プロローグ 終わりと始まり
久し振りに復讐ものが書きたくなったので、書いてみました。所謂、勇者復讐ものです。元々は諸般の事情でお蔵入りにするつもりでしたが、せっかくなので投稿したいと思います。
一章分は書き溜めがある為、そこまでは安定して投稿できると思います。お付き合いしていただければ幸いです
何処で間違えたのだろう。或いは最初から間違っていたのかだろうか。
間違えたのは魔王を討伐し、帝国へと戻った時だろうか。それとも、故郷を出る事を決断した時だろうか。それとも、勇者として選ばれた時だろうか。
或いは、最初からこうなる事が決まっていたのだろうか。今となってはそんな事すらも分からない。
ただ一つ言えるのは、全てを失った俺に残ったのはこの激しく燃え盛る復讐心のみだという事だけだった。
全てを知ったあの日から始まった長い長い逃亡生活、その行く当てもない俺の旅路も遂に終わりの時が訪れようとしていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。くそっ、こんな所で……」
残された体力は既に底をついており、残された魔力もごく僅かだ。今の俺の状態はまさに満身創痍という言葉が相応しい有様だった。
「遂に追い詰めましたよ」
「皇女殿下のご命令に従い、その命を貰い受けます」
「さぁ、勇者よ。その身を女神様へと捧げなさい」
そして、そんな状態の俺の周りを取り囲むのはかつて俺が仲間だと信じていた者達、友だと信じていた者達だった。
彼等は今や俺の命を狙う刺客となり、今の俺に残されている物全てを奪わんと、こちらにその牙を向けている。
「こんな、こんな所で……」
だが、ここで死ぬわけにはいかない。俺を裏切り、俺から全てを奪った連中に復讐を果たすまで俺は倒れる訳にはいかないのだ。
「こんな所で、俺はああああ!!!!」
そして、俺は自らの心に残る復讐心という憎悪の炎を糧に最後の力を振り絞る。
「【光輝なる聖剣】、召か……」
だが、言葉を紡げたのはそこまでだった。
「かはっ!!」
その瞬間、限界を超えた代償か、俺は吐血しそのまま地面へと倒れ伏した。
「ようやく終わりましたか」
「さて、皇女殿下より与えられたご命令もこれで完了です」
「これで、女神様もお喜びになられるでしょう」
直後、俺の耳に聞こえてくるのは俺が憎むべき復讐を誓った連中の声だ。奴らは俺を見下ろしながら、笑みを浮かべていた。
そんな奴らの声が聞こえてくる度、俺の内にある復讐の炎が激しく燃え上がる。
(お前たちに復讐するまで、俺はああああああああああああああ!!!!)
だが、どれだけ復讐心を燃え上がらせようとも、肉体の限界というのは必ず訪れる。その証拠に、心の内に燃え上がるその復讐心と反比例するかのように自らの意識がまるで手から零れ落ちる砂の様に少しずつ、だが確実に消えていくのを俺は感じていた。
今は辛うじて思考できるだけの意識が残っているが、それもそう遠くないうちに消えるだろう。
それでも、俺はまだあの日に誓った復讐を全く成していない。復讐を果たす為にも俺はここで死ぬわけにはいかない。
(俺はっ、俺はああああああああああああああああああっ!!!!)
しかし、どれだけ俺が復讐心を燃やそうとも現実が変わる筈も無い。気力だけで必死に意識を繋ぎ止めるが、それにもやがて限界が訪れる。
「俺は、必ず、お前たちに、復讐して……」
そして、残る力の全てを振り絞りながら紡いだその言葉を最後に俺の視界は真っ暗に染まった。その直後、辛うじて繋ぎ止められていた意識も徐々に零れ落ちていく。そのせいか、何かを考える事すらももう殆ど出来なくなっていた。
(ああ、ここで、終わり、か……)
そうして、遂に自分という存在に終わりが訪れる事を悟った俺は思わず全てを諦めようとし、意識を手放そうとする。
だが、その直前だった。
『おい、お前はこのまま復讐を成す事無く、だた一人で死ぬつもりか?』
その声が聞こえた瞬間、今にも消えかかっていた俺の意識が僅かながら戻ってきたのだ。そのお陰か、思考力も戻ってきた。
(誰だ、お前は……?)
だが、突如として聞こえてきたその声に俺は全く心当たりがなかった。しかし、何故だかその声の主が自分の敵ではないという事だけは本能的に理解が出来た。
『そんな事、今はどうでもいい。聞きたいのはただ一つ。お前に復讐の意思があるかどうか、それだけだ』
(それ、は……)
答えは決まっている。
復讐を遂げるまで終わるわけにはいかない。俺を裏切り、俺から全てを奪った者達への復讐を成すまで死ぬわけにはいかない。
『そうか、ならば俺を、俺達を受け入れろ』
(受け入れる……? そうすればどうなるんだ……?)
『お前が俺たちを受け入れれば、今にも消えようとしているお前の命の灯火に再び火が灯る。そして、お前が奴らに奪われた力は蘇り、同時に新たなる力をも手にする事が出来るだろう』
その声の言葉に俺は驚きを隠せなくなる。もし、俺が奪われた力を本当に取り戻せるのであれば、誓った復讐を成す事も出来る様になるだろう。
しかし、分からないのはこの声の主についてだ。何故、この声の主は俺に力を貸そうとするのか、あいつらに奪われた俺の力を取り戻す術を知っているのか、それが全く分からなかった。
だが、そんな俺の疑問にその声は答える事は無く、淡々と言葉を続けていく。
『しかし、その前に一つだけ忠告をしておこう。俺達を受け入れるという事は俺達の抱えた憎悪と怨念、その全てを受け入れるという事でもある。
そうなれば、お前は復讐対象の全てに復讐を遂げるまで、復讐という血塗られた道を歩み続けるしかなくなるだろう。
それがお前が蘇り、力を取り戻す為に支払わなければならない代償だ。それでも、俺を、俺達を受け入れるか?』
だが、俺はその声の言葉に迷う事すらなかった。
俺を裏切ったあいつらに、俺の大切な妹や友人達を奪ったあいつらに報いを与えるまで、あいつらを地獄に引きずり込むまで俺は死ねない!!
俺は自らの内に燃え盛る復讐の業火の赴くままに叫ぶ。
(あんたが誰でもいい。俺に力を、あいつらへの復讐を成す力をよこせえええええええええええ!!!!)
『よかろう、契約は成立だ』
その瞬間、俺の中には黒く染まった膨大な憎悪や怨念、復讐心が流れ込んでくる。
(あがっ、がああああああああああああああああああああああ!!)
そして、俺の意識はその怨念に飲み込まれながら、途切れるのだった。




