5 森を抜けた後
まず、俺がしなければならない事、それは情報を集める事だ。
今の俺には復讐を果たす為の情報が全く足りていないのだ。
ここは何処なのか、今は俺が死んでからどれだけの時間が経ったのか、復讐対象達は今は何をしているのか。そんな事すらも今の俺には分からないのだ。
それらを知らずして復讐を成せる筈もない。故に俺はそれらを知る為にもまずは情報を集めなくてはならない。
その為には一刻も早く、ここから離れて何処かの街へと行かなくてはならないだろう。
「……さて、行くか」
そして、俺は森の中を当てもなく進み始めた。
「おっ、これは……」
その道中、森の中で見つけたのは野盗の死体だった。死体はまだ白骨化はしていない。恐らく、死んでからそれほど時間は経っていないのだろう。こうした人里から遠く離れた森の中で野盗の死体が転がっているのは珍しい事ではない。
そして、俺は野盗の腰にあった道具袋を手に取った。過去、追手に追われる中でこうして野盗の連中から物を奪う事で何とかその日を凌いでいた日も多々あった。
その為、死体から物を漁る事にも抵抗はない。そして、道具袋の中を漁るとその中には保存食の類と数十枚程の銅貨が入っていた。
「折角だ。貰っておくか」
俺は野盗の死体から使えそうな物全てを剥ぎ取った。
そんな事を繰り返しながら森を進む事暫く、日が昇ってから少しの時間が経った頃だった。長かった森が遂に終わり、街道が現れたのだ。
(やっと、か……)
結局、森では誰かに出会う事は無かった。それどころか、何故か魔物すらも姿を見せる事は無かった。
あったのは、野盗の死体の数々のみだ。しかし、街道はちょうどいい。この道を進めば何処かの街に辿り着くはずだ。
そして、街道を進み始めてから暫くしたその時だった。突如として、自分の後ろから何やら慌ただしい音が聞こえてきたのだ。
「なんだ?」
音が聞こえてきた方を見ると、そこには全速力で街道を走りながらこちらへと向かってくる馬車の姿があった。
そして、その後ろには馬車を追いかける十数体程のハウンドウルフの姿も見える。恐らく、あの馬車はハウンドウルフの群れに追われているのだろう。
「召喚、【断罪の復讐剣】」
俺は断罪の復讐剣を召喚し、迫ってくる馬車とハウンドウルフに警戒を向ける。そして、馬車の御者の男はこちらに一瞬だけ視線を向けるが、それ以上何かをする事無く、全速力で俺の後ろへと逃げていった。恐らく、俺に構っている余裕すらないのだろう。
すると、その直後の事だ。馬車を追いかけていた筈のハウンドウルフの群れが突如その進行方向をこちらへと変えてきたのだ。逃げる馬車よりも動かない俺を標的に変更するのは合理的な判断だ。
「ウオオオオオオオオオオオオン!!!!」
雄たけびを上げながらこちらへと向かってくるハウンドウルフの群れ。ハウンドウルフの足は速い。普通の人間であれば、その速さに対応できず直ぐに食い殺されるだろう。
だが、今の俺にはその速さは脅威ですらなかった。
「遅い」
腐っても俺は元勇者だ。ハウンドウルフ程度の魔物は何百体と屠ってきた。数体程度に苦戦する訳もない。
そして、ハウンドウルフの群れをそれぞれ一刀の元に切り伏せると、そのまま断罪の復讐剣の召喚を解除した。
「さて、この死体はどうするか……」
すると、その直後の事だ。後ろへと逃げていた馬車がこちらまで戻ってきたのだ。
「すまない、助かったよ」
そう言いながら、御者の男は馬車から降りてきて頭を下げた。また、男の乗る馬車の後ろの荷台には木箱が複数個並べられている。恐らく、この男は行商人なのだろう。だが、そこで俺はある違和感を抱いた。
「……護衛はいないのか?」
普通、彼の様な行商人ならば護衛の傭兵を雇っている筈だ。しかし、護衛の姿は一切見られない。明らかに普通ではない。俺は警戒心を強める。
だが、行商人は俺の内心を知ってか知らずか、困った顔をしながら口を開いた。
「ちょっと困った事情があって普段雇っている護衛を雇えなくてな。それで、別の護衛を雇ったんだが、そいつに前金だけ持って逃げられたんだ。それで、信用できそうな護衛を見つける時間も無くて、仕方が無いから一人で次の街まで向かう事にしたんだ」
だけど、こんな時に限って魔物に襲われるなんて俺も運が無いな、とその男は呟いた。
「そう、か……」
その男の言葉に俺は内心の警戒心をほんの僅かだけ緩める。すると、その直後、彼は何かを思いついたような表情を浮かべた。
「そうだ、ここであったのも何かの縁だ。さっきの戦いぶりを見たが中々の強さのようだし、護衛として雇われてみないか? 当然、報酬は弾むからさ」
「いいのか? 俺もその護衛みたいに裏切るかもしれないぞ?」
「ああ、見ず知らずの俺を助けてくれたあんたにまで裏切られたのなら、俺はそれまでってことなんだろうさ」
その言葉に俺は考え込む。今は蘇ったばかりで手持ちは心もとない。手元にあるのは野盗の死体から手に入れた数十枚程度の銅貨だけだ。今後を考えると、多少なりとも先立つものは必要だ。
「分かった、その依頼を引き受けよう。俺の名前はアークスだ」
「そうか、俺はケインだ。あんたが護衛を引き受けてくれて助かるよ。じゃあ、後ろに乗り込んでくれ」
そして、俺達が馬車に乗り込むと、そのまま馬車は動き始めたのだった。




