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戦国時代の大魔導師  作者: あや
序章
5/32

その5

「なー」

駄目よやまと、静かにしてちょうだい

そういって、人差し指を口に宛がいます。

私とやまとは今、隣村に少し入った辺りにある宝地院というお寺の境内にいます。

そこから少し外れた藪へと入ると、やまとを下ろしじっと目と目で見つめあいます。

ごめんね、とそう断ると、私はやまとと意識を集中していきます。

普段は意識して切り離していますが、魔術師と使い魔は意識や感覚を共有することが出来るのです。

やがて私の視界に捉えていたやまとの顔が私の顔へと変わります

私は今、やまとの目で物を見ているのです。

ああ、猫の視点ってこんな感じなんだ……

少しの間私はその光景に見入ってしまいましたが、そんなことをしている場合ではありませんでした。

(やまと)は本来の目的を思い出すと、隣村へと四つ足で駆けていきました。


村にたどり着くとまずは水田の様子を見に行きました

心なしかこちらの村に比べて水量が少なく感じます……。

次いで、村人の様子を見るために村の中へと入っていきました。

「あー、ネコだー!」

……危うく捕まりそうになりながら、子供の手をすり抜けるようにして先に進みます。

暫く村の中をうろうろしていると、畑仕事に向かうらしい二人連れを見つけました

(やまと)はそっと後をついていきながら、会話に耳を傾けます。

「そうか、お前のところも厳しいか」

「ああ、今はなんとかなってるが、このままだと干上がってまうで」

「なんとか中干しまで持ちゃあええが」

「中干したってあとでまた水を張らにゃあいかんのだぞっ、そんな水もうねえぞ」

「くそぅ、堰さえ壊されにゃあ今頃ため池が枯れることもなかったによ……」

「仕方ねえで、向こうも必死だでよぅ……」

ため池っ!?

「なんだっ!?この猫しゃべったぞ!?」

「バカ言ってるでねぇ」

うっかり声に出ていたようです

私は慌てて逃げ出すと、そのまま村をぐるっとまわってみました。

すると、奥の方に干からびた小さな池のようなものを見つけました

これがおそらくため池でしょう。

(やまと)は私が待つ藪まで一目散に駆けてきます。

(ごしゅじん、もういいの?)

ありがとう、もう大丈夫よ

そう言って先に村へと帰っているようにいうと、すぐに駆け去ってしまいました。

それでは、私も用事を済ませてしまいましょう。

飛行(フライト)


「ため池、ですか?」

ええ、ありますよね?

そう言ってにっこりと微笑むと、お爺さんが観念したように頷きます。

「ですがっ、ため池と言うてもほんに小さな物で……」

慌てたようにそう弁解するお爺さんの前に、久々利川の水源からこの辺りにかけての簡単な地図を示します

これは先程飛行の術を使って空から確認した景色を簡単にまとめたものです。

私はその水源の一点を指で指し示します

「この場所に堰を作り、こう幅を広げてため池にすれば、雨量の多い時期や冬場の雪解け水を貯えて乾期に利用できますよね?」

「そ、そりゃあ……、そうでしょうが、あの辺りは久々利の殿様の領地で儂らには手が出せませんだよ」

「お願いすればいいんですよ、久々利川の水量が確保されればあの辺りの村にとっても助かるのですから」

空から確認してみたのですが、川幅を見た限り久々利川は元々の水源から乏しいようです

ですので、雨量がどうこうというよりも抜本的対策が必要だと感じました

とはいえ、これは実現しても日数のかかるお話です。

「このお話はまた進めるとしまして、まずは当面の問題ですね」

そう言うとお爺さんに、村のため池の水が一杯になれば今年の収穫まで持つかを訊ねます。

「考えて使えばまあ、なんとかなりますが、しかし……」

「では明日、隣村の人と一緒にお寺まで来てください」

「そりゃあええですが、ですがお坊様、ため池の水がいっぱいになればと言われても、それまで待てませんで……」

困惑するお爺さんを安心させるために、私は精一杯の笑顔をつくって言いました。

「大丈夫です、私に考えがありますっ」


「そのいい考えてってのが雨乞いだかっ?」

「まあそういうなや、せっかく儂らの為に骨を折ってくださってるだでよ」

「なんちゅうても不思議な(まじな)いを使う坊さまだて、ちったぁ効果があるかもよ」

「それにほら、弘法様が杖で地面を突いたら水が湧き出たちゅう話もあるでよ」


祭壇の下では両方の村からやって来た人達がなにか話しています。

……まあ、本当はこんな祭壇は必要ないのですが、術中は精神集中していないといけないので少し離れた場所の方がいいのと、少しでもそれらしく見えるための視覚効果ですね。

さて……、効果範囲は半径10Km、ここからなら水源まで収まりますね

「それでは、始めます」


「まだかのう……」

「こんな良いお天気に雨が降るわけねぇがな」

隣村の者を中心にそういった声が上がりはじめる。

羽崎村の者が宥めているが、その者達にもそろそろ不安と不審が広がり始める。

そうして、100も数を数えようかという頃……

「おい、雲が出てきたぞ!」

その声に皆が一斉に空を見上げる。


ポツ……、ポツ……、ポツ、ポツポツ……

ザーーーッ!


「雨だー!」

「雨が降ってきたぞーー!!」


祭壇の下では皆さんが抱き合って喜んでいます。

その姿にはどちらの村の住人もありません。

よかった……

その姿は、今だけなのかもしれません

また水が枯れれば憎しみあうことになるのかもしれません。

だけど……

こうして分け隔てなく抱き合って喜びあった記憶があれば、きっとまたやり直せることでしょう。

あとは、そうならない環境を作ること

その為にも、ダム……、いえ、ため池ですね

その計画が上手くいけばいいのですが……

私は精神の集中を続けます

とりあえず今日は、あと一時間程も続ければいいでしょうか……



天候制御(コントロール・ウェザー)”の魔法の効果範囲は半径10Km

その雨は、効果範囲内の多数の城の上にも降っていた。


“羽崎城”


「殿っ、どうやらこの雨は領内に最近住み着いた尼僧の仕業との話です」

「さようか……、してその尼の所在はわかっておるのだな?」

「はっ、引っ捕らえましょうか?」

「馬鹿をいえ、へそを曲げられては利用も出来ぬわ、丁重に連れてこい」

「承知っ!」


“明智城”


養父上(ちちうえ)、ご覧になられましたかっ?」

「ああ……、不思議な事もあるものだ、雨など降るようには見えなんだが……」

「最近羽崎の方で不思議な人物が住み着いたという話もあります、一度行って確かめてみようと思いますが、よろしいでしょうか?」

「それはいいが……、他領で揉め事を起こしては不味いぞ?」

「それはもちろん、では行って参りますっ!」

「うむ、くれぐれも気を付けてな、


十兵衛」

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