どのような内容で?」


「勇者はルナミリアに来るようにと……。召集令状です」


「それでは……」


 そう、アリシアは領地を離れなければならない。そうなると代理なりなんなりを立てなければならい。


 アリシアと2人の執政官が一斉にマリアベルを見る。領主の血筋で残るのはマリアベルのみなのだから突然だろう。


「ボクしかいないよね……」


 マリアベルがビシッと自分の両頬を叩き、少し痛みで頬を赤く染めながら立ち上がる。


「よし!このマリアベル・フィル・ブライヤが領主を務めよう!……。但し、アリシアが帰ってきたら、ボクは旅に出るよ?ボクもいつか勇者になるんだ。妹ばっかりにいい格好はさせられないからね!」


 マリアベルのその決意を、まるで好きにすればと言うように千尋は鼻で笑う。カッツェもまた微笑む。アリシアを門出を前向きに見送り、自分の夢は諦めないマリアベルの心根を喜ぶ様に。


「さあ!3人の勇者たち!旅立ちの準備だ!」


 早速領主気取りのマリアベルが爆弾発言で、場を凍らせる。神官たちは自分たちの知らないもう1人の勇者がいる事実に困惑し青ざめ、千尋はやってくれたなとマリアベルを睨みつける。


「へぇ~、神官の皆様も初耳よね?」


「あきらめましょう千尋殿。どのみちあなたもアリシア様と行くのですから……。主か従者か選べる立場なら主のほうがお好きでしょう?」


 千尋が舌打ちをするが、ウルブリヒトの言うことは間違いなかった。アリシアが王都に行くなら、ターニャと千尋はついて行くだろう。どうせなら主として、チュクチを従者にしたほうが道中楽になる。それは間違いなかった。


「わかったわよ、わたしが3人目……」


「さ、3人目……?」


 パチパチと激しく瞬きを繰り返し跪いていた神官達が目を丸くする。

 

「考えてもみなさいよ。3人消えて1人だけ証なしとかあり得ないでしょ?」


「で?結局、そのルナミリアって所に皆で行くわけ?」


 飽きたようにメネシオンが、口に出す。


「まじ!皆で行くの!」


 大きな胸を揺らしながら飛び跳ねるシュナレ。男性陣がなるべく見ないように目を背ける中、ブュートリッヒの脂ぎった視線だけが、シュナレの揺れる胸を追いかけている。


「わかりました、お姉さま。暫く領主をお任せします。ウルブリヒト、ブュートリッヒ。よろしく頼みますよ?」


 アリシアの決意も固まり執政官2人に領主代行を託した。ウルブリヒトはすぐさま答える


「はっ!」


 ブュートリッヒはシュナレの胸を追いかけるのに夢中になり、一瞬返事が遅れる。


「え……あ?はい!」


「ここ、ゼルディアからルナミリアまで、馬車で3日ほどかかります。アリシア様の従者はターニャ殿でしょう」


 ターニャが一歩前に出て、背筋を伸ばし力強く頷く。


「もちろんです。このターニャ、粉骨砕身頑張ります!」


 そうやって宣言する姿は、奇しくも千尋に助けられた時とは違い、騎士の様に立派に見えてアリシアがパチパチと拍手する。


 咳払いをするようにしてウルブリヒトは話を進める。

 

「……まあ、千尋殿の従者は」


「はい、僕が!」


 頭の犬のような耳をピンと立ててチュクチが名乗り出る。隣にいたクロエが、くくっと笑う。


「少年だけでは大変じゃろうから、妾も行こう……」


「はぁ?……、まあいいわ」 


 チュクチはともかくクロエの同行に、渋々といった感じで千尋が了承する。


「最後はメネシオン……様と、シュナレ殿ですか?」


「は~い」


 シュナレが手をあげるが果たして従者と言えるのか、一同不安げである。その不安を誰よりも感じているウルブリヒトが提案する。


「もう1人くらい同行者をつけますか?。身の回りの世話役くらいいた方が……」


「別に自分で出来るし……。まあ、いてもいいけど?」


「では……」


 ウルブリヒトが適任はいないかとメイドや執事を見つめる。


「あの……。わたし……でも?」


 おずおずと手を挙げたのはハーゼだった。最近になって使用人の館の担当から、食客のクロエの世話をしている。破天荒なクロエに振り回されてはいるがそれ故にメネシオンやシュナレの扱いもやってのけるかとウルブリヒトは考えた。


「クロエ殿はどう見ます?」


 話を振られたクロエは満更でもないと胸を張り、自分の従僕に太鼓判を押す。


「かまわんじゃろ」


 なんで偉そうなのかはよくわからないが、異論がないのを理解したウルブリヒトは当のメネシオンに同意を求める。


「構いませんか?」


「……まあ、どうしてもっていうなら?……、いいけど?」


 恥ずかしそうに髪を弄びながら返事をするメネシオン。こちらの反応もよくわからず、ウルブリヒトはため息をつく。そして、取り敢えず同意を得たので話を進める。

 

「わかりました、では明日の朝に出発と言うとこで……」


 こうして人とエルフ、そして魔族と獣人と言う風変わりな冒険の一団が出来上がった。


 翌朝、事件が起こった。千尋にとっては天を揺るがす大事件だ。


 異世界人の千尋を起こしに来たのはハーゼが飼い始めたジャギュアの子、ジャギーだった。仰向けにすやすやと眠る千尋の上にジャギーが飛び乗る。元野生動物とは思えない行儀の良さで、千尋の胸の上に座ると声を上げた。


「ほら、朝だよ」


 ジャギーが喋った。


「分かってるわ、チュクチ……」


 チュクチは旅の支度で忙しい。ハーゼも同様だ。意外と低血圧で朝の弱い千尋を起こしてきてとハーゼに頼まれて、ジャギーが起こしに来たのだ。


「もう!チュクチと間違えるなんて……」


 後ろ足で器用に耳をかきながら、ジャギーは当たり前のように不満を漏らす。その反応と、胸を圧迫する感覚に千尋の意識は覚醒していく。


「やあ?起きたね」


「ジャギー?」


 ジャギーは起きた千尋にマーキングをするように頬擦りをする。


「そ、ジャギーだよ?」


「なんで喋ってるの?」


 微動だにせず千尋は目の前の猫のような獣に問いかける。


「そりゃジャギュアだもの。大きくなったら喋るよ?」


「あり得ないでしょう?」


 千尋の世界の猫は話さない、そんな事をこの異世界の猫のような獣は知る由もなく、ジャギーがキョトンと首を傾げる。


「起こしにきたことかな?」


「会話してることよ」


「そりゃジャギュアだもの。大きくなったら……、さっきもこの話しなかった?」


 首を捻るジャギーとは埒が明かない。何でしゃべるのか問いただしても、同じ返事が来ると理解した千尋は徐に起き上がる。


「いいね、やっと起きる気になったね?」


 ジャギーはベッドから飛び降りると、長い尻尾をピンと立てて歩き出す。


「ついておいでよ?皆、旅の支度で忙しいんだ」


「……わかったわ」


 最低の起床だったが、気分は悪くない。部屋を出るジャギーに、相変わらず着替えもせず寝間着でついて行く千尋だった。


「あ、千尋!おはよう。ジャギーありがとね!」


 旅に持っていくのか何枚ものリネンを畳ながら、ハーゼはジャギーに礼を言う。


「なあに、大したことないよ?」


「大したことあるわよ……、いつから喋りだしたの?」


 ハーゼは、ああ。そうでしたという様に苦笑いをした。畳終わったリネン類を抱えて歩きながら千尋の質問に答える。


「そうなの!昨日からね?喋りだしたの!」


 千尋はため息をついた。どうせだめだろうと思いながら、この世界の常識を問いただす。


「なんで喋ってるの?」


「何でって、ジャギーは大きくなったら喋るよ?」


 飼い猫は飼い主に似ると言うが、本当にそうなのだなと千尋は理解した。ハーゼとジャギーの頭の構造が一緒な事と、この世界の猫は喋る事を。

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