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再誕した勇者は誓った復讐を成す為、血塗られた道を進む  作者: YUU
序章

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2 全てを奪われた日

 それは、俺達が魔王討伐の旅から帰還してから少しの時間が経ったある日の事であった。


 その日、俺は自分の故郷であるオルフェリア帝国、その頂点に君臨する皇族からの呼び出しを受け、皇城へと訪れていた。

 そして、侍女に案内されるまま謁見の間へと招かれた俺を待っていたのは帝国の第一皇女であるセラフィーナ・フォン・オルフェリア皇女殿下だった。


「勇者アークス、我が帝国が誇る勇者よ。よくぞ来てくださいました」


 開口一番、セラフィーナ皇女はその表情に笑みを浮かべながら、俺を迎える言葉を紡いだ。


「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「魔族の王たる魔王の討伐、実にお見事でした。そこで、此度はあなたに褒美を与える事になりました」

「褒美、ですか?」

「ええ」


 そこで俺は頭に疑問符を浮かべた。魔王を討伐した後、その功績を讃えるべく、大々的な式典が開かれた。

 そして、その場で褒美として莫大な報奨金が俺に与えられる事が決まっていた。

 また、報奨金の一部は故郷の村にいる妹や村の皆の元に送るように手配もしてもらっている。それは皇女殿下も知っている事の筈だ。

 ならば、報奨金とは別の褒美が与えられるのだろうか。しかし、それならば何故今なのだろうか。

 そんな疑問を抱いている俺の内心を知ってか知らずか、セラフィーナ皇女は手招きするようにこちらへと手を向けた。


「さぁ、勇者アークスよ。立ち上がり、前へと歩み出なさい」

「……畏まりました」


 俺の頭の中は疑問符が溢れていたが、勇者と言えど、元は一平民でしかない俺が皇族の言葉に逆らえる筈もない。

 俺はセラフィーナ皇女の言葉に従い、そっと立ち上がる。そして、三歩ほど前へと歩み出たその瞬間だった。

 突如として俺の足元に見た事のない巨大な魔法陣が現れたのだ。


「なっ!?」

「ふふふふっ。さぁ、始めましょうか」


 そして、セラフィーナ皇女は俺がその魔法陣に反応する前に指をパチンと鳴らす。すると、その次の瞬間だった。直後、足元の魔法陣が強く光り輝きだし、同時に俺の身に原因不明の激しい虚脱感が襲い掛かってきたのだ。


「うっ、ぐっ……!!」


 そのあまりに強い虚脱感に俺は立っている事すらできず、両膝を床に着けてしまう。そして、俺は思わずその視線をセラフィーナ皇女へと向けた。


「っ、皇女殿下、これは一体……」

「ふふっ、まさか、こんな簡単に罠に掛かるとは思ってもいませんでしたわ」


 そう言いながら、セラフィーナ皇女は今まで見た事が無いような侮蔑の視線を俺に向けながらクスクスと笑みを浮かべる。それを見た俺の頭に過ぎる嫌な予感が何故だか拭いきれない。

 すると、セラフィーナ皇女はその視線を謁見の間の端にいたこの国の宮廷魔術師の証であるローブを身に纏った一人の女性へと向けた。


「エミリア、こちらに来なさい」

「はい」


 その女性の事を俺は良く知っている。このオルフェリア帝国の筆頭宮廷魔術師であるエミリアだった。同時に俺と共に魔族や魔王と戦った仲間でもある。 


「さて、と。まずは何から話すのがいいかしら?」

「では、彼の勇者の力の秘密からお話しするのは如何でしょうか?」

「ふふっ、それがいいですわね。では、あなたはあれの準備をしなさい」

「畏まりました」


 エミリアは恭しく頭を下げた後、何らかの準備をし始める。その一方でセラフィーナ皇女は笑みを絶やす事無く、見下すような視線で俺を見つめる。


「さて、先程の話通り、これからあなたに宿った勇者としてのその力の秘密を教えて差し上げましょう」

「……俺の勇者の力の、秘密……?」

「ふふっ、よく考えてごらんなさいな。そもそも、ただの一平民に過ぎなかったあなたが本当に何の代償もなしにあれ程の力を得られたと本当に思っているのかしら?」

「…………は?」

「あら、まだ分かりませんの? では、あなたがあの力を得た代わりに何を失ったのか、それを今から教えてあげますわ」


 その言葉の奥に秘められた意味が今を以て理解できない俺の様子にセラフィーナ皇女は笑みを浮かべるばかりだ。

 すると、何かしらの準備を終えたエミリアがセラフィーナ皇女の傍まで歩み寄っていった。


「皇女殿下、準備が整いました」

「そう、では種明かしを始めましょうか。あなたの力の秘密のね」


 そして、セラフィーナ皇女はまるで唄う様に俺だけが知らなかった真実を語り始めた。


「まずはこの話をしましょうか。あなたの妹、確かエイミーといったかしら。彼女はもうこの世にはいませんわ。あなたの妹はわたくしたちの為の犠牲になってもらいましたの。それこそ、あなたが勇者として力を与えられたあの日の前日にね」

「………………は……?」


 セラフィーナ皇女の口から突如として放たれたその言葉の意味を俺は理解できなかった。そんな事はあり得ない、あり得ない筈なのだ。


「皇女殿下、何を、仰って、いるのですか……? 俺が勇者として魔王と戦う代わりにエイミーの生活に関しては安心していい、と約束してくださったはずです。それにあの旅の最中でも俺の元にはエイミーからの手紙が……」


 そうだ。俺が勇者に選ばれた際、セラフィーナ皇女は故郷であるエルト村に残してきた妹のエイミーの生活を保障すると約束してくれた筈だ。

 それに、勇者として旅をする最中でも時折、妹から自身の安否と最近の様子を知らせる手紙が届いていた。だからこそ、俺は安心して勇者として戦う事が出来たのだ。

 だが、セラフィーナ皇女は困惑で頭が埋め尽くされた俺を見つめながら、懐から扇を取り出しそっと口元を隠すと、クスクスと笑みを浮かべた。


「ああ、あれの事ですか。良く出来た偽物でしょう?」

「……………は……?」

「あの手紙はわたくしの元で働く文官が作った偽物ですのよ。だというのに、あなたったらあんなに簡単に信じてしまうなんて。あっさりと騙されてしまってこちらの方が驚きましたわ」

「……嘘だ。そんな筈は……。だって、あの手紙は間違いなくエイミーの物で……」

「ふふっ、まだ信じられないといった様子ですわね。でしたら、これからあなたにも妹の最後の姿を見せて差し上げますわ。エミリア、あれを」

「畏まりました」


 そして、エミリアが懐から取り出したのは記憶水晶だった。エミリアはそれをすぐに起動する。

 すると、そこに映し出されたのは故郷に残してきた筈のたった一人の妹であるエイミーの姿だった。


「っ、エイミーっ!!」


 だが、そこに映し出されたエイミーの姿を見た瞬間、俺は無意識の内に叫んでいた。今のエイミーの姿はどう見ても異様だったからだ。両手足を椅子に縛られた状態で固定されており、その恰好はまるで拷問を受ける前の囚人の様にしか見えなかった。

 また、エイミーがいる場所も明らかに異様だった。その場所は明らかに拷問部屋の様相を呈しており、辺りにはセラフィーナ皇女と宮廷錬金術師であるマリアナの姿がある。


『っ、ここは何処ですか!? それにあなたは一体誰なんですか!?』


 映像の中のエイミーは今の自分が置かれているこの状況に戸惑いの様子を見せながら必死にそう叫ぶ。

 だが、そんな映像の中の二人はエイミーの様子を見ながら笑みを浮かべるばかりだ。


『さぁ、始めなさい』

『畏まりました』


 そして、セラフィーナ皇女の言葉にマリアナはまるで慣れたかのように部屋に用意されている数々の拷問器具の内の一つを手に取った。

 その映像を目にした俺の脳裏には最悪の予感が過ぎった。


「……っ、まさかっ。やめろ、やめてくれっ!!」


 そして、その直後の事だ。マリアナは俺の予感通り、その拷問器具を用いて、エイミーに拷問を始めたのだ。


『いやっ、いやああああああああああああああああああああ!!!!』

「っ、エイミー、エイミー!!」

『痛い痛い痛い痛いっ、やめっ、やめてえええええええええええ!!!!』


 エイミーは必死に叫ぶが、拷問を続けるマリアナはその叫び声をまるで意に介した様子はなく、それどころか拷問の手を早めていく。

 俺は思わず映像から目をそらし、周囲にいる連中へと視線を向けた。




「どうして、どうしてエイミーにこんな事を!?」


 だが、俺の必死の言葉に周りの連中は無反応だ。そして、セラフィーナ皇女、いや、この女、セラフィーナは笑みを絶やす事無く、おもむろに口を開く。


「あなたが持つその勇者の力、それを生み出すのに必要な事がこれだからですわ」

「……………………は?」

「あなたの持つ勇者の力、それはあなたと血の繋がった血族の絶望と負の感情に染まった魂を核とし、そこに同じく五百人の絶望と負の感情に染まった生贄の魂を錬成する事で作られたものなのです」

「どういう、事だ……?」

「ふふっ、見ていれば分かりますわ」


 そして、そんな俺達の様子もお構いなしに映像の拷問は更に熾烈さを増していく。


『やめてっ、やめてくださいっ!! もう許して、許してくださいっ!!』


 エイミーは必至に懇願するが、拷問を続けるマリアナの耳には届かない。彼女はエイミーの絶叫にも感情を動かす事なく淡々と拷問を続けていく。

     

『いやっ、いやっ、兄さん、助けて、助けてえええええええ!!』

「エイミー、エイミーっ!!!!」


 目の前にあるそれが記録映像だと知っていながらも俺は叫ぶのを止められない。だが、そうしている間にもエイミーへの苛烈な拷問は続いていった。


『兄さん、兄さん、助けてええええ!!』

「殺す、お前ら全員殺してやるっ!!」


 足元の魔法陣の影響で俺の体は動かない。それでも俺はせめてもの抵抗としてありったけの殺意を込めて連中を睨み付ける。

 しかし、連中はそんな必死の抵抗を愚かな者を見るような目で俺を見下ろすばかりだ。


「ふふっ、身動きが取れないあなたがどうやってわたくしを殺すのかしら?」


 そして、流れる映像の中でエイミーに対する拷問は続いていき、遂にそれが終わる時が来た。


『マリアナ、そろそろ儀式を行えるかしら?』

『ええ、今のこの女の状態であれば、儀式を行うのに十分な負の感情を抱いている筈です』

『それでは、儀式を次の段階へと進めましょう。宝剣をここに』

『畏まりました』


 すると、映像の中のこの女はマリアナが差し出した宝剣を手に取った。

 俺はセラフィーナが手に取った宝剣に見覚えがあった。あの宝剣はかつて俺がオルフェリア帝国の勇者として正式に選ばれた際に行われた勇者の儀で使用されたこの国の国宝だった筈だ。勇者の儀ではあの宝剣から俺は勇者の力を与えられたのだ。

 そんなものを何故今持ってくるのか、それは分からない。


『こちらの方も準備は大丈夫ですの?』

『ええ、伝承通り、この女と同じく深い負の感情を抱いた生贄たちの魂は既に問題なく宝剣の中に取り込まれております。後は皇族の末裔である皇女殿下の手によって核となる魂を宝剣に取り込ませる事によって、自動的に力の錬成が始まる筈です』

『そう、では始めますわ』


 そう言いながら、映像の中のこの女は宝剣の切っ先をエイミーの心臓へと近づけた。

 その映像を見た瞬間、俺の脳内には強烈な嫌な予感が駆け巡った。そして、俺はその嫌な予感に突き動かされるように必死に映像の中のエイミーへと手を伸ばそうとする。


「まさかっ!? やめろっ、やめろやめろやめろ、やめてくれええええええ!!!!」


 だが、俺のそんな叫びも虚しく、宝剣はエイミーの胸を容易く貫き、そのまま呆気なく心臓へと到達する。その瞬間、宝剣は俺が勇者としての力を授かった勇者の儀と同じように光り輝いた。だが、それと引き換えるかの様にエイミーの瞳からは徐々に光が消えていく。


『にい、さ、ん……』


 そして、そんな言葉を最後に残すとエイミーの瞳からは光が完全に失われた。その瞬間、俺の脳内に過ぎるのはエイミーとの大切な思い出の数々だった。


『兄さん、早く起きてください。朝食が覚めてしまいますよ』

『早くご飯を食べてください。兄さんの食器を洗うのは私の仕事なんですから』

『兄さん、今日は一緒に寝てもいいですか……?』

「ああっ、ああああああああああああ!!!!」


 映像はいつの間にか終わっていたが、そんな事はもはや俺にとってはどうでもよかった。


「さて、これがあなたが持つ勇者としての力が生み出された経緯ですのよ。理解出来ましたかしら?」


 目の前にいるこいつらが何かを言っているが、俺の耳には一切届かない。俺の心を埋め尽くすのは目の前にいるこいつらへの激しい憎悪だけだった。


「ころ、す……。殺すっ、殺す殺す殺す殺すっ、お前ら全員必ず殺してやるっ!!」


 俺はありったけの憎悪を込めて目の前にいる連中へと叫ぶ。だが、こいつらは何が面白いのか、俺のそんな姿にもニヤニヤと笑みを浮かべていた。     


「ふふっ、力も使えずにそこで無様に足掻く事しか出来ない今のあなたに一体何が出来るというのかしら?」


 そして、セラフィーナはその視線をエミリアへと向けた。


「エミリア、そろそろ儀式を行えるかしら?」

「ええ、彼の今の状態であれば問題なく力を引き剝がせるでしょう」

「そう、では今代の儀、その最終段階を始めましょう」


 そして、セラフィーナはあの時と同じ宝剣を手に取り、それを魔法陣へとそっと突き刺した。

 すると、その瞬間だった。足元の魔法陣がゆっくりとした速度で回り始めたのだ。


「なに、が……。あがっ!!」


 だが、俺はそんな事に困惑する余裕もなかった。俺の体にはまるで魂から何かが無理矢理引き剥がされるかの様な激痛が走り始めたからだ。


「あぐっ、があああああああああああああああ!!!!」


 同時に俺の中にあった勇者として今迄培ってきた力が徐々に何処かへと流れていくのが分かった。その力の向かう先は間違いなく、足元にある魔法陣だ。

 俺は何とか痛みを堪えようとするが、今まで味わった事が無いほどの激痛に体を動かす事すらままならない。

 すると、セラフィーナは余裕ある表情を浮かべながらゆっくりとした足取りで俺の元まで歩み寄ってくる。  


「さて、と。儀式の完遂までは少々時間もある事ですし、少し面白い話をして差し上げますわ」


 そして、この女が語りだしたのは俺が知らなかったもう一つの真実だった。


「先程も説明した通り、あなたの持つ力は恐怖と絶望に染まった血族の魂。それを核とし、そこに同じく深い恐怖と絶望を抱えた魂達を錬成する事によって貴方が持っていた勇者の力の器が完成しますわ

 ですが、それだけではあなたの中の力は未完成なのです。儀式を経て出来上がった器の中身はいわば空の状態。

 だからこそ、あなたが今まで討伐してきた魔物や魔族、魔王の存在が重要になってきますわ。

 それらを討ち倒し、その力を取り込んだ今のあなたの中にある器には膨大な力が宿っておりますのよ。その力をあなたに宿らせる事がわたくしたちが勇者という存在を作り出した理由ですの」


 じゃあ、なにか。俺が勇者として戦った今迄の全てが、こいつらの目論見通りに過ぎなかったとでもいうのか?

 だが、この女はそんな俺の怒りも意に介した様子はなく、何が面白いのか、楽しげな様子で話を続けていく。


「そして、あなたの身に宿っているその膨大な力を女神様に捧げる事により、女神様からわたくしたち尊き血を持つ者達に大いなる祝福が与えられる事になりますのよ。それこそが、我ら帝国皇族や帝国貴族達が建国の時代から今に至るまでこれほどの繁栄を保ってきた秘密ですの。

 ふふっ、あなたの犠牲によってわたくしたちは更なる繁栄を享受する事が出来ますわ。あなたはその身をもってわたくしたちの繁栄の礎となれるのです。その事を光栄に思いなさいな」

「……ふざ、ける、な……」

 

 そんな、そんな事の為に、俺の妹は、エイミーは!!

 

 だが、憎悪に染まる俺の心の内とは裏腹に目の前にいるこの女は何が楽しいのか、クスクスと笑みを浮かべるばかりだ。


「ああ、それともう一つ面白い話を教えて差し上げますわ。あなたの力の生贄には血族の魂以外にも五百の人間の魂が必要となると先程言いましたわよね。実は、その生贄はあなたと親しければ、親しい程、相性が良いんですの。

 あなたがかつて暮らしていた村、確かエルト村と言ったかしら。あなたの力にはあの村の住人全ての魂も使われていますのよ」

「……なっ!?」

「あの村に暮らしていたのは確か百人程度でしたわね。生贄の数には足りなかったですが、あの村の住人全員をあなたの力を生み出す為の生贄とさせていただきましたわ。

 今はもうあの村には住人は誰も残ってはいないでしょうね」

「ふざ、けるな……。ふざけるな、ふざけるな!!」

        

 こいつらはエイミーだけに飽き足らず、俺の故郷であるエルト村の住人まで生贄にしたというのか。

 それも、俺の勇者としての力を生み出す、ただそれだけの理由で。


「殺す!! お前ら全員、必ず殺してやる!!」


 俺はありったけの力と憎悪を込めて、連中に向かってそう叫ぶ。 

 だが、心の中で増していくこいつらへの憎悪と比例するかのように、魔法陣は回転の速さを増していき、それに合わせて俺の中にあった力が段々と失われていく。

 そして、力が失われていくばかりの今の俺に出来る事は何もなかった。


「エミリア、今の進捗はどの程度かしら?」

「もうすぐ九割といった所ですね」

「ふふっ、もうすぐですわね。女神様からわたくしたちに祝福が与えられるその時が待ち遠しいですわ」

「ええ、私もその時が待ち遠しいです」


 こいつらの言葉通り、今まで俺の内にあった筈の力の殆どが外へと流れ出ており、残っているのは一割程度、本当に雀の涙ほどの力だけだ。


「くそがっ……。殺す、殺してやる……」


 俺の口から放たれたその言葉は呆れる程に弱弱しかった。今もなお、俺の中にある力は時間と共に失われ続けている。俺の中に宿っていた筈の力の殆どは足元の魔法陣に吸収されており、残っている力は殆どない。この儀式とやらが終わったとき、文字通り俺の命を含めた全てが女神に捧げられるのだろう。

 だが、それでも俺はここで死ぬわけにはいかない。俺を、俺達を弄んだこいつらを皆殺しにするまで死ぬわけにはいかないのだ。

 そして、俺は最後の力を振り絞りながら、抱いた憎悪の全てを込めて、こいつらに向かって声を上げる。


「お前たちを殺すまで俺はああああああああああ!!!!」


 俺がそう叫んだその直後だった。


 ----パリィィン!!!!


 何かが壊れるような音と同時に先程まで輝きを放っていた魔法陣の光がまるで嘘のように消えたのだ。また、それと合わせて魔法陣の回転も止まっている。

 同時に今まで俺を襲っていた激しい痛みも波が引いた様に何処かへと消えていた。


「なん、だ……?」


 自分の体に訪れた変化に困惑していると、どこからともなく声が聞こえてきた。


『兄さん……』

「エイミー、エイミーなのか!?」


 不意に聞こえてきたその声は間違いなくエイミーのものだった。だが、その声が一体どこから聞こえてくるのか、全く分からない。

 しかも、この声はどうやら俺にしか聞こえていないようで辺りにいる連中はエイミーの声には一切反応を見せていない。

 だが、その一方で連中は魔法陣が止まった事に揃って焦っている様子を見せている。特に焦っているのはこの儀式を行っていたセラフィーナ達だ。


「一体、何が起きていますの!?」

「わ、分かりません。こんな事、伝承には一切……」

「とにかく一刻も早く儀式を進めなさい!!」

「か、畏まりました!!」


 周りの連中が何かを叫んでいたが俺の耳には一切届かない。俺の意識は聞こえてくるエイミーの言葉にのみ向けられていたからだ。


「エイミー、一体どこにいるんだ!?」

『ごめんなさい、私はもういないの。兄さんが見た映像通り、あの時に私は死んでしまった。今の私は兄さんの中にある魂の欠片に過ぎないの』

「エイ、ミー……」

『だけど、今の私ならここに残っている力を使って、兄さんだけでも助けてあげられる』


 すると、その瞬間だった。足元の魔法陣が先程までとは逆の方向への回転を始めたのだ。しかも、魔法陣は先程以上の輝きを放っている。その光はこの場にいる者の視界全てを奪わんとする程の輝きだ。


「っ、あなた達、止めなさい!!」


 今迄に無い異常を察知したエミリアの指示を受けた辺りにいた連中が駆け出そうとするが、彼等の行動は一歩遅かった。魔法陣の回転は一気に加速し、同時に俺の周りには強い光源が現れた。


『だから、兄さんだけは生きて……』

「エイミー、エイミーっ!!」


 そして、エイミーの最期の言葉に声を返したその瞬間、光に飲まれながら俺の意識は消失するのだった。




 そして、俺が次に意識を取り戻したのは見覚えのない森の中だった。


「ここ、は……?」


 辺りを見渡すと遠くの方に先程まで自分がいた筈の皇城が目に入った。

 どうやら、ここは皇城から遠く離れた何処かの森の中の様だ。あの後、何が起こったのかは分からないが、それでも直感的にエイミーがここまで俺を運んでくれたのだと感じていた。

 そして、俺はあの時に聞こえたエイミーの最後の言葉を思い出した。


「生きて、か……。分かったよ、それがエイミーの願いなら、俺はどこまでも生きてやるよ。そして、いつか必ずお前の仇を……」


 俺は一刻も早くここから離れるべく、体を起こす。あの儀式とやらを完遂出来なかった以上、帝国の連中はすぐにでも俺の身柄を抑えるべく、捜索を開始するだろう。その前に俺はここから逃げなくてはならない。

 これから始まるのは、行く先すらない旅路だ。それでも、俺は生きなければならない。それがエイミーの最後の願いだからだ。

 そして、同時に俺は誓う。俺から全てを奪った連中への復讐を。

 だが、この時の俺は知らなかった。これが俺に訪れた地獄、その始まりに過ぎなかった事を。

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