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戦国時代の大魔導師  作者: あや
美濃大乱
8/32

その1

その日、離れの寺に住む尼僧に会いに長山から若い二人連れの武士がやって来た。

だが二人はその尼僧に会うことはできなかった

彼らが訪れる四半時(約30分)ほど前に、城からの使いが来て連れていってしまったとのことであった。

「ほら、弥平がぐずぐずしているから」

「弥平次ですってば!」

そんなことを言い合いながら立ち去っていく二人を呆れたように見送った後、村人達は不安そうにお城の方へと視線を向ける。

(どうか無事に戻られますよう……)

そう心の内で願いながら、普段の生活へと戻っていった。



山の麓にある屋敷へと連れられてくると、そのうちの一室へと案内される。

板の間に正座して暫く待っていると、やがてこの屋敷の主らしき人物が現れた。

「待たせたようだな、申し訳ない」そう言って詫びるように軽く頭を下げる

羽崎若狭守光直と名乗ったその人物は、相手にも名乗るよう求めてくる。

(確かこの頃の女性はフルネームじゃなかったはず……)

そう考えると、苗字を名乗らずに名前だけを答えた。

「……愛理、と申します」

「ふむ……、して愛理とやら、宗派は何に属する?」

「え、宗派、ですか……?」

「左様、禅か、浄土か、それとも法華か?」

「そ、れは……」

元々自分から僧と名乗ったわけでなく誤解に任せていただけなのだが、その所為もあってか僧のふりを工夫するという発想すら抜け落ちていた。

村では好意的に受け入れられていたこともありその辺りを詮索されることも無かったのだが、流石にそれなりの身分の相手にそれでは通るわけもない。

口ごもる愛理を見据えながら、男はニヤリと笑みを浮かべ静かに告げる。

「脱げ」

「……えっ?」

「その頭巾と法衣を脱げと言っている」

………

暫しの沈黙の後、観念した様子でフードを外しローブを脱ぐ。

中からは薄い水色のワンピース姿が現れた。

何ということの無いその姿も、この時代の人間にとっては未知の装束である

だが光直が指摘したのは別の事柄だった。

大股に歩み寄ると、その腰まで伸びた髪を指し示す

「宗派も言えず僧名も名乗らぬ、ましてやその髪!思うたとおり騙りであったか!」

そういい放つ光直だが、本来これは正しくない、(浄土)真宗など剃髪の義務を課していない宗派も存在するからだ。

しかし愛理にそんな知識はなく、反論もできずに俯いてしまうだけだった。

「僧を騙るは大罪、この場で切り捨てられても文句は言えぬぞ」そう言って刀を抜き放つ。

咄嗟に杖を手繰り寄せる

もちろんそれで刀を受け止めようなどと言うわけではなく、魔法を使うためだった。

それに気付いた訳でもないだろうが、振り上げた刀をゆっくりと下ろす

「とは言え、お主も死にたくはなかろう、儂も別にお主を斬りたい訳でもない、……そこで、だ」

刀を鞘へと収め床へとしゃがむと、へたり込んでしまった愛理へと顔を合わせる。

「お主が儂に力を貸してくれるなら、黙ってやっておいてもよい、むしろ望みがあれば聞いてやってもよいぞ」

力を貸してくれるなら、などと言っていても拒否権はないことは、流石に愛理にも想像できた。

この場から逃げるだけなら魔法を使えば可能かもしれない、だが……

「断れば命はない、また妖しげな術で逃げるなら、貴様がいた村の者を殺す」

そう言われてしまえば他に選択の余地はなかった。

「……一つ、お願いがあります」

「申してみよ」

「殿様は、久々利の殿様と縁続きと伺っています、久々利川の水源にダム……、いえ、ため池を作れるよう、お力添えを頂けましたら……」

「その様なこと、儂が久々利の地をも治めるようになれば幾らでも許可してやろう」

つまり、その為の手助けをせよと言うことだ

「……わかり、ました」

例え後世に名も残らないような地方の一将であっても、(いくさ)続きの美濃で一城の主として生き抜いてきたのだ、世間知らずの愛理に太刀打ちできるはずもなかった……



「妖しの術を使う等と言うからどのような相手かと思えば、なんと他愛もない」

だがあの娘の使う術とやらは利用価値がある

とくに光直が期待しているのは、隣村との最初の揉め事で使ったという相手を眠らせる術だ。

その様なものがあれば見張りなど役に立たぬ、夜討ちかけ放題ではないか

まあ、一度に眠らせられる人数には限りがありそうらしく、そう万能では無いのだろうが、それでもあるとないでは大違いだ。

また他にも戦に使えそうな術を持っているやも知れぬ

何より久々利や明智辺りに取られてしまってはこちらが不利になろう

そうせぬ為にもこちらで押さえておく必要があった。

「宗家……、久々利を出し抜き可児の、いや、美濃一国の主となってみせん!」

油屋風情に出来て儂に出来ぬことはない、そう自分に言い聞かせ、盃を傾けた。



「やまと、連れていっても大丈夫かなぁ……」

にゃあ?と不思議そうな顔で頬を舐めてくる。

逃げるという選択肢は頭になかった

この時代を上手く立ち回るには、少女には狡さと言うものが足りなかった。

(人は皆、何時かは死ぬ)

そう思ったからと言って、世話になった相手を態々殺させるような選択が出来るというものではない。

それは同時に、あの殿様に協力するということはどんなことをさせられるのか、という想像力が足りないという事でもあった。

そして今の彼女の最大の不幸は、相談を出来る相手がいないということだった。

この数ヵ月ですっかり住み慣れた本堂

やまとと日向ぼっこをした縁側

外へと出れば、まだ育つには間のある麦畑

(今思えば、幸せな日々だったなぁ……)

訳を話せない以上黙って出ていくつもりだった。

(麦の世話、誰かしてくれるかな?)

にゃあと駆け寄ってくる(やまと)を肩へと乗せるとその場を後にする、

……つもりだった

不意に、声を掛けられなければ……


「やあ、やっと会えましたな、尼僧」


見知らぬ若い侍が二人、その場に立っていた。

羽崎氏が若狭守を名乗っているのは本家筋の久々利氏が三河守を名乗っている事に対する遠慮から格下の若狭守を代々名乗っているという設定です。

当然自称ですw

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