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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

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二十五.十一話 塩と砂糖2

 楽しい楽しい収穫を終えた俺達は、この出来立て獲れ立ての砂糖とトウモロコシを料理するため、足早に調理場へと向かった。


「エル、トウモロコシを粒だけにして全部この箱に入れてくれるか。ちょっとうるさいかもしれないけど、そういう魔道具だから気にせずに」


 俺が指さしたのは『乾燥機』。遠心力と熱エネルギーと風魔術によって短時間で水分を飛ばす魔道具だ。


 貯水ボックスだと完全に水分が無くなってしまうので、適度に水分を飛ばす乾燥機をポップコーン用にわざわざ作ったもの。


 ウケが良かったら商品化も検討しているから、無駄にはならないと思う。


「わかりました! って茹でないんですか?」


「ああ・・・・君達に新しい世界を見せてあげよう・・・・ふふふふふ」


 不思議そうな顔をしながらも、指示通りトウモロコシを粒にしていくエル。


 一般的な食べ方は『茹でる』か『焼く』だけど今回作るのは『炒って破裂させる』ポップコーン。


 他の食材と混ぜたり、水分を与えるなんて言語道断である。



 実は洗濯機にも同じ技術を使っているので、いまさら誰も驚くことなく乾燥コーンが次々に生み出されていく。


「じゃあアリシア姉は粒をフライパンで炒りながら塩を入れて」


 我が家のコンロは火の魔術と薪を使用する一般的なコンロなので消耗が激しく、今の俺には到底使いこなせるものではない・・・・というか魔力が無い5歳以下の人間が使える代物ではない。


 まぁその辺はそのうち魔道具で何とかする予定だ。


 だからこそ、この工程に最も相応しいであろう人物を指名した俺は、ニヤニヤしながら乾燥コーンとフライパンを手渡す。


(くっくっく・・・・日頃のお返しだ)


 だけどアリシア姉は一向に受け取ろうとしない。


 理由は簡単。


「料理なんて出来ないわよ!」


「大丈夫だよ。面白い事が起きるから、それを手に持って眺めているだけ。特等席さ」


 年頃の貴族子女がそれはどうなんだろう、と思いつつも説得した結果、アリシア姉は疑いもせずコンロに火を入れ、フライパンをジーっと眺め始めた。


 俺はそこに菜の花から抽出した油を少量垂らす。


 これは先日、アリシアが街の外へ出た時に「綺麗だから」と持って帰って来た花を搾ってみたら出来たので、後日フィーネとユキに取れるだけ取ってきてもらったもの。



「トウモロコシが乾燥してるわよ、なんで?」


 さきほど収穫したみずみずしいトウモロコシが見るも無残なカピカピになっている事に疑問を抱いたアリシア姉が不思議そうに尋ねてきた。


 てっきり全員が乾燥機のことを知ってるもんだと思ってたら、洗濯をしないお姉様はご存じでなかったようだ。


 洗濯機の時も、このポップコーン用の時も説明したんだけどなぁ・・・・。


 面倒臭いし、無駄だとは思うけど後でもう一度説明しておこう。今はポップコーンだ。


「そういう魔道具なんだよ。それはいいから早く炒ってみ」


「ふ~ん・・・・こう?」


 興味がないのかそれ以上は何も聞かず、良い感じに熱してきたフライパンにトウモロコシを投入するアリシア姉。


 ジューッ!


 油が弾けて調理場に良い音が鳴り響く。


「何が起こるんですかね~。ワクワクしますね~」


「美味しい料理ですか!? 香ばしい匂いで涎が止まりません!」


「焼けてきたようですよ」


 メイド3人衆も興味深そうにフライパンを覗き込む。


 それとは対照的にレオ兄は俺の顔を見て悪い事が起きると察したのか、そそくさと離れていった。


(ひどいな~。弟をもっと信用してよ。まぁ離れて正解なんだけどさ)


 もちろん俺もアリシア姉を盾にする。


 そして、ついにその瞬間がやってきた。



 パーーーンッ!



「「「っ!?」」」


 炒る事、数十秒。


 膨張したコーンが弾け、凄まじい破裂音と共に勢いよく跳ね上がった。


 それに驚いてコケるアリシア姉とエル。


 俺を抱きかかえて即座に結界を展開するフィーネ。


 フライパンから飛び出した粒を口で受け止めるユキ。


 呆れるレオ兄。


 ドッキリ大成功! ・・・・か? ま、まぁ少なくとも最初の2人はナイスリアクションだ。

 

「フィーネ大丈夫だよ。こういう料理なんだ」


「そうでしたか。ですが危ないのでルーク様は少し離れた場所に居てくださいね」


 過保護なフィーネに放してもらった俺は、自分でもわかるぐらいに素晴らしい笑顔でアリシア姉に話し掛ける。


「ほら、涙を拭いて。これから食べる美味しいポップコーンに涙は似合わな、ぶべっ!?」


 殴られた。グーで。


 大きくなってから姉の涙を初めて見たかもしれない。


 中々貴重なものが見られたけど、その代償はあまりにもデカかった。



「美味しいです~」


 俺が悶絶している間も弾けたポップコーンをひたすら空中キャッチして食べていたけど・・・・ユキよ、熱くないのか?



 そんな騒ぎも少ししたら落ち着き、そういうものだとわかったら逆に面白がって我先に乾燥コーンを弾けさせつつ、ポップコーンが出来上がった次の瞬間には誰かの口の中、という弱肉強食の流れ作業を繰り返した。


 割合としてはメイド組が作る方で、子供組が食べる方って感じだけど、それでも『あの』アリシア姉がコンロの前に立つってだけで凄い事だと思う。


 何度か焦がしたのはご愛敬。


「弾ける時は怖いですけど慣れると楽しいです!」

「うまっ! このポップコーンうまっ!」

「塩とのハーモニーが絶妙だね。アリシア頬っぺたについてるよ」

「トウモロコシと塩のコラボレーションや~。味の産業革命や~」


 ユキはよくわからない事を口走っていたけど、他の皆は大絶賛だ。


「で、フィーネ先生、どうよ?」


「はい、十分商品になると思います。石鹸と共に売り出すべきかと」


 これは金の匂いがしてきましたよ~。




 さて、と・・・・どうすっぺ?


 ポップコーンは大成功に終わったものの、予定時刻を大幅に過ぎてしまった。


 今から本命の砂糖を使ったデザートを作らなければならない俺は、エルとフィーネが夕食の準備をしている横で頭を悩ませていた。


「何を作ろうかな~」


 レパートリーはそこそこあるけど、短時間で簡単に作れるデザートって事を考えると数は絞られるし、味や完成度は妥協するしかない。


 何かヒントを得ようと調理場を見渡すと、戸棚の隅に朝食で使ったパンの一部が残っている。


 パン・・・・パンね・・・・。


 日本と違って固くてボソボソのパンで耳なんて無いけど、まぁ問題ないか。


「よし! 定番の『ラスク』を作ろう。エル、このパンって使っていい?」


「良いですよー。後で食べようと思っていただけですから」


 間食すると太るぞエル。メイド服着れなくなっても知らないからな。


 なんて余計なお世話をしている暇など今の俺にはない。


 許可が貰えた事だし、さっそく調理開始だ。



 アリシア姉が後片付けを放棄したため菜種油と塩が付着しているフライパンを手に取った俺は、手早くバターを溶かしてパンを薄く切って投入。


 バターの焼けるいい匂いが広がり、パンと混じって香ばしい匂いに変わっていく。


「くぅ~、ポップコーンで腹いっぱいじゃなかったら、この状態で食べたいねぇ~」


 とは言え、アリシア姉を褒める気にはなれないので、この『揚げパン』は別の機会に作ってもらおう。


 塩が手に入った事だし、今後はウチのパン事情も変わってくれるはずだ。


 今作っているのはラスクだしな。


 そんな欲望を抑え込んで、こんがりしてきたパンに砂糖をかけて完成。


 5分で出来た。



「「「・・・・」」」


 出来上がったラスクを皿に盛り付けをしていると、エルとフィーネ、そしてどこから現れたのかユキがジッとこちらを見つめているではないか。


 砂糖と油のいい匂いが充満しているので集まって来たのだろう。


「な、何? 食後のデザートだから後で食べるけど?」


 その獲物を狙うような目にたじろぎつつも全員分用意している事を伝えた俺は偉いと思う。


 ここで、「君達あれだけポップコーン食べてまだ食べたいかね?」と言っていたら俺は殺されていたかもしれない。


 何故なら、


「ルーク様! 我慢しろと!? この匂いを我慢しろと!!?」


「ルーク様、さすがにそれは非道だと思います」


 それほどの勢いで猛抗議を受けているからだ。


 あの忠誠心の塊のフィーネですら俺に向って「非道」と言う始末。


 『女性+甘い物=狂気』


 これは全宇宙共通の方程式と言って良いだろう。家庭内戦争の原因の半分はコレだと断言するね。


「甘いです~。サクサクです~」


「なに勝手に食ってんだよ! 食後のデザートっつったろ!?」


 先ほどから喋らないと思ったら、すでにユキがつまみ食いをしていた。



「仕方ないなぁ・・・・1人1個だからな」


 フィーネ達の『ユキは良いのに私達は?』という視線を受け止めきれなかった俺は、諦めて盛り付けた皿をメイド隊の前に差し出した。


 実は試食しようと思ってたんだけど、ここで1人で食べようものなら間違いなく暴動が起きる。


「あ、ユキはもうダメだぞ」


「ま、まさか除け者にするんですかーっ!?」


 まさかでもなんでもない。1人1個だ。


 で、肝心の味の方なんだけど・・・・。


「うん、上出来だな」


 簡単なお菓子だから焦がす以外の失敗なんてあるわけがなかった。


 固いパンとの相性を見る意味で食べたようなものだ。


 しかしこんな物でも俺以外の面々には感動的な食べ物だったらしい。


「砂糖とは素晴らしい発見をしましたね! 私一生ルーク様についていきます!!」


「さすが私のルーク様です。素晴らしい料理です」


「もう1個欲しいですー!」


 ラスクを作った俺の好感度はうなぎのぼりだ。


 ユキはフライパンの底に残っていた砂糖を舐めさせたら大人しくなった。甘ければ何でもいいらしい。



 家族の反応もおおよそ似たようなものだったけど、女性陣は酷かった。


「こ、ここ、これはなんて言う料理かしら? 簡単に作れるの? え、5分で作れる? 販売を検討しましょう。

 ・・・・は? 砂糖が売るほどない? すぐに量産しなさいっ! 命令です!!

 ほらアラン! 子爵権限を使いなさい! サトウキビ畑を作るのよ!!」


 まだ畑にできるほど苗が揃ってないから母さん落ち着いて。


 石鹸の話をした時にいらっしゃった聖母様はどこへ消えた?


 何なら石鹸より先に販売しろとか言い出しそうな勢いだぞ。



「うまっ! あまっ!! サクサクね! これサクサクしてるわ!!」


 アリシア姉の語彙力と表現力の無さにはガッカリだよ。


 と言うかアンタ、あれだけポップコーン食ってまだ入るのか、すげーな。


「「「甘い物は別腹!」」」


 あ~はいはい、わかってましたよ。その言葉が出るだろうな~と思ってて言いましたよ。


「ところで俺、お腹いっぱいなんだけど、誰かいる?」


「「「貴方は神か!?」」」


 神ではないけど、腹周りの豊穣を司る料理人には違いない。


 何故ならば、この数か月後に女性陣を恐怖のどん底に陥れたのだから。


 腹肥ゆる秋。ウエストが入らなくなったスカートとズボンと下着が大量にタンスの奥で眠る事になる。



 とにかく、こうしてデザート作りに必須の砂糖は量産される事が決定した。


 やっぱり美味しい料理は人を笑顔する力があるようです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ポップコーンに使用するトウモロコシは通常の食用トウモロコシではなく爆裂種という皮が固く食用に向かず家畜の餌にされてたもの
[良い点] 「神ではないけれど、腹回りの豊穣を司る料理人には違いない」 [一言] 蓋し箴言ですなぁ
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