表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
三章 ロア商会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/1660

三十七話 服選び

「では、次はアリシア様ですね」


「ええ! 頼んだわよ!」


 胸を張り、今度は自分が主役だと言わんばかりに前へ出るアリシア姉。


「またすぐに破くと思いますので、今の身体に合わせて仕立ててください」


「かしこまりました」


 フィーネの一言に、店員さんは事情を察して苦笑した。


「厚手の生地と糸もご用意できますが、いかがいたしますか?」


「ぜひお願いします」


「ちょっと待って! 動きづらくなるのは嫌よ!」


「ご安心ください。こちらは冒険者の衣類にも用いられている素材ですので、動きの妨げにはなりません」


「なら良いわ。やってちょうだい」


 あっさり納得して頷くアリシア姉。


 その目はどこか期待に輝いている。頑丈で動きやすい服とはつまり、思い切り暴れてもいい装備ということだからだ。


 さすが。手慣れている。値段も相応になるから商売人という意味でも。


「そちらのお子様も私服をお作りになると窺いましたが?」


 うわっ、矛先がこっち向いた。


 放っておいたらどんな高級素材を薦められるかわかったもんじゃない。


 ここは先手必勝。


「姉の採寸をしている間に、肌触りの良いものを自分で選ぶので大丈夫です」


「遠慮することはございません。気に入ったものでも後から違和感があったり、動きづらかったりするものです。プロに任せた方が確実ですよ」


「大丈夫です。たとえ失敗しても近所の子にあげるので」


「……かしこまりました。ごゆっくり」


 よし、勝った。


 念のため試着室に入るまで見送って、俺は生地の並ぶ棚へと足を向ける。


「へぇ……」


 並んでいる布はどれも質が良さそうだ。


 絹のように滑らかなもの、光沢のあるもの、丈夫そうなもの。


 見た目からして高級品から、貴族御用達とは思えないリーズナブルなものまで様々。


「お? これなんかいいじゃん」


 ややざらりとした手触りの布。通気性が良さそうで、軽い。夏場でも快適そうだ。


「そちらは草布そうふと言って、植物繊維から作られています。安くて丈夫なので庶民服にも使われることもありますね」


 手に取って軽く引っ張る。繊維も簡単にはほつれない。厚みもそこそこ。何よりこの中で二番目に安い。


「これでいいか」


「ルークさん、倹約家ですね~」


「無駄遣いが嫌いなだけだ」


 たしかに値段が上がれば品は良くなる。しかし必ずしも着心地が良いとは限らない。


 それに個人的には多少ザラついている生地の方が好きだ。母さんが買い与えてくれるものは高級品ばかりで落ち着かない。


 破いたらどうしようって不安も含めて、俺は根っからの貧乏性なんだろうな。


「でもでも~、良い服は長持ちしますよ~?」


「成長期の子供にそれ言う?」


「そう言えばルークさんって子供でしたね~。大人と話してる感じがするので、すっかり忘れてました~」


 おまっ! それギリギリだぞ⁉ アリシア姉がいないからって油断しすぎ!


 ――と、慌てたりしたら余計怪しいな。落ち着け俺。


「ルーク様。こちらなどどうです?」


「お、おお! いいな!」


 フィーネが差し出してきたのは、柔らかそうな淡い色の布。


 気持ちを切り替えて触ってみると、草布と同じぐらい軽い。さらっとしてる。


 それでいて安――。


「くない⁉ なんでだよ! ここは安さも相まったものが出てくる流れだろ⁉」


 触った記憶がないので、たぶん奥の超高級品エリアのやつだ。


「私が着ていただきたいものを選んだだけですので。主に相応しい装いを整えるのも従者の務めです」


「急にそれっぽいこと言うな」


 本心な上に間違ったことは言っていないのが余計タチ悪い。


 ユキが横でくすくす笑う。


「愛されてますね~」


「貢がれてばっかってのも案外居心地悪いもんだぞ……」


 気にしないやつもいるだろうが俺はしんどいタイプだ。


「じゃあルークさんも何か返せばいいんじゃないですか~?」


「……なるほど」


 言われてみればその通りだ。


 もらいっぱなしだから居心地が悪い。なら何かあげてバランスを取ればいい。


「でもいきなり何か返せって言われてもなぁ……」


「悩むことありませんよ~。それを考えるのが楽しいんじゃないですか~」


「いやそっちじゃなくてさ。フィーネに何かあげたら十倍になって返ってきそうで……てか現状がまさにそれじゃん。いつまで経っても俺の気苦労絶えないじゃん」


「あ~。それは盲点でした~」


 フィーネも否定しないどころか、ばっちこいと言わんばかりの目でこちらを見てくる。


 その連鎖を止めたくて悩むのは本末転倒な気が……あ、そうだ。


「どうもフィーネは勘違いしてるようだな。俺は倹約したいからするんだ。物が足りない状況でどうやりくりするかの試行錯誤が楽しいんだ。どれだけ長期間使えたか、大切にしたかを誇りにしてるんだ。それが安いものだったらなおのこと」


 高価な品を数回しか着れないのが申し訳ないからこそ、余計に貢がれてると感じるのだ。普段使いするものならこうはならない。


 この気持ちが理解されないなら『やりたいからやる』で押し通すのみ。


「私生活ならそれも良いでしょう。しかし貴族として費やすところには費やしていただかないと困ります」


「む……」


 日頃から高級品に触れていないと、いざという時に躊躇してしまうのは間違いない。


 まさに今がそうだから。


「で、でも――」


「今回は妥協したとして、今後ルーク様は高価な品を買えるでしょうか? 費用対効果を気にしたり少しでも安く良い品を求めて時間を無駄にしたりしないでしょうか? 倹約を楽しむのは果たして本当にルーク様の本心でしょうか? 出来ない、やる気がない、いざという時の貯蓄の言い訳ではありませんか?」


「ひ、否定できない……」


 怒涛の正論パンチに思わずたじろぐ。


 本心なんて自分にすらわからない。たしかにそういう一面もあるかもしれない。


「重く考える必要はありません。日頃の感謝の気持ちにありがとうを言われたくらいに捉えてください。私にとって魔獣討伐に使った労力などそのようなものです」


「そりゃフィーネは強いし余裕なんだろうけどさ。俺……というか世間一般からしたら命懸けてやるようなもんだからその例えは逆効果だぞ?」


「構いません。余裕という事実は変わりませんし、他人の苦労に理解を示し、無理に返そうとしないルーク様のままでいてくださることが一番の返礼になりますので。その言葉が聞けただけで満足です」


「それじゃ納得できないからこうして悩んでるんだけど……」


 普通のことをしただけなのに感謝される。


 これはわかる。他人から認められてるみたいで嬉しい。


 でも貢がれたり奉仕されるまで行くと違う。申し訳なさが勝つ。


「ルークさんは真面目ですね~」


「うっせ」


 俺が頭を抱えると、ユキが茶化してきた。


「でもいい考え方だと思いますよ~。重く考えすぎると何もできなくなりますし~」


「それは……まぁそうか」


 たしかに、いちいち等価交換を求めてたら身動き取れない。


「では、そちらの生地に、御自分で選ばれたものを合わせてはいかがでしょうか?」


「うわっ、出た!」


 アリシア姉の接客がひと段落ついたのか、店員が絶妙なタイミングで口を挟んでくる。


 手に持っているのは、俺が選んだものより少しだけ上質そうな生地。


 にこやかな営業スマイルも、今の俺にはぼったくりの悪魔が笑っているようにしか見えない。


「全てを相手に任せるのではなく、しっかり自分の意思を出す。それも立派なお返しですよ」


「……そういうもんスか?」


「そういうものです」


 なんとなく納得した。


 全部任せきりよりはマシかもしれない。それどころか、お互いに寄り添った贈り物の理想形と言える。


「じゃあ俺の選んだ安い生地を主体に――」


「いえいえいえ、感謝したいとおっしゃる方を蔑ろにしてはいけません。そちらのエルフ様がお選びいただいた生地を主体に、こちらを部分的に使うことで印象を損なわず費用を抑えられます。相性も抜群です」


 悪くない。というか、かなり良い。


「どうします~?」


「ん~、中々良いけどやっぱちょっと高いな」


「恐れ入りますが、当店は適正価格でご提供しております。値引きはおこなっておりません」


 値切る客も多いのか、慣れた様子で答える店員。


 仕方ない。ここは俺が折れるとしよう。


「じゃあそれでお願いします」


「ありがとうございます」


 店員が一礼する。


 よし。そっちのターンは終わったな? じゃあ次はこっちのターンだ。


「と、こ、ろ、で! これだけ買ったんです。店員さんのオススメにも従いました。割引。してくれますよね?」


「っ⁉」


 倹約家の俺からぼったくれると思うなよ。


 客と店員、どっちが立場が上かわからせてやる。


「二年後には俺も学校に通うことになるけど、兄さんのお下がりを使うか、新しく買うか迷うなー。ああ、そう言えば新しい事業始めるとか父さんから聞いたような……そこの制服なんかも必要になるかもしれないなー。どこかに気前のいい仕立て屋とかないかなぁー」


「し、しかし……」


 くっくっくっ。悩め悩め。決定権は客が握っていることを思い知れ。


 ――と、悪役ムーブをしたところで手のひら返し。


「じゃあこうしましょう。値引きじゃなくサービスをしてください」


 店員の表情がわずかに緩む。


 値引きよりは店の格を落とさない提案だからな。しかもこちらが妥協した形。


 食いつきは悪くないはずだ。


 俺は指先でさっき選んだ生地を軽く叩く。


「例えばこの服。成長を見越して少しだけ調整しやすく作れるますよね?」


「はい。縫い代を多めに取り、後から広げられるようにすることは可能です」


「それ、追加料金なしでやってください。サイズ直しも無料で」


「……そう来ましたか」


 成長期の子供相手だ。どうせ一回じゃ済まないのはわかってる。でも一回分なら店としても損はしない。むしろまた来る理由になる。


「…………わかりました」


 少し考えてから店員は静かに頷いた。


「交渉成立! 今後も末永く仲良くしてくださいね」


 商人は信用で成り立っている。ここで無理に値を下げさせれば、今後この店はオルブライト家との取引に慎重になるだろう。


 短期的な利益と引き換えに長期的な関係を損なうのが得策でないのは、俺も店も同じなのだ。



「では採寸、失礼しますね」


 アリシア姉と入れ違いで試着室に入ると、店員が手際よくメジャーを回し始めた。


「肩幅は少し広めですね」


「鍛えてるもの!」


 俺が答えるより早く、外からアリシア姉の声が飛んでくる。


 こういう時、男子への配慮は無くなりがち。カーテンを閉めなかったり採寸に立ち会って良いまである。俺はちゃんとユキやアリシア姉の時はスルーしてたのに。


 あと師匠面して自慢げだが、肩が筋肉痛になったことはないので、たぶん生まれつきだ。不毛な言い合いになるし、どうせ俺が折れることになるから突っ込まないけど。


「腕の可動域を広めに取った方が良さそうですね。消耗も激しそうですので補強しておきますね」


 プロってすげぇ。


 俺は他人事のようにその解説に感心する。


「ではデザインですが――」


「社交界でも使えるものでお願いします」


「動きやすさは優先で」


「かしこまりました」


 俺とフィーネの要望を即座に両立させるあたり、さすがプロ。


「ルークさん、シンプルなの好きですよね~」


「ゴテゴテしてるのは疲れる」


「わかります~。なので私もワンピースばかりで~」


 ユキはやりすぎだけどな。


 なんで年がら年中ワンピースなんだよ。しかも無地の一着だけって。


「色はどうされますか?」


「え? この生地じゃなくて?」


「こちらを基調として、他の素材と組み合わせることで全体のイメージを変えることができます。物によっては暗い色を明るく、明るい色を暗くすることも可能ですよ」


「へぇ~。じゃあ汚れが目立ちにくいもので」


「では……茶色と、少し暗めの色ですかね」


 そう言うと店員は店の中からいくつかの服を見繕ってきた。試着以外にイメージ図の用途もあったわけか。


「じゃあこれで」


 俺はその中から一つを選んだ。


 これに関してフィーネは一切口出ししてこない。共同制作ということだろう。


「はい、採寸は以上です。仕上がりは一週間ほど掛かります」


「ありがとうございます」


 フィーネが代表して頭を下げる。


 こうしてユキのメイド服、俺の外出用、そしてアリシア姉の戦闘服。


 それぞれの装備が揃うことになった。


 受け取り――もとい決戦は来週だ。




「次はどこ行くの?」


 仕立て屋を出てすぐにアリシア姉が尋ねる。相変わらず俺の手は離さない。


「そうですね……」


 普段なら即答するはずのフィーネが何故か悩み始めた。


 何かあるのかと考えていると、目線をこちらに向けてきた。


「ルーク様、疲れましたか?」


「俺? 俺は大丈夫だよ」


 なるほど俺への気遣いか。


 俺は軽く肩を回して応える。


 初めての外出にしては濃厚な時間を過ごして、思ったより足腰頭色々と疲れていた。でもせっかくの外出だ。まだ行きたいところもある。


「無理はなさらないでくださいね」


「わかってるって。んで、どこ行くんだ?」


 平気アピールで続行の意思を見せると、フィーネはわずかに考える素振りを見せた。


「馬車売り場です。エリーナ様から、いくつか見繕ってくるよう頼まれてましたので」


「ああ、クロのやつか」


 フィーネ達が乗っていたものがあるにはあるが、あれは荷物を運ぶことに特化したもの。貴族様の移動に使うのは厳しい。


 俺が頷くと、アリシア姉も納得したように手を叩いた。


「そう言えば石を詰め込んだ荷台ひかせて、大きさや重量調べてたわね」


「はい」


「父さんも母さんも浴槽買う時はゴネたのに……」


「浴室は前のままでも問題ありませんでしたからね。それと我々が金品や食材を持ち帰ったことで生活に余裕が生まれたのも理由かと」


「お? 父さん達もついに贅沢に目覚めたか? 金遣い荒くなるか?」


「ならないでしょうね。指定された馬車も比較的安いタイプですし」


 倹約家はどれだけ稼いでも倹約家か。クセになってるんだろうな。万が一の時を考えたり、金を使わず生活する方法考えるのが。


「石鹸の材料は買わなくていいんですか~?」


「ああ。あっちは事業だからな。手配とかは父さん達がやってくれてる」


 フィーネ達が持ち帰った塩での石鹸づくりに成功して以降、事業は本格的に動き始めた。材料や道具なんかがどこかから運ばれていることだろう。


 これから忙しくなるぜ、などと考えていると鍛冶屋を通り過ぎていた。


「あ、ここ寄っていいかな?」


「こんなところに何の用よ?」


「ルーク菜園が収穫期を迎えててさ。農具を買おうと思って」


 近々オルブライト家のみんなに手伝ってもらわないとな。サトウキビとトウモロコシの収穫を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ