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戦国時代の大魔導師  作者: あや
美濃大乱
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その15

稲葉山城下より妻木の城へと続く道を、光秀と弥平次の二人は馬に揺られていた

妻木城主、藤右衛門広忠より新年の挨拶として送られた、当地産の陶器を山城守の妻、小見の方が大層気に入った為、その返礼の使者として遣わされた……、というのが、表向きの理由である。

では実際のところはと言えば……


「どうだ、これで婚儀の前に相手の顔を見ることが出来よう?」

悪戯小僧のような顔をした山城守の一言が全てだった。


「山城守様も心憎いことをされますね」

楽しそうな顔でそう言う弥平次に、だが光秀は渋い顔で応える。

(じか)に会ってしまえば断るわけにもいくまい」

「……断られるつもりだったのですか?」

そう言われてしまえば返答に困る。

元より斯様(かよう)に話が纏まっていては、断ることなど出来るものではないのだ

だが、それでも敢えて断るとして、直に相手に会ってから断れば、相手に恥をかかせることとなる。

況してや断られた娘はどうなるか

また、もし相手が世間で言われるほどの美形で無かった場合、噂と違って美しくなかったから断った等と受け止められかねない

そんな風評が立っては光秀としても面白くない


あれこれと思い悩むが結局のところ、お前のためだと言われながら内堀を埋められていく現状に、有り体に言えば拗ねていたのだった。



「斎藤山城守が家臣、明智十兵衛光秀に御座います、此度は主、山城守の代理として先日のお礼に参りました」

「それは態々のお運び誠に忝ない、某が当家の主、妻木藤右衛門広忠に御座る」

そう言って、壮年の実直そうな男性が頭を下げる。

妻木氏は明智氏から分かれた支流の一つで、代々土岐郡の妻木村を領してきた

領内を流れる妻木川の左岸は丘陵となっており、それを利用して築かれたのが妻木城だった。

またこの丘陵地帯では鎌倉期以降より陶器生産を行われており、代々の妻木城主はこれを推奨してきていた

当代の城主、広忠もまた陶器生産を推奨しており、これを妻木の家の収入源として確立しようと努めてきていたが、尾張の瀬戸に比べればまだまだ質・量ともに見劣りするのが現状であった

広忠は当年三十二才の逞しい身体の持ち主だが、姿に似合わぬ穏やかな人物で今も将来の婿となるべき光秀を穏やかに眺めている。

その後ろには、二人の女性が控えていた

広忠の二人の娘で、上の娘を煕子と言い十六歳、妹の方を芳子と言って十四歳

この姉の煕子が、光秀との縁談のある娘だった。

「さて、私は山城守様への返書をしたためて参りますので、その間庭などご覧になってお待ちくだされ……、煕子、ご案内せよ」

「はい……」

そう言って、煕子と呼ばれた女性が立ち上がる。

その様子に断ろうとした光秀だったが、声を発する前に思いとどまる

これはつまり、庭を見せる等というのは口実で、当人同士の顔繋ぎをさせるのが目的なのだ

そうと気付けば断ることもない、一度話をしてみようという気になった。



普段住み暮らす館は城の北麓にあり、山道を進めば大手門へと通じている

大きくはないが手入れの行き届いた様子は館の持ち主の性格を現しているようだった

二人は大手門を潜ると道を脇へと逸れ、そのまま奥へと進んでいく。

「明智様は稲葉山へお勤めですから、美しいお庭なども色々御覧になられておいででしょう」

そう言いながら、煕子が先に立って歩いていく

どう返答しようかと迷う光秀へと、煕子は更に言葉を続けた

「ですので、これより妻木の宝をお見せしようと思います」

そのあとはずっと無言のまま、先を歩いている煕子の後をついていく。

家宝を見せると言いながら、城への道からはずれた方へと歩んで行くその後ろ姿へと、光秀は声を掛けあぐねていた

自分の妻になると言うこの女性がどんな人物か、今一つ掴みきれずにいたのだった。

だが、やがて二人の行く先にやや開けた景色が見えてくれば、彼女が何を見せようとしたかが分かったような気がした……

「なるほど……、これは、まさしく妻木の宝……」

その光秀の呟きを聞いた煕子は、出会ってより初めて、満面の笑みを浮かべる。

「はい、これが、この景色こそが……、妻木の宝です」


二人の眼下には斜面を使って作られた窖窯が、その先に拡がる田畑が、更にはこの妻木の地で暮らす人々の営みが、一望に見渡すことが出来た


「……何故、この光景を某に?」

「光秀様は明智の本家の後継者、それに我が夫と成られるお方、それは私ども妻木の家を預けるお方でもありましょう」

「なるほど、つまりは試された訳ですな」

「申し訳も……」

「いや、構いません、それより……」

そう言って光秀は、恐縮して俯いてしまっている煕子の顔を覗き込むようにして訊ねる。

「煕子殿の目から見て、某はどう評価されたのでしょうか?」

「いえ、それは……」

言い澱むと顔を真っ赤に染めてしまう

恥じらう煕子の手をそっと取れば、はたと顔を上げる

互いの目と目が合えば、どちらからともなく身を委ねあった……。



「と、いうような次第です」

いつものようにやって来た弥平次さんが、麦湯を飲みながらそう話しています。

「では、お二人の婚儀の件は良い方向に進んだということですね?」

「ええ、収穫後の予定ですが、折角お二人とも乗り気になったのなら予定を早めてはどうかという話も出ているくらいですよ」

黒猫(やまと)の相手をしながらそう、楽しそうに語られています。

実際には諸々の支度や出費の問題などもあって収穫後という日程に変更は無いだろうとの事ですが、お互い文のやり取りももう何度も交わしていて、如何にもその日が待ち遠しいといった様子だそうです

私は史実でのお二人の仲睦まじさを表すエピソードを幾つか知っていますので、やはりそうなのだなぁ、なんて思ったりもしてしまいます。

生前、男性の方と恋愛をするような機会も余裕もありませんでしたので、そういった運命の相手のようなシチュエーションにはやはり、少し憧れを持ってしまいます

「なんにせよ、幸せになって頂けると良いですね」

そんなありきたりのない、でも心からの思いに、弥平次さんも何度も頷いてらっしゃいました。

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