望月千代女
私と巫女が放った破魔矢が迫って来ていた二体の鬼に到達した。
眩い光を放ち、鬼の巨体に穴を開けていく。
「ぐぅわぁぁぁぁ」
その悲鳴を最後に光の粒となって、二体の鬼はこの世から消え去って行った。
「ありがとうございました」
私が巫女に言った。
「助かりました」
空真たちも言った。
「いや、妖退治は私たちの仕事」
その巫女は言った。
「そなたたちも妖を退治しているのであろう?
柳生宗厳の手の者とみておるが」
「左様です。
皆様方は?」
そう言ったのは藤井である。
「私は甲斐の武田に仕える巫女 望月千代女。
この者たちは私の配下の者たちである。
巫女として妖を退治すると共に各国の情報を調べていたのだが、此度国許に集結する事とあいなり、これより帰国させる途中である」
「歩き巫女様でしたか」
どうやら、空真はこの人たちの事を知っていたらしい。
「しかし、国許に集結とは穏やかではございませぬなぁ」
「御坊、何を申される。
松永殿に仕えるお方たちゆえ、素性を明かしたまで。
ご主君の松永殿も織田殿に叛旗を翻しておられるではないか」
「すると、武田殿も?」
「左様、わがお館様は織田信長は強大な妖の恐れありとみて、我らを集結させておられる。
そのほうたちといずれは手を携え、信長に挑む事になるやも知れませんなあ」
「我らが主は織田との戦いにまだ我らを投入してはおりませぬが、いずれそのような事になれば、皆さまのような方と共に戦えれば、心強い限り」
「何を申されるやら。
そちらには法師様に陰陽師、それに巫女が二人もおられるではないか」
「あ、すみません。
私は見習いです。巫女ではありません」
期待され過ぎると困るので、望月と藤井の話に割って入った。
「そなたは見習いだと申すのか?
酒呑童子を葬りながら?」
「あれは望月様からお分けいただいた破魔矢を使っただけで、力はその破魔矢のものですから」
望月は私をじっと見つめた後、笑い出した。
「はははは。面白い女子である。
まあ、よい。
いずれ共に戦う時を楽しみにしておるぞ」
「はい。ところでこの破魔矢、ただでもらってよいのですか?」
「かまわぬ。
存分に使えばよろしかろう」
「ありがとうございます」
卑弥呼様の破魔矢が無くなってから、戦いには直接参加できなかった私だけど、これで再び参戦できるようになった。
「では、我らはこれにて」
そう言うと、望月たちは甲斐を目指して去って行った。
「お館様。
望月千代女、巫女たちすべて国許に集結いたしました」
「おお、千代女、戻ったか。
して、信長の正体に関し、何か分かったか?」
「織田信長、確かに人ならざる者の疑い多々あり。
されど、妖が人に化けていると言うのではなさそうです」
「と、言うと?」
「はっきりとは分かりませぬが、人の器に妖を入れたのではと。
それゆえ、中に入っている妖の力が読めませぬ。
とは言え、きっとかなり強大な妖と推察いたしまする」
「ふむ。
ならば、そなたたちの力、期待しておるぞ」
「はい」
「しかし、信長と言う器に妖を入れたとして、誰がそのような事をしたのじゃ?」
「信長の周囲を探ってはみましたが、残念ながら何も掴めませなんだ」
「左様か。
致し方あるまい。
戦はまずは徳川家康。徳川相手にそなたたちの力を使う事はあるまいが、信長が兵ではなく妖を援軍に送って来ると言う可能性も捨てきれぬ故、警戒を怠らぬよう頼んだぞ」
「お任せを」
そのしばらく後に武田の軍勢は徳川領に攻め込んだのだった。




