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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

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閑話 アリシアの初仕事2

「ようこそ冒険者ギルドへ。どのようなご用件でしょうか?」


 大抵の冒険者は暗くなってからの戦闘を避けようとするため、夕方に差し掛かったこの時間の受付はギルド内で最も人の少ない場所になっていた。


 3人は並ぶことなく、受付をしていた犬族の女性に声を掛ける。


「これ! ガルムを倒したいの!!」


「あの、ちょ、ちょっと・・・・っ!?」


 カウンターに乗り出して来たアリシアを止めながらフィーネの方へ視線を向ける受付嬢。


 たまに来る子供もここまでハッスルする事はないので、対応に困って助けを求めているのだ。


「やはり依頼を受けずに帰りま、」


「・・・・」


 フィーネから注意された途端にカウンターを離れて直立不動で沈黙したアリシア。


 それが楽しみであそこまで興奮していたのに、自分のせいで冒険できないなど本末転倒もいいところだ。


「よろしい。

 このガルム討伐を受注します。達成条件は尻尾ですか?」


「は、はい、その通りです。もしくは核となる魔石ですが、こちらの場合は売却必須となりますのでご注意ください。

 素材としては毛皮の買取りを行っています。ガルムは数が多く常に討伐対象となっているため、見かけたら狩るようにしてくださいね」


「了解しました。さぁアリシア様、お待ちかねの冒険ですよ」


「いよいよね! 行くわよっ!!」


「御武運を」



 店内で猛ダッシュしようとするアリシアを引き留めたフィーネは、これからの計画を立てていく。


「依頼達成のために尻尾はギルドへ、魔石と素材はルーク様に渡すという事でよろしいですか?」


「お金、いらない!」


「はい。では街を出たら我々が感知魔術で探しますので、アリシア様は見学を・・・・「ガルルルッ」・・・・戦いたいと?」


「もちろん!」


 ここまで来て「何もせず見てろ」と言われたアリシアは、歯ぎしりしながらフィーネを睨みつけ、抗議するように唸り声をあげる。


「そりゃそうですよ~。今のはフィーネさんが悪いです~」


「雇い主である私にこの仕打ち! これはもう私1人でガルム倒さないと気が収まらないわね!!」


 ユキの援護射撃によって気を大きくしたアリシアは、ここぞとばかりに責め立てて、どうやって話を切り出そうかと悩んでいた案を提示。


「おぉー! 初戦闘で一騎当千の冒険者デビューですかー。カッコいい~」


「えへへ~」


 しかもバカがバカな事を言って余計に調子付かせてしまう。


(・・・・いえ、わかっていました。わかっていたんですよ。こうなる事は)


 今日1日の言動から、この2人を合わせるとロクな事にならないのは重々承知していたフィーネ。


 だからこそ自分の愚かな発言を後悔し、これ以上何か起こる前にアリシアの提示した条件を呑むことにした。


 もちろんフィーネ達が居る以上、安全は保障されている。


 彼女が危惧していたのはそこではなく、アリシアの戦闘狂としての目覚めだった。


 普段から好奇心旺盛な少女が魔獣達をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、蹂躙した際にどのような人格が出てくるのか不安だったのだ。




「わぁぁっ! 冒険よ! 私これから冒険者として魔獣討伐をするのよ!!」


 そんなフィーネの心配など気にも掛けない少女は、街を出てからそのテンションをさらに上げていった。


 その興奮はフィーネとユキに語り掛けるだけでは到底収まるものではなく、ヨシュアの東門を通り抜けてからは、今まさに冒険帰りの人々に「凄いでしょ!? 凄いでしょ!?」と自慢していく。


 こういった子供が居るには居るので、自慢された人々も「凄いね~」と褒めてしまうものだから、余計だ。


 当然、彼等は隣に居るフィーネ達が手助けするものだと勘違いしている。


 貴族の戯れとして『トドメの一撃にだけ参戦する』と言うものがあるので、それだと思っているのだ。


「あっちの方にガルムが6体居ますね~」


「あっちてどっち!?」


「あっちはあっちですよ~。私の指さしてる草原です~」


 死んだような目をして黄昏るフィーネは役に立たないので、ユキが魔獣の気配を探してアリシアを導いていくが、その興奮は留まるところを知らず、ついにはユキの腕すら無視するようになっていた。



 何もかもがわからなくなったアリシアは考える事を放棄して、ユキについて行くこと20分。


 3人の目の前に6体のガルムが見えてきた。


「ガルムよ! ガルムが居るわよ!?」


(あ・・・・ついボーっとしていました。戦闘ですね。フォローしなければ)


 と、ここでようやく己の使命を思い出したフィーネも元に戻った。


「ではでは~。アリシアさんが魔術で先制攻撃してみましょうか~」


「わ、わわわ、私に出来るかしら!? い、いつも通り火を出して魔獣に飛ばせばいいのよね!?」


「そうですよ~。実践には、訓練では絶対に味わえない独特な緊張感がありますからね~。何かするだけでも良い経験になりますよ~」


 頼りないフィーネの代わりに的確な指示を出していくユキ。


 それにコクリと頷いたアリシアは詠唱を始め、魔術を暴発させないようにゆっくりと移動していく。



「ねぇ、こんなに近づいてるのになんで気付かれないの? 私の射程範囲に入っても全然動く気配が無いんだけど・・・・」


 後は発動させるだけ、というところまで来て彼女はようやくその違和感に気付いた。


 ガルム達が全く警戒していないのだ。


 襲い掛かって来ないのはともかくとして、逃げも隠れも臨戦態勢もとっていない。


「フッフッフ~。気付いちゃいました? 実はこちらを察知出来ないような結界を展開してたんですよ~。

 先制攻撃で仕留めきれなくても足元を凍らせて動けなくするので、失敗を恐れずガルムに向かって攻撃ですー!」


「まかせて! 火よ、ファイア!!」


 異常なほど便利な結界に疑問を持たないアリシアは返事一声、魔力が貯まった杖を勢いよく突き出した。


 しかし緊張しているのか、練習より不安定で弱い炎が杖の先から放たれ・・・・。



ボフン。

『ギッ!?』


 辛うじて命中したものの、ガルムは悲鳴をあげただけで致命傷には程遠い。


 というより、ダメージをほとんど受けていない。


「あ、逃げちゃダメですよ~」


 姿の見えない相手からの奇襲に驚いたガルム達は、この場に留まるのは危険と判断して逃げようとする。


 しかし、それもユキによって身動きを封じられてしまったため、彼等は完全に動かない的と化した。


「アリシア様、練習通りにすれば大丈夫です。落ち着いていつも通り火を出してみてください」


「こ、こう? 火よ、ファイア!」


 アドバイス通り再度挑戦すると、今度はいつもと同等の威力の火が飛んでいった。


 が、先程と同じようなダメージを与えるだけ。


「毛皮で防がれてますね~。魔力不足です~」


「アリシア様には少し早かったようですね」


 これはもはや緊張するしない以前の問題。


 そもそも6歳児にガルム討伐など無謀なのだ。




 さて、そうなるとアリシアには為す術がなくなるわけだが、そんな事は『自分で倒す!』と声高らかに宣言した彼女のプライドが許さない。


 しかも無駄に責任感があるアリシアは、さきほど見ず知らずの人々に自慢したというもあって引き下がるわけにはいかなかった。


「こ、こうなったら直接攻撃で・・・・」


「お、お待ちくださいっ! 流石にそれは許可出来ませんよ!?」


 結界のお陰で見つからないのを良い事に、ガルムの群れへとコッソリ忍び寄るアリシアを慌てて引き留めたフィーネ。


「だってガルムが固いんだもん! 仕方ないでしょ!?」


 もちろんアリシアからは猛抗議を受ける事になる。


「わ、我々が協力しますのでこのまま魔術で戦いましょう。良いですね、ユキ?」


「アイアイサー」


 それならば、と大人しく引き下がったアリシア。


 その背中に手をあてたユキが魔力を流し込んでいく。


 フィーネも風魔術で火力を上げるよう補助し、周囲に被害が出ないよう結界を展開する。



「ふ・・・・ふふふ・・・・ふははははっ!! 凄い、凄いわよ! 力がみなぎってくる!! これならイケるわっ!!」


 注入されたユキの膨大な魔力に驚きながら歓喜するアリシアは、テンションそのままに本日最大の声量で叫んだ。


「今度こそぉぉーーーっ! 火よ! ファイアァァアアアーーーーーっっ!!!」


 さきほどまでとは比べ物にならない巨大な火球が飛んでいき、



 ズッドドドォォォオオオオーーンっ!!!



 フィーネの風によって爆炎へと変化したそれは、悲鳴すらあげることを許さない圧倒的な熱量でガルム達を焼却した。


 魔力の拡散と共に炎は数秒で消え、残っていたのは一面の焼け野原。


「す、すごい・・・・っ! これ、私が・・・・やったの?」


「その通りです。初めての魔獣討伐おめでとうございます。

 ガルムは消えてしまったので再び探す必要がありますが・・・・」


「パチパチパチ~。アリシアさんやりましたね~。私からも拍手を送りますよ~」


 まだ実感のわかないアリシアは呆然としているが、彼女の放った魔術でガルムを倒したというのは紛うことなき事実なのだ。


 そんなアリシアと違い、この火力に慣れているフィーネは事もなげに締めくくりの言葉を投げかける。


「将来、これと同等の魔術を使えるように努力していきましょうね」


「任せて! 炎と言えばアリシア、って呼ばれるようになってみせるわ!」


「おや~? 丁度いい感じにあっちにもガルムの群れの気配が~。今度はもうちょっと魔力減らしてやってみましょうか!」


「ええっ、滅却よ!」


「いえ・・・・それではいつまで経っても依頼を達成できないのですが・・・・」


 3人による爆炎祭りはその後、3度に亘って行われた。




「い、依頼達成です・・・・ね・・・・」


 いつまで経っても手加減を覚えずに全力全開の炎魔術を繰り出すアリシア。


 予定していた帰宅時刻を大幅に過ぎた頃、ようやく彼女が満足してきたのを察したフィーネは、結界でガルム達を守る事で討伐の証となる『ガルムの尻尾』を入手する事に成功した。


「やった、やったー! これで私も立派な冒険者でしょ!」


 アリシアが嬉しそうに振り回しているボロボロの杖。


 最初の一撃で完全に壊れていたのだが、「折角ルークに作ってもらったから」との理由で捨てるに捨てられず、ただの棒としてブンブン振るっていたものだ。


 この杖をルークに見せて「もっと頑丈にしないさい!」と上下関係を叩き込むことになるのは、もうちょっと未来の話。



 壊した杖を誇らしげに振り回すアリシア率いる一行が東門へ戻ると、そこには人だかりが出来ており、何やら騒がしかった。


「見た事ない巨大な火柱が! 何本も!!」

「すごい魔術師が居るんだ! スカウトしないと!!」

「魔王が攻めてきた! ヨシュアから逃げろ!!」

「Aランク、いやSランクの魔獣が出たんだ! 王都に救援要請を!!」


 もちろんアリシアの仕業である。


 4度も爆炎を振りまけば当然こうなる。


「・・・・早く、ギルド行きましょうか」


「へぇ~、凄い魔術師が居るらしいですよ。そんな魔力感じませんけどね~?」


「強い魔獣の気配もありません。彼等の見間違いでしょう」


 騒ぎの理由を察したアリシアは気まずそうにしているが、自身の感知能力を以てしても集まった人々の危惧している理由が皆目見当もつかない2人は首を傾げている。


 彼女達にとってあの程度の魔術など日常生活で使うそれと同じ認識なのだ。



「こんばんわ。ガルム討伐を受けていた者ですが」


「あっ、おかえりなさい! 東の方で凄い騒ぎになってますけど大丈夫でしたか?」


「私達は出くわさなかったので~」


「それは運が良かったですね。

 ・・・・はい確認しました。こちらが報酬になります」


 受付嬢からも心配された3人はガルム討伐の報酬として銅貨6枚を受け取り、遅くなってしまったので急いで帰宅した。


「ふふふっ」


 初仕事で貰ったその銅貨を、アリシアはいつまでも愛おしそうに握りしめていた・・・・。

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