その12
大垣城を攻め落とし勢いに乗った尾張勢は朝倉景隆率いる越前勢別働隊約三千と合流、井ノ口へと攻め寄せ町へと火を放った
これに対し稲葉山城からは長井隼人佐道利が手勢を引き連れ出撃、尾張勢と当たるも無理をせずに城へと引き返した
初戦の勝利に気を良くした尾張勢は陣を引き気勢を上げていたが、やがて夜半になると斎藤山城守自ら兵を率い夜襲を敢行、不意を突かれた尾張勢は総崩れとなった。
「退くなっ、踏みとどまれいっ!」
信秀は必死で軍勢を立て直そうとしたが、一旦定まった流れを覆すことは出来なかった
「殿、此処は我らに任せてお引きくだされっ!」
平手政秀と共に那古野城の兵を預かっていた青山与三右衛門信昌が、手勢の一部を引き連れて駆けつける。
「与三右衛門かっ、儂は引かぬぞ!」
「なりませぬっ!殿は織田家に、いや尾張に無くてはならぬお方、はよう落ち延びられませっ!」
「与三右衛門っ!」
「中務殿が残兵を纏められてます、早くっ!」
言うや配下の一人に馬の口を取らせ政秀の部隊へと合流するように指示をする
「殿、おさらばっ!」
そう言い捨てるや馬腹を蹴る
僅か十数名に減った手勢を纏めると、攻め寄せる山城守の軍勢へと突撃して行った。
一方、尾張勢の後詰めとして後方に控えていた越前の別動隊は尾張勢が壊滅したのを見るや、直ちに兵を纏めて鷺山の麓へと後退し陣を敷いて斎藤勢と対峙する姿勢を見せた
両者は暫く睨み合っていたが、やがて互いに兵を引くと越前勢は岡山の朝倉宗滴率いる本隊と合流、そのまま越前へと退却していった。
斎藤勢は尾張・越前の軍勢を追い払ったが、大垣城には織田播磨守の手勢が残った
斎藤勢はこれを排除しようと山城守自らを中心に攻め寄せたが、城方も一歩も引かず応戦した為に落城させることは出来なかった。
大垣の城を囲んでいた山城守の元へと、やがて意外な報告が届けられる
「殿、織田弾正忠が兵を率い竹ヶ鼻城へと攻め込みました!」
ガタッ、と床几を蹴倒して立ち上がる。
「弾正忠め、まだ左様な余力が残っておったかっ!」
先の戦いで散々に打ちのめしたと思った信秀が、こうもすぐに兵を起こすとは流石に山城守も思いもよらなかった
竹ヶ鼻がもし落ちれば稲葉山も危うくなる、山城守は大垣の奪還を諦めざるを得なかった。
山城守が大垣の包囲を解いて竹ヶ鼻城へ後詰に向かっていると聞くと、信秀はすぐに手勢を纏めて尾張へと引き上げた
今回の信秀の出陣は大垣城の救出が目的で、竹ヶ鼻城を攻略できるだけの兵力は用意できなかったのが実際のところだ
だがそれを最初から覚られては目的は果たせない、なので攻城軍は本気で城攻めをする必要があったし、だからこそ山城守を欺くことができた。
後になって事実を知った山城守は烈火の如く怒ったがその時にはもう大垣城には増援が送られていた
その中には先の美濃国主、土岐頼芸の姿もあった 。
「西美濃は元々山城殿に反抗的な者が多い、頼芸公と結び付けば厄介なことになりますな」
明智光安がそう言うと、渋い顔をして頷く。
「民部、如何すれば良いと思う?」
「さて……、再び大垣を攻めるとなれば尾張はまた稲葉山を攻めんと見せましょう」
そう言って一旦話を区切ると目を伏せる。
「尾張は大垣の兵を増やしましたし、そこに頼芸公が居るとなれば揖斐等がどう動くかという問題もありましょう、先達てのように進退が容易になるとは限りませぬ」
「……大垣は放置するしかあるまい」
御意、と頭を下げる。
山城守は苦々しげな顔で何かを考えていたが、ふうと大きく息を吐くと仕方ない、といった様子で呟いた
「屋形にお戻り頂くしかあるまい」
その言葉に光安が、はっとした顔をあげる
「儂はちと性急すぎたやもしれぬ、まずは尾張と和睦し屋形にお戻り頂く、そして西美濃等の不穏な輩を取り込む」
「それは……、危険ですぞ」
山城守の言葉に考え込むように、口許へと手を宛がう
「今さら頼芸公を戻せば土岐家の影響力を払拭することは出来申さぬ、まさかに今更、土岐家の一守護代の身に甘んじようと思うてらっしゃるわけでもあるまい」
「わかっておる、次はもう少し時を掛け、徐々に影響を取り除いていこうと思う」
「……」
不同意を示すように難しい顔をしていたが、山城守の考えが変わらないことを確認するとやれやれと言うように首を振る
山城守は手を打って人を呼ぶと、大垣城へと使者を送るように指示を出した。
「斯様な形で再会するとはのう、山城守」
「……美濃守様にはご機嫌麗しゅうあられまして」
「左様に見えるか?山城守」
「美濃守様には長旅にてお疲れでしょう、今後は御ゆるりとのんびり絵でも描いておすごしくだされ」
「利政?」
「北方城に手を入れ整備をしておきました故、今後はそちらで過ごされると宜しかろう、早う美濃守様をお連れ申しあげよ」
「利政、お主……」
「政のつまらぬことはこの山城がお引き受け申す、美濃守様には日々を楽しくお過ごしくだされませ」
そういって平伏する山城守を暫く見つめていた頼芸だったが、やがて息を吐くと案内する兵に連れられて部屋を出ていった。




