面接2
アルフォンスと十程の問答を交わした後、アルバート側の見解はなかなか良好だった。
武術の才能が有り、人柄としても信用が置けると言うもの。
面接どころか、人と会う機会自体少なかったエリザベータはぼんやりとしか分からなかったが、
―――アルバート家創設以来この家に仕える、―――――家臣最故山のセバスや、先代のころから我が家に仕えているミランダには確固たる確信があるようにエリザは感じた。
主人公補正でもあるのだろうか?などと邪推を内心働かせながら、アルが退室し空席となった椅子を眺め、面接受験者の二人目に入室を促す。
――――――――「失礼します。」と言う返事とともに部屋の扉が開かれた。
声はまだ幼さを残し、年若いのか声変りをしているようには感じられない。暗さは無く、明るい雰囲気を相手に与える声音で、そしてそれは様相も同じであった。
面持ちは、ともすれば少女とも見えるような整ったもの。薄い美空色の瞳、白銀色の髪は耳が隠れる程度に切りそろえられ、光の加減によっては純白に見えるだろう。身長は150センチ程で。少年は半袖の白いパーカーを着ていた。
この世界に面接にはスーツと言う習慣は無いのだなと確認を終え、エリザが第一声を切った。
「ユリウス・マーロンさんであってますか?」
「うん、間違いないよ。」
ユリウスは緊張でガチガチだったアルとは逆に、悠々と、むしろ友達の家にでも上がりに来たような気楽さである。これはこれでどうなのかしら?緊張しすぎるのは考え物だが、適度な緊張感くらいはもってほしいものだ。
ところで、このユリウス。本選で第三位。片手で巨漢をぶん投げたと聞いているが・・・
ユリウスの体躯は、身長も低ければ、筋肉質という訳でもない。エリザの常識から言うと、――――柔術や合気道の達人でも無ければ――――あり得ない結果である。
「ユリウスは本選で準決までコマを進め、かなり強いと聞いたのだけど。何か武術でも習っていたのかしら?」
「ううん、武術は一つも習ってないよ。・・・ただ、僕は神楽族だから、普通の只人よりは多少スペックは高いかもしれないけど・・・。」
(神楽族??)
さらっと不明ワードが出て来たが、今はスルー。
「そう、カグラね・・・。なら納得だわ。ところで、いきなりなのだけど趣味とか特技とか好きなもの、嫌いなものとか教えてくれないかな?」
この問いにアルは、特技は剣術、趣味は妹の世話、好きなもの:妹、嫌いなもの:妹に近づく男。と言うシスコンぶりを見せてくれたわけだが、ユリウスはシスコンでもブラコンでも無いことをエリザは祈った。
「趣味かぁ?特にはないかな。特技は~肉弾戦闘?嫌いなものも特にはないけど、好きなもの、と言うより好きな動物なら――――犬かな。」
「犬ですか。ま、私は猫派ですけど可愛いですよね。」
「え?、違います違います。そう言うんじゃなくて比喩的な方の犬です。」
「ええ?!そ、そうですか。比喩・・・ですか。ま、まあ可愛いですよね。はい、次の質問ですが・・。」
爽やかな顔で言い切る男の娘。Sなのか、それとも犬フェチなのか・・。
心底どうでもいいと思った。
この後、アルと同じ質問を数回行ったが、特に変な回答が返ってくることも無く無事二人目が終了。
小休の間セバスとミランダと意見の交換を行い、三人目の入室を許可した。
三人目は参加者の中で数少ない女性陣。その中でもかなりの実力者で、本選で第三位だったとセバスが言っていた。
名は――――――――ジャンヌ・ダルク。
金髪で髪は長く、中肉中背の整った顔立ち。青色の目をしていると言う情報だ。エリザは今度こそ変人ではないようにと言う期待を込めて扉に目を向けた。
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(入ってきたのは)美しい黄金のような女戦士だった。
面持ちは優しいというより、気の強さを感じるもので。着ている服は青銅の甲冑。随所に複雑な文様が刻まれ、かなりの上物だと凡百の人間でもわかるだろう。しかし、これ程の衣を纏っているにもかかわらず、彼女自身は埋もれるどころか。目が向かうのは彼女本人ばかりである。
ジャンヌは長い髪をなびかせながら、しっかりとした足取りで歩を進める。背筋はピンと立ち、動きに迷いはない。面接に甲冑と言うおよそ似つかわしくない格好でありながら、甲冑こそが正しい礼服なのだと思わせる力がジャンヌにはあった。
ジャンヌは淀み無く動かしていた足を止め、おとぎ話の騎士のように優雅に席に着く。顔はまっすぐ前を見据え、澄んだサファイア色の目は此方を射抜いていた。正確には私でもセバスでもミランダでもない。私の後ろに立つ銀髪の騎士にだ。
ただ目を向けているだけだというのに、エリザは戦場の一騎打ちに立たされたような感覚に襲われ、ゴクリと喉を鳴らす。そして、息継ぎをするように、
「あ、と、騎士になろうと思った理由は何かな?」
「理由。ですか・・。」
初めてエリザに目が向けられた。殺気も闘気も無いというのに、息が苦しい。そして聞く順番間違えた。 ジャンヌは暫しの沈黙の後、不敵な笑みを浮かべ。
「幾つかありますが、やはり一番はアルバート家には闘ってみたい者が何人かおりましたので。」
「それは、なかなかいい理由ですね。」
少なくとも前のサディストよりはいい理由だ。
「―――――それと、 肉を切るのが好きなんです。魔物や盗賊の肉は切り飽きましたから。少し味を変えてみたく思いまして。」
「へー、美食家なんですね~。」
「フフフ、そうなるかもしれませんね。」
「ハハハハハハ。」
「うフフフフフフフ。」
「ハハハハハハハハハハ。」
この後無事総勢350人の面接を終え、323人を採用することになった。
王都事変
Ⅰ
部屋の四方は重く湿った闇に飲み込まれていた。闇はそこ無し沼のような不気味さがあり、部屋の奥行きは全く分からない。地下深くにあるためか、空気の流れは無く、部屋全体が酷く淀んでいた。――――地下牢では無いが――――環境はそれと全く同じである。
(その部屋の)地上はラガン国の王都カクテル。その中心にある王宮は今、現王ローレス・デ・ヴィンデール・ギーブ・レ・カクテル18世の急病によりピリピリとした空気が流れていた。しかし、部屋の中に一人いた、暗灰色のローブを纏った老人は、それを気にした風も無い。緘口令が敷かれ一般市民にはまだ知られていないのだが、この老人に限ってはその事実を知っていた。
老人は不意に閉じられた瞳を薄く開く。体が僅かに動き古い木の椅子が不快な音を上げ、眼球がぬめりと動き闇の中の一点で止まった。
「来ておるか・・・。」
老人の口が僅かに動き、ナメクジのような音が闇の中を進む。
「来ておるのか。ヒルメスよ。」
「ハッ。ヒルメス参上いたしました。」
闇が幽かに揺らいだような気がした。しかし、老人にはしっかりと見えていたのか、ヒルメスの声は視線の先からである。
「他の五名は来ておるのであろうな?」
「ハッ。全て老師の仰せの通りに。」
「アポロン。」
「はい。」
「アルテミス。」
「はい。」
「ヘパイストス。」
「はい。」
「アテナ。」
「はい。」
「ヘスティア。」
「はい。」
「ヒルメス、アポロン、アルテミス、ヘパイストス、アテナ、ヘスティア。以上六名御身の前に平伏いたしました。」
全てを受け、代表して奏上を述べたのはヒルメスだ。
その声に老師は漸く顔を上げた。しゃがれた面がランプの揺らめく光に照らされる。
「汝らの力、冥府王アフロデウス様の下僕たる儂のために使ってくれるのであろうな?」
六人を代表してヒルメスが答える。
「元よりそのつもりです。」
「汝らの命を捧げよと命じるかもしれぬぞ?」
「これ以上ない幸せと心得ております。」
心酔したような、酔いしれたような声だった。
その答えに老師は瘴気のような息を吐き。
「汝らの力合わせて10万の兵にも匹敵するであろう。・・・。故に儂のやり方をもどかしく思うものもいるやもしれぬ・・・。じゃが、・・・。・・・今はまだ派手に動くことを固く禁ずる。よいな?」
「「「「「「御意のままに」」」」」」
老師は漸く満足したのかしゃがれた顔が、よりいっそうしわが濃く浮き出た。
笑っているのだろうが正直怖いだけだ。
老師は皴だらけの手でこつんとボロ机を叩き、視線をわずかに左に動かした。
「アルテミス。報告を。」
「ハッ。アルバート家前当主クルーガー・アルバートがつけていた指輪はやはりフェイクでした。」
「して、本物の宝玉は?」
「申し訳ございません。おそらくは屋敷か別荘のいずれかにあるはずですが。現状手掛かり一つ見つかっておりません。 」
「ふん。であろうな。簡単に見つかるなら苦労などしておらぬわ。」
老視は忌々しげに言い捨てる。
「まあよい。潜入は成功したのであろうな?」
「御意に。」
「ならば何としてでも見つけ出せ。あれは儂らが絶対なる主冥府王アフロゼウス様の御身体となるものだ。汝の命より大切だと心得よ。」
「ハッ。」
そこで老人は瘴気の様な息を吐いた。老人が口を閉ざしたことにより再び場に重く不気味な沈黙が流れたが、長くは続かなかった。
「ところでアルテミス。汝の司る道は何だったか?」
「雷行に御座います。」
「なるほど、であるならば・・・あの阿保小僧(依頼主)の屋敷に不運にも雷が落ちたとでもしておけばよいじゃろう。」
雷を落とすなどまさに天の禍。それなのに老師の言いようはまるで娘に近所のお使いを頼むように無造作であった。
アポロンは流石に即答は避け、暫しの考えを巡らせる。
「・・・幸いにも今、アルバート領は雨期ですので可能かと存じます。」
「ふ、ならば汝に万事任せよう。他の者は後で命を下すまで待っておれ。」
老師はしゃがれた手をパンと叩き、話を打ち切る。退席を命じる合図である。暗闇の中が僅かに揺れ、そこにあった6っつの気配もすぐに消えた。
誰もいなくなった部屋の中で老師は眼を閉ざし、不気味な静寂だけが流れていくのだった。
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カクテルから遠く離れたアルバート領、領都シフォン。
その遊楽街に佇む大宿舎ブクブク茶釜邸の一室で、壮年の男がゆっくりと起き上がった。
男が寝ていたのは純白のシーツが敷かれたベッドの上。シフォンで一番高い宿だけあって部屋の作りは精巧だ。
男は着崩れた浴衣を軽く直してベッドの上に座りなおす。微かにベッドがきしむ音が流れ、その音で気が付いたのだろう。この部屋のもう一人の住人は手に持っていた二つのコーヒーカップを(銅製の)机に置き、恭しく一礼をした。
「お疲れ様です。倫道様。」
黒い制服を着た美少女から落ち着いた声が出る。
男はそれに軽く「ああ」と答え、
「外の天候は?」
早速本題に入った。
「現在大雨になっております。」
「そうか、じゃあ私は外に出てくる。お前はここで待っていろ。」
「かしこまりました。」
この翌日ノルワッルゼ商会アルバート領第二支部全焼のニュースが巷を騒がせることになる。




