使い切ってしまった卑弥呼様の破魔矢
なんで卑弥呼様の破魔矢に威力が無かったのか。
急に手を離れてしまったからかも知れない。
その答えを考えている余裕もない。
女性は藤井の直前にまでたどり着いていた。
その時、辺りの空気が一気に冷え始めた。
藤井は驚いた表情で、その体全体が白くなり始めた。
「雪女か!」
空真が叫んだ。
「雪女だと!
父上の仇め!」
有脩が叫んで、雪女に向かって行く。
たとえ有脩に打つ手が有ったとしても、間に合わない。その前に藤井は凍り付いてしまう。
私は構えていた破魔矢を雪女に向けて放った。
破魔矢は軌跡周辺の妖たちを消し飛ばし、雪女に向かう。
「逃がすか」
藤井が凍り付き始めた体ながら、破魔矢に気づき後退しようとする雪女の腕を掴んで逃がさないようにした。
破魔矢が雪女に到達した。
その場所を中心に眩い光が拡がり、雪女は光の粒となって消え去った。
「ありがとう。ルリ殿」
藤井はそう言ったものの凍り付いた体だけに動きが鈍い。
駆け寄ったさなが藤井をかばいながら、妖たちを退治している。
雑魚の妖たちが撤退しないと言う事は、柳生が手こずっている化け猫がこの妖たちを率いている?
私の弓の腕ではあの素早い動きの化け猫を退治する事はできない。
私にできる事。
そう思った時、清子様の言葉が頭の中によみがえって来た。
迷いや恐れを断ち、心静かに。
ふぅぅぅぅ。
深呼吸して、心を落ち着かせる。
妖たちに心が乱されないよう、目を閉じる。
清く澄んだ空間に邪な小さな気がうじゃうじゃと浸食してきている。
それらより大きな邪な気が一つ。それは激しく動き回っている。化け猫?
そして、さらに大きな邪な気が一つ。背後から私たちに近づいてきている。
「もっと大きな妖気が私の背後にある!」
私が叫んだ!
「なに?
この化け猫は囮か?」
化け猫に手こずっている柳生が最初に反応した。
柳生がそう言った時、私の背後の林の中から木々をなぎ倒しながら、大きさ3mくらいの妖が現れた。
あきらかに鬼だ。それも青鬼だ。
鬼は人の刀では斬れない。
ここで倒せるとしたら……。
柳生は化け猫で手一杯。
藤井は負傷中で戦力ダウン
さなはそんな藤井を守りながら戦っていて、戦力ダウン。
空真は戦力ダウンした仲間の中で数多の妖相手に奮戦中で、鬼を相手にする余裕は無い。
有脩は?? 頑張ってくれていそうだけど、鬼を相手にできるとも思えない。
卑弥呼様は?? 絶不調?? そもそも秘密兵器??
鬼を相手にするのは私しかいない。
ただ、卑弥呼様の破魔矢は一本しかない。
外さないためには、至近距離から放つのが確実。それは一人ではできない。
「有脩様。
あの青鬼を狙うのを手伝ってくれませんか?」
有脩は見たところ、空真には及ばないが、それでも使えないレベルではない。
「分かった」
有脩は快く私の願いを受け入れてくれて、駆け寄って来てくれた。
「ぐぅぉぉぉぉ」
青鬼が暴れ始めた。
大きな拳で私に殴りかかって来た。
それを横っ飛びでかわす。
私にかわされた鬼の拳は地面にぶつかり大きなくぼみを作った。
攻撃特性は物理的な破壊力だけっぽい。
その動きは化け猫ほどではないが、決して鈍いと言う事はない。
鬼の出現に柳生が化け猫より鬼を優先しようと、こちらに向かう素振りを見せる。すると素早く化け猫が柳生の背後を襲おうとする。
柳生はそこで足止めとなる。その繰り返しだ。
やはり、私と有脩で倒すしかない。
「有脩様の呪符で鬼の足止めはできますか?」
「一度に何枚も使えば」
「お願いします。
動きが止まった所に破魔矢を打ちこみます」
「任せてください」
有脩が手に持っていた何枚もの呪符を一度に青鬼投げつけた。
「ぐふっ」
青鬼がそんな声を上げた。
チャンスとばかりに駆け寄り、破魔矢を構える。
そんな私に青鬼の拳が再び襲い掛かる。
ダメじゃん!
ドォン!
私の耳に念珠筒の咆哮が届いた。
私の作戦に気づいたさなが駆け寄って来ていたらしい。
念珠の嵐に襲われた青鬼の動きが一瞬止まった。
一度怯みかけた心を立て直し、破魔矢を青鬼に向けて放った。
破魔矢に襲われた青鬼は光に包まれた後、光の粒になって消えて行った。
そして、その衝撃に一瞬動きの止まった化け猫は柳生の刀により、一刀両断された。
多く犠牲を出しながらも生き残っていた雑魚の妖たちが退き始めた。
なんとか勝利した。
でも、卑弥呼様の破魔矢は全て使い切ってしまった……。
今後の戦う術を失い、戸惑う私に柳生が衝撃的な事を言った。
「奴らは本気になって来たのかも知れぬのう」
「えっ?
今までは本気じゃなかったんですか?」
「奴らにとっても、お稲荷様のお使いは敵だった訳だろ?
それを叩こうとしていた我らは奴らにとっては便利だったんじゃないのか?
今はお稲荷様のお使いは戦いから手を引いた訳だし、我らは風神をも撃退する力を持つと知らしめてしまった訳だしなあ」
「でもですよ。もう卑弥呼様の破魔矢無くなっちゃいました」
「卑弥呼様はおられるじゃないか」
「卑弥呼様はおられても、私は……」
「何を言う。
さっき、鬼がいる事気づいたのだろう?
これからも頼んだぞ」
って事は、私はこれからはレーダー役?




