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戦国時代の大魔導師  作者: あや
道程
30/32

その5

明けましておめでとうございます、というには流石に時間が経ちすぎましたね(苦笑)

本年もどうぞよろしくお願い致します

河渡(ごうど)から本巣、大野までの道中は特に何事もなく進み、赤坂へとたどり着きました。

この地は先年、織田家と共に美濃へと攻め込んできた朝倉家の軍勢が進軍してきた場所で、すぐ先の岡山にあるお寺が本陣として利用されたそうです

そこからは大垣城の様子がよく見えるそうで、当然織田家の人々もそれは知っています

なので、当然警戒も厳重になるだろう、とのことでした。

此処までにかなり時間も取られていますし、出来るだけ急いで通り過ぎてしまいましょう

私が歩を早めていると、早速向かいから見廻りらしい兵が数人近付いてきました。

私は軽く会釈をすると、すぐ横を通りすぎます、すると……

「待て、何処へ行く」

呼び止められてしまいました。

落ち着かないと行けません、私は小さく深呼吸をすると、出来るだけ平静を装って答えます

「私は近在の百姓ですが、その先の親戚の家へと参ります」

そう言って、相手の様子をうかがいます。

少し待って特に反応がないようなので、先へ行こうとしましたが、どうやら何か引っ掛かったのかその行く手を阻むように回り込まれました

「怪しい奴、こちらへ来い」一人が腕を捕んできます

このまま詰め所か何処かへ連れていかれて、尋問か何かをされるのでしょうか?

それは困ります

私は相手の腕を振りほどくと、数歩後ろへと下がりました。

その前方を囲むように四人の兵が、抵抗するな等といいながら距離を縮めてきます

私は手にした杖を握り直すと、呼吸を整えて呪文を唱えました


眠雲(スリープクラウド)


道端へと倒れ混み眠っている兵の方々の姿を少し申し訳なく思いながら、私は歩みを再開しました

あの人達が目を覚ますまでにはまだ少し時間があると思いますが、仲間がいないとも限りません

追っ手がかけられるまでに出来るだけ距離を稼いだ方が良いでしょう。

今夜は美濃の内で最後の一泊の予定でしたが、無理をしてでも国境を越えた方が良いかも知れません

そう思えば、自然と足も早まっていきました。



大垣城の城代を勤める織田播磨守の元へ、その報告が入ったのは日が落ちてすぐのことだった。

「不審な者を取り逃がしただと?」

「はっ、赤坂の湊より岡山の裏へと続く道を通る百姓姿の年寄りを見掛けましたが、この者その風体によらず腰高にして足取りも早く、不審に思いましたため問い質しましたが、その者が何か呟いたかと思うや、皆一様に抗い難き眠気に襲われその場にて倒れ伏してしまい、取り逃がしてしまいました」

「ふむ、面妖な……、(あや)しの術か」

「斎藤家の間者でしょうか?」

「風体を老人に見せ掛けておったのに所作で見破られたのであろう?間者であれば左様な不手際はせぬと思うが……」

腰高は姿勢が良すぎる、足取り早くはそのまま、足運びが軽快すぎるということだ

「ともあれ警戒を強めた方がよかろう、早急に手配り致せ」

「はっ、直ちに」そう言うとすぐ、指示を出すためにその場を去っていった。



街道の方からちらちらと明かりが見えます、おそらく私を探す松明の火でしょう

眠雲(スリープクラウド)の魔法は簡単な刺激で解除することが出来ますから、お仲間の方が見つければすぐに起こして事情を聴くことになるでしょう。

そう考えて、街道を避けて山道へと入ったのですが既に辺りは暗く、またここまでの道中で疲労も溜まり、慣れない山道に足取りは重くなってしまいます

追っ手の方々にこちらの場所を教えることになりますので灯明(ライト)の呪文を唱えるわけにもいきません。

幸い周囲の温度差等で空間を把握する“暗視(インフラビジョン)”の魔法がありますのでどうにか移動することが出来ていますが、日中や灯明(ライト)の灯りの元のようにはいきません

そのうちに、自分がどちらを向いているか、方角さえわからなくなってしまいました。

山頂へと向かえば周囲の様子がわかるのではないかと足を向けましたが、慣れない山登りに疲労はますます溜まっていきます

そうしてどのくらい歩き続けたのか……、空が微かに白み始めた頃、遠くに建物らしき影が見えてきました

そうして、微かに人の声が聞こえたのを確認すると……、私は意識を失ってしまいました……。


気が付くと、私は知らない部屋で横になっていました。

側には愛用のローブと魔法の杖、持っていた荷物や履いていたスニーカー等が置かれています

ゆっくりと板の間から体を起こすと、改めて周囲を見渡します。

「ここは……?」

「あ、気が付かれましたか」

私の声に、部屋の外に居られた小僧さんが反応します。

「ここは天台宗篠尾山、円興寺の僧坊です、貴女はそのすぐ外に倒れられていたのですよ」

私に向き直りそう仰います

「お寺ですか?私は山の中を歩いていたと思ったのですが……」

そう答えながら自分の姿を確認します。

旅の最中に着ていた村娘の姿で、手を見た限りでは元の姿に戻っているようです

小僧さんは私に一言断りを入れると、お寺の和尚さんを呼びに行かれました。

私は荷物を確認して、無くした物が無いことを見届けるとそのまま元へと戻します

なんとなく、助けて頂いた方を疑っているようで心苦しかったのですが、道中や倒れたあとに無くした可能性もありますので一応確かめておく必要はあったと思います。

そうしていると、先程の小僧さんと共に立派な身形のお坊さんがいらっしゃいました

こちらがこのお寺の和尚さんでしょう

お二人の話に依りますと、どうやら私は山頂を目指す途中、このお寺の側で倒れてしまっていたようです。

夜も更けた後に山中を歩んでいた私を怪しみもせず、泊めて頂いたことはとても嬉しく思いましたし、なればこそ、このまま長居をしてご迷惑をお掛けしてはと早々に失礼しようと思ったのですが、自分で考えている以上に疲労が溜まっているようで立ち上がった拍子にふらついてしまいました

もう暫く休んでいくようにとの和尚さんのお言葉に甘えて、一晩お世話となることにしました。



「われ(いま)(さいわい)に、仏祖(ぶっそ)の加護と衆生(しゅじょう)の恩恵によって、この清き(じき)()く、つつしんで食の来由(らいゆ)をたずねて、味の濃淡を問わず、その功徳を念じて品の多少をえらばじ、いただきます」


食事の前に手を合わせてお祈りします

これは天台宗に伝わる“観心食法(かんじんじきほう)”という教えを分かりやすく説いた言葉となるそうです。

普段の生活でいただきますというのはこの言葉を省略しているのでしょうか?

だとすると、ごちそうさまに当たる言葉もあるのかもしれませんね

そんな風にぼんやりと思いながら食事を頂いていると、ありました、やはりごちそうさまに当たるお祈りもあるそうです。


「われ今、この清き(じき)を終わりて、心ゆたかに力身に()つ、願わくは、この心身(しんじん)を捧げて己が(わざ)にいそしみ誓って四恩(しおん)に報い奉らん、ごちそうさまでした」


やはりごちそうさまでした、で終わりますので、元の世界のようにずっと後の時代まで、普段の生活の中にこういった仏教などの習慣が残っているのだなぁと感じ入ってしまいました

それと同時に、仮にも尼僧を装っているのならもっとこうした知識を得ておく必要があるのではないか、そう思った私は和尚さんに仏の道について教えていただけるようお願い致しました。


「仏教という言葉には三つの意味がありますが、先ず一つは仏の、釈尊の説かれた教えの事を言います」

朝食の後の時間、和尚さんは私の願いに付き合っていただけることとなりました

私が、恥ずかしながら仏教については無知に等しいと告白したところ、まずは基本となる教えから説明して下さるとのことです。

「二つには、釈尊の教えに従って日々を送る事で自らも同じように悟りを開き、解脱して仏へと至る事を目指すということです」

お坊さんというのは皆さん、お釈迦様に成るために修行してらっしゃるのでしょうか

私は本当のお坊さんになるつもりはありませんが、そうであるように装うのであればやはり、実際にお坊さんがどんなつもりでいるのかは知っておいた方が良いと思います。

人がお寺に入り仏教を学んでお坊さんになろうとするのは、お釈迦様のような立派な人物となって世の人々を救おうという気持ちがあるから

少なくとも仏教の教えではそう説いているということなのでしょう

それは、三つ目の教えにも現れていると思います。

「三つには、悟りの世界は全ての生きとし生けるものに平等に与えられており、多くの人々と共にその世界へ行こうと互いに努めあう教えということです」

釈尊、つまりお釈迦様ですね、そのお釈迦様の教えを守り、多くの人々と共に日々努めて暮らし、皆で悟りを開いてお釈迦様の説かれる仏の世界へと至ろうという、それが仏教の、お釈迦様の教えなのでしょう

素晴らしい教えだと思います、ですが……、世間知らずの私でも、それが到底実現するとは思えない話だということは理解出来ます

たぶんそれは、日々修行をされている皆さん自身が分かっていることなのかもしれません。

それでもどうせ無理だと諦めてしまうのではなく、仏の教えを精進し続けている立派な方がいらっしゃることが、嬉しく思えました

歴史のお勉強では、この時代のお坊さんについてはあまり良くないイメージの方が強かったですからね……。


「さて、それでは次に仏教の中でも我々が学んでいる天台宗についてお教え致しましょうか、まずは……」

その和尚さんの言葉を遮るように、騒々しい足音が近付いてきます。

「和尚様、仁王門にお侍様が押し寄せて来られています!」

「ふむ……、では少し行ってまいります故、暫しお待ちくだされ」

そう言い置いて和尚さんが、小僧さんと共に部屋をあとにされました。

待っているようにと言われた私でしたが、昨日のことを思えば、その目的が私なのではないかと思います

このままただ御厄介になってもし、ご迷惑をかけることがあっては申し訳ありません。

とは言え初めから相手に私の姿をさらすことも却って良くないことになるでしょう

私は隠蓑(コンシール・セルフ)の呪文を唱えると、姿を隠して和尚さんたちの後を追いかけました。

作中の仏教についての説明は天台宗のHPを参考にさせていただきました

http://www.tendai.or.jp/index.php

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