長島城脱出
義昭を追放した信長は長年の敵だった朝倉、浅井を滅ぼした。
これにより戦力に余裕が出て来た織田軍はその兵力を本願寺に向け始め、伊勢長島では次々に城が織田軍に落とされ、長島の城も織田軍に包囲された。
そして、運悪く私達はその城の中にいた。
「久秀様の身内と言ったら、見逃してくれませんかね?」
「久秀様は信長に叛旗を翻しているんだから、逃がしてくれるどころか、捕まえられて処刑されるに決まっておろうが」
「ですよねぇ」
私の記憶では信長は一向一揆衆を全員なで斬りにしたはずで、ここが陥落したら、きっとそんな目に遭わせられてしまう。
なんとか逃げ出したいところだけど、手が見つからない。
そんな中、一揆衆たちがざわめき始めた。
騒然とした雰囲気の中、一揆衆たちがどこかに向かっている。
「何かあったんですか?」
藤井が一揆衆の一人にたずねた。
「顕如様が捕まえられたらしい」
「えっ?」
私たちはその言葉に顔を見合わせた。
正直、信長に本願寺が破れた事は歴史的に知っているけど、顕如が捕らえられて長島に連れて来られたなんて聞いた事がない。
「ともかく、行ってみましょう」
藤井の言葉に私たちも人々が向っている場所に向かった。
城壁に群がる一揆衆たち。その向こうは見えやしない。
もっとも、彼らだって城壁が邪魔で顕如の姿なんて見えるはずもない。
「顕如様」
「顕如様」
見えもしないと言うのに、みなは顕如の無事を祈っている。
もし、顕如が生臭坊主でなく法力を持っているなら、感じる事ができるに違いない。
そんな思いで辺りの気配を探ってみる。
すると城の外に大きな力が一つあった。が、それは邪気である。
「外に強力な妖がいます」
「なに?」
私の言葉に空真と有脩が言ったものの、二人は感じ取れないらしい。
「お前たち、素直に降伏し、門を開けなければ顕如の命はないぞ」
城の外から声がした。
どうやら、顕如を人質にして城門を開けさせる作戦らしい。
「門を開けるべ」
「そうじゃ。顕如様の命にはかえられねぇ」
一揆衆たちは開門に傾いている。
「絶対怪しいです。
顕如様じゃないと思います」
「分かった。
今までも妖の術にかからなかったルリ様がそう申されるのですから、下間殿に話してみましょう」
藤井がそう言って、下間に事情を話に行った。
下間は私たちを外が見える場所に連れて行った。
城の外は大勢の織田の兵達に取り囲まれていて、城門の正面に磔にされた大蛇が一匹いた。
「あれが顕如様だ。
確かにお姿は顕如様だが、我らも戸惑っておる。
石山の城が落ちたと言う話は聞いていない。
顕如様でないと我らも信じたいのだ」
下間が言った。どうやら、大蛇がこの下間にも顕如の姿に見えているらしい。
「あれ、大きな蛇の妖ですよ」
「本当なのか?
だとして、その正体を暴けるか?
さもなくば、この城の者たちを納得させることはできまい」
「なら、あれを使ってみましょう」
空真がそう言って、さなに視線を送った。
さなは頷くと、念珠筒を取り出して構えた。
「この距離なら、届くはずです」
そう言って、さなが引き金を引いた。
ドォン!
そんな音と共に空真の念が込められた念珠が飛び散った。
次々にその念珠が大蛇の妖を直撃する。
この念珠、強大な妖を倒す力は無くとも、それなりにダメージを与える事はできる。
さっきまでその妖力で自身の姿を顕如に変えていた大蛇もたまらず、本当の姿を現わした。
「おお。ありがたい。
これで心置きなく戦えると言うものだ。
皆の者、あれは顕如様ではなく、顕如様に化けた蛇の妖であったぞ」
下間の言葉に一揆衆は安堵に包まれた。
「顕如様が捕まる訳ねえだ」
「俺たちをだまそうとしてたのか」
顕如の姿をした者が妖だとは織田の軍勢たちも知らなかったらしい。
織田の軍勢は混乱し始めていた。
「おお。妖だぁ。
妖だ」
「逃げろ」
一部の兵は妖から逃げ出し始めた。
「たわけ者。
戦え、戦わぬか!」
「こんな妖、我らでは戦えませぬ!」
武将の命に背く兵の言葉が聞こえてくる。
兵たちもこの妖は強いと感じ取っているのだろう。
さっきまで大人しく顕如の姿で磔にされていた妖だったが、大蛇の姿となってからは暴れ始めた。
織田軍の味方だったのかとも思えたけど、今ではその織田軍を襲い、織田軍は混乱状態だ。
「今だ!」
「顕如様を侮辱しやがって!」
包囲している織田軍が混乱状態と知った一揆衆たちが門を開け、打って出始めた。
好機と言うだけでなく、顕如の姿に化けた妖を連れて来た事が彼らの怒りに火をつけているのだろう。
「さて、どうしますか?」
空真がたずねた。
「この混乱状態では、出て行く訳にもいくまい」
藤井が答えた。
「でもですよ。出るとしたら、今しか無くないですか?
ここに留まっていて、織田軍の攻撃にいつまでも耐えられるとは思えませんけど」
「ルリ殿のお考えも一理あるかと。
われらが一揆衆と運命を共にする理由はありませぬし」
有脩が言った。
「なら、行くか?」
藤井の言葉にみな頷いた。
雪崩を打って城門より攻めだしている一揆衆に混じり、織田の兵達に迫っていく。
戦いは一揆衆、織田軍、妖の三つ巴の戦いだ。
わしたちの本来の敵である妖ではあるけど、ここで妖を倒すと充実した兵装の織田軍と貧相な兵装の一揆衆の戦いになってしまうため、大蛇には目を瞑ってやり過ごすし、この場を離れる事に専念する事にした。




