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戦国時代の大魔導師  作者: あや
美濃大乱
18/32

その11

「気を付けて、くださいね」

そう言って、出陣していく村人達を見送ります。

尾張と越前の軍勢が美濃へと攻め混んできて、今美濃は大騒ぎになっているようです

ここ、羽崎の村でも稲刈りが終わって一段落していた村人が、兵隊として徴用されることになりました。

先年の、羽崎の乱と言われたあの騒ぎの時はまだ田んぼの世話があったりであまり強い徴用も出来なかったようですが、今回は刈り入れも終わっていますし、何より自分達の土地を守ろうとする戦いですので、前の時と比較しても多い人達が戦に行くことになりました。

あの時は、羽崎のお殿様の軍の人達は大勢殺されたようで、この村からも何人か死者が出たようです

今度はどれだけの人が帰って来られるのか……


そういえばたしか、歴史の本でみた話の中に兵農分離と言う言葉があったような

詳しいことは覚えていませんが、たしかお百姓を兵隊として使うのではなく、専用の兵隊を雇う、だったと思います。

生前に読んだ本に織田信長が他の大名に一歩抜きん出た理由、としていくつかの要因が載っていたと思うので、思い出したら書き残しておこうと思います

今度弥平次さんが来たら話してみましょう、何かの参考になるかもしれません。



「無理だそうです」

「無理ですか……」

弥平次さんがお父さんの光安さんに聞いてみた所、兵農分離を進めるには多くのお金が必要だそうです。

それも最初だけではなくて、継続して必要になると

たしかに生産に寄与しない人間を大勢雇うなら、その人達を食べさせなければなりません

母も私を養うために苦労をしていたのですから、少し考えればわかることだったと思います

他にも思い出したこととして、鉄砲をたくさん揃えて集中的に使う、というものがありましたがこれもやはりたくさんのお金が必要になるとの事でした。

「そうすると、まずはお金を稼ぐことが必要ですね」

「商売ですか?」弥平次さんの表情が少し険しくなりました

武士の人というのはあまり商人をよく思っていないことが多いらしいですが、弥平次さんもそうなのでしょうか?

「ああいえ、商人自体をどうこう思ってはいないのですが、武士が商人の真似事をするというのはちょっと……」

あ、なるほどです。

「ですが、何をするにもお金は必要ですよ?」

「それは、そうなのですが……」

うーん、と二人で考え込んでしまいます。

「一番思い付くのは、特産品を売るとかですが……、美濃の特産品、名物ですね、って何があります?」

「名物ですか?ええと、栗、柿、あと檜かなぁ……?あ、紙はわりと有名かも、あと焼き物も、瀬戸程ではないですが」

焼き物?あ、瀬戸と言うことは瀬戸物、つまり陶器の事ですね

そういえばたしか生前、土岐市で陶器まつりがあるって聞いたことがありました

たしか国産陶器の約半数は岐阜県産だったと思います

ですが、弥平次さんの口調ですとこの時代はまだそれほど美濃の陶器は有名ではないようですね。

「産業を振興するにもお金が要りますし、何をするにも先立つものが必要、ですね」

「それよりも、今は目の前の戦をどうするかの方が大事だと思います」

「……危ないのですか?」

常と違う弥平次さんの口調に、思わずそう訊ねてしまいます。

「尾張の軍勢に大垣城が落とされたので、色々騒がしくなってるようですよ」

斎藤山城守が前の国主の土岐氏を追い出してまだ二年、まだまだ不満を持っている人は多いようです。

「昨夜は山城守の御使者として光秀様が戻られて、すぐに父と二人で稲葉山城へ出掛けていきました」

「……弥平次さん、こんなところでのんびりしていていいんですか?」

「私はまだ九歳(ここのつ)ですよ?お城のことは叔父さん(明智光久)が見てくれてます」

数え年なので、私達の時代で言えば八歳、そう考えれば凄くしっかりしている気がしてきます

あの騒動の時も混乱の中私を探して下さいましたが、あの時まだ六歳なんですよね……。

「……どうかしましたか?」

「いえ、何でもないです」

それより、そんなにお金がかかるなら、どうして織田信長にはそれが出来たのでしょう?

「織田家はお金持ちなんですよ」

「そうなのですか?」

弥平次さんの話ですと、今の織田家の先代、つまり織田信長のお祖父さんですね、その人の代に津島という町を支配下に収めたのですが、この町は川湊と言って木曽三川と呼ばれる川を下ってくる物資の集積地なのだそうです

信濃や美濃、尾張を通って伊勢へと抜けるこの川を、荷舟が何艘も荷物を積んで通ります

車も飛行機もないこの時代では舟がトラックの代わりを務めているのです。

つまり美濃や尾張の物資を集め、伊勢と取引をする津島は莫大な富と利権の集中する経済拠点なのですね

この地を信長のお祖父さんの代からしっかり握っているから、織田家は裕福なのですね

……なんだかずるい気もします

とにかくもう少し考えてみて、よい思案が浮かべば明智の殿様に相談してみようと言うことで、その場は別れました。



「それは違うよ弥平次、美濃は本来豊かな国なんだ」

愛理さんとの話について叔父に相談してみると、開口一番そう言われた

明智次右衛門光久、父光安の弟に当たる人で父の留守中は城代を務めてる

いつも物静かで父もよく相談事を持ち掛けているみたいだ

私が不思議そうにしていると、叔父が話を続ける。

「美濃は木曽三川のおかげで水利に恵まれ土地も豊か、……それなのに、何故民の暮らしが苦しいと思う?」

「……わかりません」少し考えたあと、正直にそう答えた

「思い出してごらん弥平次、当代屋形・頼芸公は兄・頼武公やその子、頼純公と美濃守護の座を争った」

「はい」

「その父、政房公も弟・元頼公と、重臣達を巻き込み家督を争った」

「……」

「さらにその父・茂頼公は一色氏からの養子だったが、亡き嫡男の子を押す養父・持益公と守護職の座を巡り、これも争う事になった、またその後は京を中心に十年も続く事となった戦乱に美濃も巻き込まれた」

叔父の言葉を聞いて、流石に私も何を言おうとしているのかがわかってきた。

「もっと遡るならその持益公の代にも富島氏・長江氏・斎藤氏が守護代の座を巡って争っている、美濃はもうこんな事を百年も続けているんだ……、わかったかい?」

何も言えず、ただ無言で小さく頷く

「美濃が貧しいのは上に立つ者、つまり国主が悪い」

「……」

「今の国主、斎藤山城守も例外ではない、頼芸公を唆し乱を起こし、父娘を仲違いさせ嫡男を勘当させ、最後には城を攻め追放した」

「ですが……、山城守の元で越前と尾張の兵を追い払えば、美濃は良くなるのではないですか?」

私の言葉に、叔父はゆっくりと首を振る

「美濃桔梗一揆、土岐氏以外の元ではなかなか纏まるまい……、山城守はあくまで守護代としての立場に留まるべきだった」

「では、斎藤氏の下ではもう美濃が良くなることは無いのですか?」

「……三代」少し考えながら、そう口にする

「三代続けば、それを当たり前と思うようになるだろう……、それまでをどう乗りきるかが問題だが」

「難しいのですか?」

「弥平次は聞いていないかい?山城守の“刑を用うるに酷”という噂を」

そう言えば聞いたことがある

“小さな罪で捕まえられた者までが釜茹でや牛裂きといった重罪に処されている”と……。

「領内を引き締めようとしているのだろうけど、あれでは長く続かない、今に反乱が起きる」

尾張の軍は頼芸様を押し立て大垣城を落とした、越前の軍は赤坂まで出てきたが、大きな抵抗は受けなかった

表立って他国の軍に靡いてはいないものの、山城守のために死力を尽くすといった抵抗は見受けられない

対陣が長引けば尾張軍内の頼芸様、越前軍内の頼純様の存在が大きくなってくる。

領内の反山城守派がそれらに同調すれば……



青い顔をして黙り混んでしまった弥平次の姿を見れば、少し脅かしすぎたかなとも思う

とはいえ、嘘を言ったつもりはない

現状を正しく認識しないことには、現状を変えることはできない

弥平次には、それを理解してほしいと思う。

それにしても、十兵衛や弥平次、それに幼い我が子二郎四郎等が明智を背負う頃には美濃がどうなっているか……

兄も山城守に働きかけてはいるようだが、あの気性ゆえ容易には受け入れられまい

今のままでは斎藤家の先は難しいだろう、そしてそれは、美濃にとっても不幸なことになろう。

なにか切っ掛けが……、山城守が、美濃が変わる切っ掛けがあれば……、そう願ってしまう

弥平次が出会ったというその少女に、それを望むのは酷だろうか……

もうすぐ兄が戻る頃合いだろう。

まずは美濃を侵す敵を打ち払う、後のことはそれからだ

近付いてくる足音を聞きながら、ゆっくりと立ち上がった。

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