1 蘇り
昏い、昏い闇の底で叫ぶ怨嗟と憎悪の声。その絶叫だけが聞こえる場所を俺の意識は漂っていた。
----殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!!
そこは怨嗟の念で埋め尽くされた海、俺の意識が漂うのはその海の深い奥底だった。
----憎い、憎い、憎い、憎い!!
今が夢なのか現実なのかすら分からない。
----死ね、死ね、死ね、死ね!!
聞こえてくる声はまるで世界全てを呪うかのような悍ましい呪詛、意識すら定かでない今の俺にはその声に耳を塞ぐ事すら出来ず、ただただ流されるままにその呪詛を聞き続ける事しかできない。
あれから一体どれだけの時間が流れたのだろうか。一秒か、一分か、一日か、或いは一年か。
もはや時間の感覚すらも遥か彼方へと消え去っており、あの日から一体どれほどの時間が流れたかすら分からない。
今の俺に出来るのはこの怨嗟の海でいつ終わるとも知れぬ漂流を続ける事、ただそれだけであった。
そして、その時が訪れたのは何の前触れもない、突然の事だった。
永遠に続くかと思われたそれはある時、何の前触れもなく突如として終わりの時を迎えたのだ。
(……なん、だ……?)
虚ろな意識の中でその変化に困惑していると、俺の魂を覆っていた憎悪達はまるで波が引く様に何処かへと消えていき、同時に意識が怨嗟の海から次第に浮上していくのを感じる。それに伴い、夢現だった意識も徐々に覚醒していくのを感じた。
「かはっ、はぁ、はぁ……」
そして、目を覚ました俺の目の前に広がっているのは見覚えのない何処かの森のような場所だった。
「ここ、は……、一体……」
そして、そのまま起き上がり自分の周囲を見渡す。すると、その時だった。
『よう、目が覚めたか?』
そんな声と共に俺の目の前に現れたのは空中に浮かぶ黒い炎としか表現出来ないナニカだった。
その声に俺は聞き覚えがあった。死を迎えようとしていた時、俺に自分を受け入れる様に声を掛けて来たあの声だ。
『無事に復活出来た様で何よりだ』
「……そうか、あんたが死ぬ直前だった俺を蘇らせてくれたのか」
『ああ、そうだ。正確に言うなら、お前の肉体はあの時に間違いなく死んだ。だが、天へと還ろうとするお前の魂を俺がこの世界に繋ぎ止め、同時に俺の力でお前の器となる肉体を再構成したんだよ』
「そうなのか……。だが、どういった経緯であれ、俺を助けてくれたんだろ。ありがとう、あんたのお陰で俺はこうして生きていられる。
……だが、あんたは誰なんだ?」
目の前にいる相手が何者なのか、俺には分からない。しかし、どうしてか目の前の存在が自分の敵ではないという事だけは不思議と理解できた。
『それを説明する前にお前には思い出してもらわなければならない記憶がある。お前が人生で最も最悪だと言ったあの日の記憶、今でも覚えているな?』
「……ああ、覚えているさ。忘れられる訳がないだろう」
そして、俺は人生で最も最悪な一日を思い出した。




