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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

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二十五.十二話 水洗トイレ1

 4歳になり、家族に地球の料理を振舞おうと思い立った俺は、調理場で包丁を手に取って・・・・。


「いざっ!」


 と意気込んで、キャベツの千切りをするべく右手に持ったそれを振り下ろした。


 こうなった理由は話すまでも無い。


 塩と砂糖が手に入ったことで料理の幅は無限に広がったのに、ウチの料理人達(フィーネとエルと時々母さん)は貧乏性で、貴重なそれ等の調味料を使った独創的な料理に挑戦しようとせず、レパートリーがほとんど変わらなかったからだ。


 まぁたしかに味に深みが出て美味しくなったけど、俺の望んでいた状況とはかけ離れていた。


 なら俺が作るしかないじゃないか! 教えるしかないじゃないか!!


 普通の子供では到底知り得ない知識なら戸惑っただろうが、料理なんてものは食材の組み合わせで何とでもなる。


 料理研究家が作ったものより、子供の何気ないアイディアの方がウケたりするだろ?



 結果? えっ、それ言う必要ある?


 ・・・・ええ、失敗しましたよ。典型的な『初めての料理体験』になりましたよ。


 転生してから初めてってことで緊張と興奮と舞い上がってて自分が子供だって事を忘れていた。


 子供ってビックリするぐらい握力弱いのね。


 手で押さえてたキャベツがポーンッとどこかへ飛んでいって指を切りそうになったぜぃ。


 それならば、とフィーネに押さえてもらってリベンジしたら、今度はキャベツに食い込ませるだけの力が足りず、ズルッと滑って俺の手目掛けて切れ味のいい包丁が・・・・。


 有能メイド様の類稀な反射神経のお陰で大惨事は免れたけど、その事件以降、家族全員から包丁に触ることを禁止されてしまった。


 だから華麗な包丁捌きを披露するのはもっと大きくなってからだ。


「ま、まぁ、調味料が増えただけでも食事は格段に美味しくなったし、今はこれで十分か!」


 ポジティブシンキン!


 大人達からの説教にもめげず気持ちを切り替えた俺は、食事以外にも改善するべき事は多いので、そちらに取り掛かった。




 生活必需品と言えば意見の分かれるところだろうけど、俺が考えたのは『トイレ』だ。


 というか風呂、食事と来たらそれしかないだろう。スマホとかパソコンとか言うヤツが居たらぶっ飛ばしたい。


 ここは異世界だ! そんなご都合主義の物、持ち込んでるわけないだろ! そもそも電気がないわ!!


「フーッ、フーッ、フーッ!」


「ル、ルーク様、落ち着いてください。何故息を荒げておられるのですか?」


 おっと失敬。


 被害妄想で荒ぶっていた俺を鎮めてくれたのは、今回の協力者であるフィーネ。


 トイレと言う事で水のエキスパートであるユキにも協力を依頼したんだけど、俺の腕前を見たいと断られてしまった。


 言われてみれば彼女が来てから初めての魔道具製作になる。


 ここはビシッと出来る男である事をアピールしておきますかね!



「それで私は何をすればよろしいのですか?」


「精霊について教えてもらいたい。あと魔法陣がちゃんと機能してるかの確認も」


 俺の仮説が正しければ、精霊とは微生物の事を指しているはず。


 でなければ、草木が土精霊によって土壌に還り、水が浄化され、火で消毒され、光で治癒するなんて現象の説明がつかない。


 きっと細胞や分子レベルで何らかの干渉をしているのだ。


 そしてその微生物を使って作り出すのが『下水処理』のための魔道具。


 この世界のトイレは魔法陣で防水した穴に溜め、定期的に風の魔術師が圧縮して運び出し、街の外の大穴に捨てると言うもの。通称『ボットン便所』である。


 さらにトイレットペーパーとして使用されているのは葉っぱ。


 少しフカフカしているけど葉っぱ。


 どれだけ清潔だろうと葉っぱ!


 洋式の水洗トイレに慣れた現代っ子の俺にはそれが我慢ならなかった。


 それ等の不満を一気に解決するための魔道具こそ『ウォシュレット式の水洗トイレ』である。


 そのために必要となるのが『水洗』と『下水処理』なので、フィーネにはその辺の事を調べてもらおうってわけ。


「ちなみになんだけど、もしかして俺が知らないだけでそういう施設があったりする?」


「いいえ、全ては精霊の力です」


 俺の期待に応えられなかったフィーネは悲しそうな顔をしながらも首を左右に振ってシッカリと主張する。


 さらには「下水道も存在しません」と一蹴されてしまった。


「貯水ボックスで何とかなったり・・・・?」


「無理でしょうね。あれは水分を吸収するだけで溜めておく事が出来ませんし、精霊達に分解してもらえるような構造をしていません」


 他にも色々と提案してみたけどことごとく却下され、俺のやるべき事は1つに絞られた。


 それはオルブライト家で完結させられる水洗トイレを作るしかないって事だ!



「んん~~~・・・・やっぱり浄化槽が必要かぁ・・・・」


 どれだけ便利だろうと、領主やヨシュアの貴族達、領民の賛同が必要になる下水工事を今すぐやるのは不可能。まぁ将来的には絶対に下水設備を作るけど。


 そこで俺が考え出したのは浄化槽システムを利用する魔道具。


 これによって本来なら地下水へ放流するところ、家の地下だけで浄化出来るようになるのである。


 問題は多そうだけど1つ1つ解決していくさ!


 だって水洗トイレ欲しいし!




 というような話し合いの末、何となくの完成図が見えてきた俺達は早速製作に乗り出した。


「まず臭いを何とかしようか。

 フィーネ先生、臭いを無くすために必要な事は?」


「一流の魔術師ならば風魔術で圧縮または分解でしょうが、今後魔道具として販売する事を考えると微精霊に頼るのが一番かと・・・・・・」


 俺の問いにスラスラと答えていくフィーネは、話し終わると同時に虚空を見つめて固まった。


「へいっ、出前一丁!」


 するとそれを待っていたかのようなタイミングでユキが転移してきて、氷鍋だけ残し、またどこかへ消える。


「ルーク様、こちらが微精霊の多い水です」


 ・・・・うん、何も言わないよ? 話進めたいし。


 鍋の中を覗き込むと、そこには見たことも無いほどに澄み切った水が。


「これはユキが力を使った極端な例ですが、時間さえあれば泥水であろうと飲めるようにはなります。

 他にも微精霊には不純物を分解する力がありますので、彼等が活動できる状況を作り出せば汚水の浄化も可能かと」


 つまり活性化させる魔法陣とかを作ればいいってわけか・・・・。


「そのために必要な栄養素とかってわかる? いきなり全滅したりしない?」


「目に見えないほど微弱な存在ですが精霊には変わりないので、属性さえ合わせれば問題ありませんよ。

 浄化槽でしたら水さえあれば活動してくれるでしょう。どれだけ働くかは彼等の気分次第ですが・・・・」


 バクテリアとか微生物に置き換えて考えるなら活性化させるためには適温を保つ事。そして繁殖に必要なアンモニアかな。


 ってわけでそれっぽい箱を作って地面に埋め込んでみたら見事に成功。


 これで水がある限りは消臭と汚物分解をし続けてくれるだろう。



 次に汚水の水分を処理。


「これは貯水ボックスの原理が使えるだろ。

 例えば水分を放出する仕組みにして、温度管理をするためにも近くの加熱鉄板で蒸発させたりすればいい。それをトイレを流す水として使えば節水にもなる」


 ウォシュレットでの再利用を提案するのは何となく止めておいた。


 いくら微精霊が頑張って綺麗にしてくれるとは言っても汚水は汚水だし・・・・。


「そうですね。水属性の魔石が水を吸収するのは一般的に知られていることですし、ルーク様のお作りになられた魔法陣でなくとも使えるでしょう」


 そう、属性によって魔石にも様々な特色があって、水の魔石で言えばスポンジぐらいには吸水してくれるのだ。


 もちろん溜めたりは出来ないけど今回はそっちの方が有難い。


 あとは魔石と浄化槽にちょこちょこっと手を加え、微精霊が分解してくれた水を循環させる仕組みの出来上がり。


 しかも魔石にとって微精霊の死骸は栄養のようで、使えば使うほど吸水性能が上がっていった。


 この世界風に言えば精霊をエネルギーに変えているのだろう。


 微精霊と魔石。その2つを組み合わせることで単独で汚水処理をする浄化槽が完成した。




 言葉にすれば簡単な浄化槽づくりだけど、完成までには相当な時間と労力が掛かっていたりする。


 何せ全ての魔法陣を1から考えなくちゃいけないんだぞ?


 いくらフィーネが一瞬で結果を知らせてくれるとは言っても、それはそれは途方もない苦労があったわけですよ。


 嘘だと思うならパソコン自作してみろ。もちろんメモリやCPUも手作りな。


 まぁ暴発しそうな時はフィーネが止めてくれたし、素材とか仕組みの説明とかもしてくれたけど・・・・とにかく頑張ったんだ!


 じゃあ俺が四苦八苦している間、協力者のフィーネは見ていただけなのかと言われたらそうではない。


「ルーク様、便器が完成しましたよ」


「おう、完璧じゃないか! 流石フィーネだ!」


 魔法陣うんぬん以前に、根本的な問題として和式トイレを洋式にする必要があったので本体を作ってもらっていたのだ。


「うふふ、私は図面を作っただけですよ」


 嬉しそうに笑うフィーネの言う通り、こればっかりは加工技術が不可欠なので職人に依頼した。


 だとしても適当に書いて「これ作って」と言っても伝わるわけがないので、キチンと形になったのはフィーネの功績だから褒められるべきだろう。


 しかも彼女が持ち帰った便器を見てさらにビックリ。


「うほっ、マジかよ! 防臭用のS字配管ついてるじゃん! しかも排水芯の調整機能まで!!」


「アラン様から紹介していただいた職人なのですが、中々気が利く方ですよ。

 洋式便器について詳しく話したところ、『排水用の穴の位置は家によって様々だから調整出来た方がいいじゃろ』と言われまして」


「素晴らしい腕の職人だ。今後もお世話になりたいな」


 今の便器を座れるようにするだけで良いと思っていたのに、完成品には色々嬉しい機能が満載だった。



 あとは便器まで水を引くための魔道ポンプと、ウォシュレットを取り付けて完成。


 これで多少魔力を使うけど『流す』『浄化』『蒸発』『貯水』の全工程が一度に出来るようになる。


 貯水タンクの水で洗い流せるから今まで使っていたトイレットペーパー(葉っぱ)は使わなくなるし、温風乾燥付きだから時間も掛からない。


「で、出来た・・・・今までで一番の大作だった・・・・」


 半年の努力が報われた瞬間である。


 苦労に苦労を重ね、俺はたった今1つの水洗トイレを生み出したのだ。


 うぅぅ・・・・泣いていい? 泣いていいかな?


「ルーク様、お疲れさまでした」


「フィーネもありがとうな!」


 取り付け終わった瞬間、俺はここまで付き合ってくれたフィーネと抱き合って喜んだ。


 トイレで、しかも足元に古い便器が転がってるけど知った事か!


「あぁ~~、この技術を広めるとか無理。もう作りたくない。

 下水施設があればここまで苦労しなかったんだよ! 早く作れよ下水!」


「今後の課題ですね」


 無いものをとやかく言っても仕方ない。


 とにかく今はオルブライト家に誕生した水洗トイレを歓迎しようじゃないか。

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