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再誕した勇者は誓った復讐を成す為、血塗られた道を進む  作者: YUU
序章

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20/25

19 クラリスの過去④

 そして、それが起きたのは奴隷となってからもうどれ程の時間が経ったか分からなくなったある日の事でした。いつもの様にあの男、グスタフが私たちのいる牢屋へとやってきたのです。

 グスタフは牢屋の前に立つと、お母さんに視線を向けながらニヤニヤと笑みを浮かべています。


「さて、遂にお前の売り先が決まった。命令だ、俺についてこい」


 グスタフの言葉にお母さんは何かを決意したような表情を浮かべました。


「……分かったわ。あなたに着いていく。だから、この子にだけは手を出さないで」

「ははっ、元よりそのつもりだ。今日はお前だけだからな」


 二人の会話を聞いた私の脳裏に嫌な予感が過ぎりました。それは、私とお母さんが引き離されるのではないかという予感でした。

 ですが、それはお母さんの存在だけに縋ってきて日々を耐え抜いてきた私にとって、それは何よりも恐ろしい事でした。

 その予感が事実であると証明するかのように、お母さんだけが牢屋から連れ出されていきます。


「お母さん、お母さんっ!!」

「さよなら、クラリス、あなたは生きてね」


 私は必死に手を伸ばしますが、その手がお母さんに届く事はありませんでした。そして、お母さんはそんな言葉と共に寂し気な視線を一度だけこちらに向けると、そのまま何処かへと連れていかれました。


「ああっ、お母さん……」


 一人、この牢屋に残された私の瞳からは涙が止まりませんでした。




 そして、お母さんが何処かへと連れていかれてから暫くの時間が経った頃でした。

 グスタフが牢屋へと戻ってきたのです。ですが、連れていかれた筈のお母さんの姿は何処にもありません。


「おい、お前は母親に会いたいか?」


 その言葉に私はどうしても嫌な予感が拭えません。それでも私は首を縦に振っていました。すると、この男はそれを見た瞬間、ニヤリと嫌な笑みを浮かべました。


「そうかそうか。なら、お前に会わせてやるよ。母親の死に目ってやつにな!!」


 そして、私は牢屋から無理矢理に連れ出され、別室へと連れていかれる事になりました。ですが、そこにいたお母さんの姿に私は思わず息を飲んでしまいました。

 そこにいたお母さんの姿は大きな机の上で横にされていたのです。しかも、両手足を机に縛られ、全く身動きが取れないようにされています。

 また、お母さんの周りにはナイフのような物を持った数人の男たちがいました。


「っ、お母さんっ!!」

「っ、クラリス、どうしてここに!?」

「ははっ、こいつが会いたいって言ったんだぜ?」

「やめてっ、あの子にだけは手を出さないで!!」

「そのつもりはないさ。あいつも大事な商品だからな」


 そして、グスタフは視線を私の方へと向けるとおもむろにその口を開きました。


「さて、命令だ。お前はここで大人しく母親の最期を見ていろ」


 グスタフは私にそう命令を出してきます。その瞬間、私の首に嵌められた奴隷の首輪は効力を発揮し、一切の身動きが取れなくなりました。

 直後、グスタフはお母さんの元まで向かうと、部下から手渡されたナイフを手に取ります。


「始めるぞ」

「分かりました」


 そして、グスタフとその部下たちは持っていたナイフをお母さんの体へと強く押し当てました。


「あぐっ、があっ!!」


 お母さんは痛みからか苦悶の表情を浮かべながら、うめき声をあげています。

 そして、お母さんの体が切り開かれると、グスタフとその部下たちはその内側を見ながら満足気な笑みを浮かべました。


「この魔核、品質はどうだ?」

「かなり良好です。例の魔力増強薬を飲ませ続けた影響もあり、純度もかなり高いですね。これなら、高く取引できるでしょう」

「なるほど、じゃあとっとと魔核の取り出し作業を始めるぞ」


 そして、グスタフは続けてお母さんの右足にナイフを押し当てました。


「あっ、ああああああああああああ!!!!」


 お母さんは痛みからか叫び声をあげますが、グスタフ達はその様子を気にする素振りも見せず、お母さんの体を切り刻んでいきます。

 それはまるで動物の解剖の作業のようでした。この男は角度を変えて何度もナイフを差し込んでは、何かを切る様な手の動きをしています。


「いやっ、お母さんっ、お母さんっ!!」


 気が付けばお母さんの右足は溢れ出た血で真っ赤に染まっていました。

 普通なら失血死しかねない程の血がお母さんの体からは失われていますが、簡単に死なない様にお母さんの体には回復用の魔道具らしきものが埋め込まれていました。

 その魔道具の効力によって、お母さんの命は今も繋ぎ止められています。だけど、それは死によって苦痛から逃れる事が出来ないという事でもありました。


「よし、これで右足の魔力回路の切断は終わりだ。次も手順通りに進めるぞ」

 

 そして、グスタフ達はお母さんの右足に行った事を左足、右腕、左腕の順に続けていきます。

 常人なら思わず目を背けてしまいたくなるこの光景もグスタフからの命令の為か、何も出来ずにただ見ている事しかできません。

 だからこそ私に出来る抵抗はたった一つだけでした。


「お母さんっ、お母さんっ、お母さんっ!!」


 それはお母さんの事を必死に呼び続ける事です。ですが、私のその叫び声にグスタフは次第に苛立ちの表情を募らせていきます。


「ちっ、流石にそろそろ喧しいな。命令だ、この作業が終わるまで一切喋るな!!」


 その瞬間、奴隷の首輪の効力が発動し私は声を全く出せなくなりました。


(お母さん、お母さんっ!!)


 それでも私は心の中で必死に叫び続けました。

 そして、私たちにとっては地獄そのもののような光景の解剖作業が始まってから数十分程がたった頃の事でした。この男がお母さんの体の胸の部分から慎重な手つきで取り出したのは大きな黒い石のような物でした。その石は不思議な事に黒く輝いています。


「ふぅ、終わったぜ。苦労したが、やっと取り出せたな」


 お母さんの体から取り出されたそれを目にした時、私は不思議とそれが何なのかを悟りました。あれはお母さんの命そのものだという事を。

 その瞬間、お母さんの命の灯火がふっと消えた事を感じました。また、今までお母さんの命を繋いでいた回復用の魔道具はまるで役目を終えたかのように沈黙し、もうお母さんの命を繋ぎ止める事はありません。

 そして、最後にほんの少しだけ体に残った命の残滓も消えていき、お母さんの瞳からは徐々に輝きが失われていきます。


「クラリス、ごめんなさい……。私は、あなたのお母さんなのに、最後まで、あなたを、守れなくて……」


 その言葉を最後にお母さんの瞳からは完全に輝きが消え去りました。その瞬間、私は嫌でも悟らざるを得ませんでした。お母さんの命が失われたのだという事を。


「あっ、あああああああああああああああああああ!!!!」


 お母さんの命が失われた瞬間、私の心を埋め尽くしたのは底なしの悲嘆と絶望、そして激しい殺意だけでした。 

 だけど、そんな私とは裏腹にこいつはその黒い石を見ながら口元に満足気な笑みを浮かべています。


「生きたまま取り出した甲斐があった。素晴らしい純度だ。これなら高く売れるだろう」


 そして、この男はまるで宝物でも見せびらかすように、お母さんの心臓部から抉り出したその石を私の目の前まで持ってきました。


「これが何か知っているか? これはな、魔核だ」

「ま、かく……?」

「そうとも。知ってるか? 火狐の心臓にある魔核はな、高く売れるんだ。特に激しい苦痛と絶望の中で生きながらに取り出された火狐の魔核は本当に高く売れるんだよ」

「そんな、そんなものの、ために……?」


 高く売れる魔核? そんな物の為にお母さんは、私のお母さんは!!!!


「殺す!!!! 絶対にお前を殺してやる!!!!」

「首輪を着けられた非力な奴隷がどうやって俺を殺すつもりだ? はははははっ!!!!」

「がああああああああああああ!!!!」


 私は激しい殺意を以って必死に奴隷の首輪を壊そうとしますが、簡単に壊れる筈もありません。

 それを知っているこの男は嘲笑の笑みを浮かべながら傍にいる部下へと指示を出していました。


「おい、俺はもうすぐこいつを売る為の商談に入る。帝国のお貴族様がこいつを求めてるんでな。

 お前たちはこの死体を部屋から運び出せ。お貴族様がこいつも素材にするとかで死体の方も求めているからな。

 残りの奴はこいつをあの牢へ戻しておけ。ただし、絶対に傷付けるなよ。こいつも将来の為の大事な商品だからな。もし、殺したりでもしたらお前ら全員、生まれた事を後悔させながら殺してやるからな」


 その後、私は指示を受けたグスタフの部下の手によって再び牢屋の中へと連れ戻されました。時間と共にお母さんを失った悲しみと絶望が少しずつ消化されていきます。

 そして、悲しみと絶望が消えた私に唯一残ったのはこの身を焼く様な激しい復讐心のみでした。


「殺す、殺す、殺す殺す殺す、殺してやる。お母さんが受けた苦しみ、それ以上の苦しみをお前に与えた上で、必ず殺してやる」


 私はこの時、お母さんの仇であるあの男への復讐を誓うのでした。

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