王都脱出編―平穏な日常と終わりの使者④
「それで私達はどの兵舎に行くの?」
「ご不満が無ければ全ての兵舎に顔を出していただけたらと。」
「ま、今日は暇だしいいけど?」
「兵たちも喜びになるでしょう。」
「本気で言ってる?」「もちろん。」
そんなやり取りの後私達は予定通り第四兵舎、第三兵舎、第二兵舎を回り、第一兵舎へと向かった。どの兵舎の兵も素人目に違いがあるようには見えず、この程度の差ならすぐに縮まるのではないか、と言うのが素直な感想だ。まあ、知ったかをして恥をかくのは自分なので敢えて言及はしまい。
ちなみに各兵舎の兵の何人かは指導員と呼ばれる熟練の兵士らしい。私を見つけると真っ先に飛んできたあの者たちである。
働く中間管理職の様であったな・・・。苦労しているのだろう。
誰のせいだ、などと言うことは考えない。中間管理職なんてどの世界も同じなんだから。
そんな評価をしながらエリザは第一兵舎の門を開いたのだった。
扉を開けた瞬間――――――――
戦場の様なピリリとした空気をエリザの肌をなでる。
続いて聞こえる
がちゃがちゃと鳴る鎧のこすれる音。空気を裂く金属音。幾重にも重なる掛け声。銃音。拳音。蒸されるような熱気。先程までとは何もかもが違う。一国の国家騎士でもこれ程の士気で満たされてはいないだろう。
大迫力の3D映画でも見ているような、身震いするような圧力をエリザベータは感じていた。
「・・すごい・・・・。」
意図せず言葉が漏れ、
「ここまでとは思わなかったわ。」
思わず口元がにやける。
レインハルトは驚くエリザにお手本のような笑みを作った。
「ふ、そうでしょう。第一兵舎は他の場所とは違いますから。全ての兵士の憧れであり、見本であらねばならない。彼等には一群としての自負があり、実力も・・・まあまああります。いえ、実に優秀だ。・・・・・・。」
流連に紡がれる言葉。本気かどうかは知らないが、とても温かみのある声だ。しかし、ボソリと呟かれた最後の言葉だけは酷く冷たい物だった。・・・勿論エリザには届かないほど小さな声で。
『お前・・・相当性格悪いな。』
スライムには届いたみたいだが・・・。
二人と一匹がそんなやり取りをしてると、前方から慌ててこちらに向かってくる兵士が一人。米軍風のスキンヘッドの大男、軍曹、ババローネだ。
「これはエリザベータ様!このようなむさ苦しいところにまでよくぞ御出で下さいました!」
息を切らしながら軍曹は頭を下げる。
「気にしなくていいわよ。今日は偶然予定が空いてね、少し興味があったから。邪魔にならないようにこっそりと見学させてもらうわ。」
「と、とんでもありません!」
慌てて軍曹は否定を入れる。そして――
「おい!お前ら、何時までそんなことしてるつもりだ!シャキッと並んで挨拶せんか!!」
兵舎中に響くような大声を張り上げ、そう言った。
余談だが、第四、第三、第二兵舎も決して士気が低い訳では無い。ただ第一兵舎には鬼軍曹が常時いるので、緊張が桁違いなだけである。




