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杉谷善重坊語れり

「俺は浅井家の遠藤直経様に雇われていた」


 杉谷善重坊はそう言った。

 遠藤直経の名には覚えがあった。

 姉川の合戦で味方の武将の首を斬り落とし、その首を持って信長に近づき、信長を殺そうとした武将だ。


「遠藤に?

 なんと?」

「信長は人ならざるものの疑いあり。

 それを確かめてほしい。

 もし人ならざるものであるなら、その事を本願寺顕如に伝えてほしい。

 そして、三好長逸殿と連絡をとってほしい。と」

「なにゆえ、遠藤殿の口から三好長逸の名が?」


 柳生がたずねた。


「その理由は聞かされてはおらぬ。

 ただ、人ならざる者に相違なしと伝えて欲しいと頼まれたのだ」

「なるほど。

 で、結果は信長様は人ならざるものと?」


 杉谷善重坊は頷くと、信長を銃撃した日の話をし始めた。




 信長を人目の多い京の街中で狙うより、自分の身を隠せる木々の中から静かに近づいてくる信長を狙う報が確実。

 杉谷善重坊はまずそう考えた。

 朝倉と共に敵に回った浅井を避けながら岐阜に戻るとすれば、信長が通るその街道は千種街道に違いない。

 そう踏んだ杉谷善重坊は千種街道に沿って木々が生い茂る森の中に潜んでいた。

 そして、その日、予想通り信長の軍勢が姿を現わした。

 織田木瓜をはためかせ、しずしずと近寄って来る軍勢。

 杉谷善重坊は銃二つを背負い、木の上にその身を潜めた。

 通り過ぎる軍勢の中ほどの馬上に信長の姿を確認した。

 二つの銃の火縄はすでに準備済みだ。

 最初の銃を構え、馬の手綱を持つ腕に狙いを定めた。


 バン!


 鉛玉が放たれた。

 杉谷善重坊が効果を確かめようと、銃をおろし、信長に目を向ける。


「殿、ご無事でしょうか?」

「お怪我は?」


 信長の周辺では蜂の巣をつついたような騒ぎが起きている。

 次々と将や兵たちが信長の身を守ろうと、その周りを囲み始めた。


「無事じゃ。

 鉛玉ごときが、このわしに当たる訳あるまい」


 無傷?

 杉谷善重坊は慌てて次の銃に持ち替えて、銃口を信長に向ける。


「どこだ?」

「敵はどこにいる?」


 信長の周りを固め終った信長の将や兵たちが信長を狙った犯人の居場所を探し始めた。


 バン!


 今度は頭を狙った。


「殿、お怪我は?」

「くどい。鉛玉などでこのわしが倒せるものか!」


 やはり無傷である。

 百発百中の名手による銃撃が二回も続けて外れる事などあり得ない。

 だとしたら、信長が言うようにその体は銃弾を受けながらも、傷つけられない強度を持つと言う事だ。

 そんなものがこの世にはいる。

 妖だ。

 それも、強力な妖。

 杉谷善重坊は慌てて木から降り、その場から逃げ去ると近くの寺に逃げ込んだ。

 そして、僧侶姿に身を変えて、願証寺にやって来た。




「この話、どう思う?」


 柳生が空真にたずねた。


「善重坊の銃の腕は間違いありません。

 おそらく銃弾などでは倒せない妖なのかと」

「やっぱ、第六天魔王なんですね」


 私が言った。

 他意はない。織田信長と言えば、第六天魔王だ。


「なに、第六天魔王ですと?

 第六天魔王と言えば、仏の教えの敵」


 空真が言った。


「仏の敵。つまり妖。それも王を名乗るくらいですから、あやつは最強の妖と言うことですな」


 杉谷善重坊が言った。

 二発の銃で傷つけれなかった原因をそこに持っていきたいらしい。


「いえ、そう言う意味ではなく、本人が言ってただけで」

「ルリ殿はその話を信長様から聞いた事があるのか?」


 益々追及されてしまった。

 歴史的にそう言ってたらしいですと答える訳にも行かず、どう説明したものかと悩んでいると、有脩が言った。


「左様。以前、信長様を遠目に見た事がありますが、私もそう感じていました。

 あの者は強大な妖」

「有脩様もですか?」


 有脩がそう言った。

 えっ? マジですか?

 なんで、今さらと言う気がして、信じられない。

 だが、そんな私の思いとは関係なく、場の雰囲気は信長は第六天魔王を名乗る強大な妖と言う事に決定的になって行こうとしている。


「うーむ。妖の中でも王となれば、さぞ強いのであろう。

 それでは打つ手も無し。困ったではないか。

 魔王である信長様の目的はなんだ?」

「目的は天下統一。

 言い方が悪かったようですけど、信長様は人間だと思いますよ」

「ルリ殿。

 信長様は自らを第六天魔王と言ったのであろう?」

「本人が言ったのは言ったらしいのですが、書物で読んだだけですし、単なる例えではないかと」

「人なら、鉛玉が貫通せぬ訳あるまい」


 杉谷善重坊が私を威嚇するかのような大声で言った。

 自分の腕が疑われているかのような言葉が気に障ったのかもしれない。


「うーむ、どうしたものやら」


「それもそうですが、信長様が魔王だったとして、どうやって倒すのですか?

 そうたやすく、近づけませんよ」


 藤井が言った。


「常時、信長様の周りには織田の兵が警護についておるからのう。

 これらと戦いながら、信長様に近づき、魔王を相手にする事になる。

 たとえ近づけたとしても、戦いに時間がかかれば、信長の兵達が駆けつけてきてしまう。

 無理だな」


 柳生がきっぱり言った。


「こちらも、それなりの兵力が必要そうですね。

 三好の軍勢が欲しかったですね」


 藤井が言った。


「お稲荷様のお使いを追い払ったのは失敗です」


 卑弥呼様が冷たい視線を私に向けて言った。


 ええっ?

 私、悪者ですか??

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