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三方ヶ原の戦い

 武田信玄は遠江に攻め込むと、徳川方の城を落とし始めた。

 度重なる徳川よりの救援要請を受けた織田信長だったが、本願寺、浅井、朝倉など周囲に敵を抱える織田軍には徳川の救援に割く十分な兵力は無く、佐久間信盛、平手汎秀に数千の兵を付けて送るのが限界だった。

 しかも、この二人には極力徳川の兵にて武田の兵を減らし、織田の兵を極力減らさぬ事と言う命が密かに下されていた。


「殿。武田の軍勢は進路を西にとりました」


 数日前に落とされた二俣城を出立した武田の軍勢が向かう先を物見がそう知らせて来た。


「西じゃと?

 どこに向かう気じゃ?」

「浜松を素通りする気か?」

「我らとの籠城戦を避けたのでは?」


 報告を聞いていた徳川の重臣たちが戸惑いを見せている。


「殿、いかがなされますか?」

「信玄の狙いが読めぬが」

「岡崎との間を断ち、浜松を孤立させる意図があるやも知れませぬ。

 だとすれば、籠城の策では時間は引き延ばせても、いずれ攻め落とされるのは必定」

「とは言え、武田相手に多勢に無勢。

 打って出て勝てましょうや?

 籠城して時間を稼げば岐阜殿や岡崎の兵による救援が期待できましょう」

「左様、無用な戦は避けるべきじゃ」

「佐久間殿。

 佐久間殿のお考えをお聞かせいただけませぬか?」


 結論の出ぬ議論に、家康が佐久間に意見を求めた。


「左様。

 皆々様方のお考えは決戦には乗り気でないようにお見受けいたす。

 さすれば、我らは城に籠って、お手伝いをいたすまで」


 佐久間はそれだけ言うと目を閉じた。

 それは佐久間の意図どおり、戦をしないつもりかと言う無言の威圧だと家康は感じ取った。


「援軍が無ければ、武田に降りるまで。さすれば、尾張、岐阜には武田の軍勢に合わせて三河の軍勢が押し寄せる事になるやもしれませぬ」と信長に脅すような事を言って援軍を勝ち取ったのだ。

 佐久間は援軍でもあるが、武田に寝返らないよう監視する命をも帯びているはず。

 佐久間が何も言わぬのは我らが信じるに足る相手かどうか見極めようとしている。

 ここで城に籠り、やり過ごした武田の軍勢が岡崎までも通り過ぎ、尾張に攻め込めば、信長は徳川は武田と通じていると思うに違いない。


「織田殿より援軍もいただいておりながら、我らの目と鼻の先を通る敵軍を何もせず見送ったなどとあっては、わしの面目が立たぬ。

 武田の軍勢は我らに背を向けておる。

 背後より敵を襲うは容易き事。

 武田の動きを見定め、武田を討つ!」


 家康の決断が下された。

 徳川方は武田の軍勢の動きから三方ヶ原を過ぎた辺りで追いつくと見立て、追撃をかけた。

 だが、徳川の軍勢が三方ヶ原で武田の軍勢に追いついた時、武田の軍勢は背を向けてはおらず、魚鱗の陣で向き合っていた。

 武田の軍勢の一部はすでに三方ヶ原より先に進んでおり、後方の一部が徳川方の追撃に気づき、魚鱗の陣で向かい合っている。そう読んだ家康は鶴翼の陣で迎え撃ち、包み込んで武田の軍勢の殲滅を図った。

 そして、両軍の激突が始まった。


 突撃力に勝る武田軍の攻撃を鶴翼の陣で抑え込む事など、徳川の兵では不可能だった。

 しかも、少数と見込んだ武田の軍勢だったが、後方にも控えていて、それは武田の全軍、すなわち数は徳川方を上回っていた。

 その事に気づいた時はもう遅く、徳川家康は自らの命を狙われる状況に陥っていた。

 目の前の兵たちは次々に餌食となり、迫って来る武田の軍勢。

 家康は慌てて戦場から離脱を図った。が、ここで家康の首をとらんとする武田の猛攻は容易に振り切る事ができず、次々と家臣たちが身代わりとなっては討ち取られ、なんとか浜松城に逃げ込んだ時は数名の供回りだけとなっていた。





「信玄坊主は三方ヶ原で徳川を打ち破り、喜んでおるであろうのう。

 しかし、それが自身の命を縮める事になるとは知るまいて。

 もう少しじゃ、もう少し死人の魂が必要じゃ」


三つ目の鳥を前に、その人物が言った。

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