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王都脱出編―幕開け

 001――――――

 エリザベータが番犬の地位を下賜されてから数週間後。アルバート邸に珍しい客人が来ていた。時刻は正午。食事を済ませたエリザベータは身支度を整え、応接室に向かう。供に連れてくのはセバス一人。護衛騎士は付けない。危険があるような相手では無いし、何より内密にしたい話なのだ。

 応接室と書かれた重厚な扉を開き、中に入る。部屋の中にはまだ誰もいなかったが、緊張気味にソファーへと座った。三つある応接室の中でも一番厳重で、豪華な部屋。白い暖炉に、大理石でできたテーブル。繊細な絨毯。生け花、絵画。白を基調としながらの豪華すぎる装飾に違う意味で緊張してくる。

 「ああ~。」

 特に意味のない音声を発声。緊張を和らげるためなのだ。許してほしい。私は庶民なんだ。それに聞く話が聞く話。緊張するなというほうが無理な話だ。

 コンコン――――――――そんなことを考えていると、扉が叩く音が聞こえ、ビッシーっと背筋が伸びた。

 「グレンフォード侯爵がお見えです。」

 「は、入っております。・・・いえ、入ってよろしくてよ。」

 目上の人によろしくてよ、は不味かったかもしれない。いや、それ以前に失敗してる・・・。でも、おじ様なら許してくれるはず・・・。

 「エリザベータ様、落ち着いてください。グレンフォード侯爵は多少の非礼なら許して下さる御方です。」

 「そ、そうよね。大丈夫よ。分かってる。」

 「ゴッホん。それと、相手は侯爵ですので立ってお出迎えを。」

 「も、モチそのつもりよ。」

 エリザはいそいそと立ち上がる。ミランダに倣った礼儀作法を思い出し、手を前で軽く合わせ、扉の方を見やった。丁度すべての準備が終わるのと同時に扉が開かれる。

 「忙しいところ御時間いただきありがとうございます。グレンフォード侯爵。」

 深々と頭を下げる。

 グレンフォード侯爵は白髪のダンディーなおじさんだった。長髪は後ろで一つに束ねられ、口髭は綺麗に切りそろえられている。着ている服も侯爵の名に相応しい豪華なもので、しかし流水の様な洗練された雰囲気を与えた。

 ガチガチのエリザに侯爵はにこやかに笑う。

 「侯爵はよしてくれ、エリザベータ嬢。昔のように伯父さんと呼んでくれたほうが此方も楽だ。それとお招き預かり光栄だ。」

 「は、はい。お、おじ・・・。叔父様、此方にどうぞ。」

 やはりオジサンは駄目だと思った。

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