信長 和睦
三好長逸に憑りついていたお稲荷様のお使いは去ったものの一度始まった戦はそれで終わったりはしなかった。
信長の戦力の多くが叡山に割かれている事を好機と三好勢の攻勢が強まっただけではなく、南近江を奪われていた六角も挙兵した。
信長と反信長勢力の戦いは六角勢を敗走させはしたものの、堅田での朝倉勢との戦いや長島の一揆衆との戦いで敗北を喫するなど、決して信長有利と言う状況ではなかった。
この状況を打開するため、信長は朝廷、将軍 義昭、松永久秀などあらゆる勢力を使って、講和の策に打って出ていた。
「上様。
織田様と本願寺、朝倉、浅井との講和、全て相整いました」
政所執事の摂津晴門が言った。
「左様か。
それは重畳」
「ですが、上様。
本願寺顕如より、書状が参っております。
そこには織田様への疑念がしたためておられますが」
「なに?
織田殿に疑念じゃと」
そう言って、義昭は顕如からの書状を手に取った。
そこには信長が第六天魔王であり、妖たちを操っている可能性があると記されていた。
「ばかな。
左様な事ありえる訳がない。
織田殿が第六天魔王であるなら、法力にて妖を討伐していた私が気づぬ訳がない」
「しかし、顕如殿は確信しておられるようではありませんか?」
「ぬぅぅ。
ならば、他の者の意見も聞いてみようではないか」
「どなたのでしょうか?」
「上杉謙信と武田信玄じゃ。
知っておるか、上杉殿と武田殿が川中島で戦ったのを。
何度目かの川中島での戦いで、二人は一騎討ちを行ったことがあるのだが、その時、上杉殿はついにその本当の姿 毘沙門天を見せたのだ。
毘沙門天と言えば並の者なら勝てぬ武神だが、出家しその法力を高めておった武田殿はその力で毘沙門天の力を防いだのだ」
「上杉殿が毘沙門天だと言うのは誠だったのですか?」
「左様。
それゆえ、その上杉殿とその力さえも防いだ武田殿を呼び、織田殿と対面させればよいのではないか?」
「それは名案。
すぐに手筈を整えましょう」
「ならば、二人に上洛するよう書面をしたためよう」
「よろしくお願いいたします。
それと、もう一つよろしいでしょうか?」
「なんじゃ?」
「ここのところ京だけではなく、大和の地でも妖が多くなってきております。
松永殿の力はすでに限界。大和の地の安全を保つことはもはや不可能」
「他によい者がおると申すのか?」
「筒井順慶がよろしかろうと」
「しかし、久秀に切り取り次第で与えた大和を今さら、筒井にとは言えぬであろう」
「筒井順慶は武はもちろん仏の道にも通じており、妖討伐も含め、大和を治めるに適任かと。
妖を討伐するにあたり、武の力のみでは困難。
その事は松永殿も理解しておる故、京の都より土御門を半ば強制的に連れ出し、柳生たちの妖退治に助勢させておるのでしょう」
「なに?
知らなんだが、土御門を連れ出しておるのか?」
「左様」
「ぬぅぅぅ。
久秀め、京の安全をなんと考えておるのか!」
「よかろう。
大和の事、そちに任せる」
「ははっ」
その話はすぐに摂津より筒井に届けられ、時を置かずして松永の耳にも届いた。
松永はその件に関し、信長に意見を求めた。これまでの戦での貢献はもちろん、三好との和睦にも注力した功績が無かったかのような、信長の「上様が決めた事をどうする事もできない」と見捨てるような言葉に久秀の心の中に義昭だけでなく、信長に対する不信感も芽生え始めていた。




