18 クラリスの過去③
私とお母さんがグスタフの奴隷として連れていかれてからの日々は今迄とは比べ物にならない地獄のような毎日でした。私たちはグスタフのアジトにある牢屋に閉じ込められ、命を繋ぐ為の最低限の食糧だけを与えられる日々。
また、私と同じ様に奴隷にされた村の人たちは私たちとは別の牢屋に入れられた為、どうなったかは分かりません。
何処かの帝国に纏めて売る予定だという話が少しだけ聞こえてきた事だけは覚えていますが、それが本当かどうかは分かりません。
それでも、私とお母さんは今はまだ何処かに奴隷として売られる事なく、今もこうしてこの牢屋に閉じ込められています。
「クラリス、大丈夫よ。あなたは私が守るから」
「っ、お母さんっ……!!」
そんな日々の中で私はそう言ってくれるお母さんの存在だけが唯一の心の支えでした。
そして、私とお母さんが奴隷となってから少しの時間が経ったある日の事でした。私たちを奴隷にしたあの男、グスタフが部下数人を引き連れて私たちの牢屋までやってきたのです。
私はそのグスタフの部下の内の一人に見覚えがありました。
「よぉ、久し振りだな」
間違いありません、コルネ村の近くの森でゴブリンに襲われそうになっていたあの男の人です。
ですが、分からないのはどうしてあの時の男の人がここにいるのかです。すると、その男の人は私の元まで顔を近づけてきました。
「あの時は助かったぜ。あんたのお陰で俺はこの場にいられるんだからな」
「……えっ?」
そして、その男は語ります。
曰く、あの時に私が話した私とお母さんの事やコルネ村の事、その情報を目の前の男は自分のボスであるグスタフに話したそうです。それによって予定されていた奴隷狩りの次のターゲットがコルネ村に決まったのだと、その男は語りました。
つまり、私があの時、この男を助けてしまったから村が襲われてしまったのです。それを理解した私は思わず絶望してしまいます。
「そん、な……」
「まぁ、あんたには恩があるからな。あんたが大好きな母親にはこの事は言わないでおいてやるよ」
そう言ってその男は私の絶望した様子を見ながらケラケラと笑うと、グスタフの後ろへと戻っていきました。
そして、その直後の事です。グスタフは懐から液体の入った瓶を取り出したのです。その瓶に入った液体の色は今迄に見た事が無い不気味な色をしていました。
「お前達に命令だ。この薬を飲め」
グスタフの手にあるその薬を目にした瞬間、私の脳裏に嫌な予感が過ぎりました。ですが、私たちはこの男の命令に反する事が出来ません。私とお母さんは差し出されたその瓶を恐る恐る手に取り、中に入っていた薬を一口だけ口に含みます。
そして、その薬を嚥下したその瞬間でした。
「あああああ!! 痛いっ、痛いっ、いやあああああああ!!!!」
私の全身に今まで味わった事が無いほどの激痛が突如として走ったのです。その原因があの薬を飲んだ事だと私は悟りました。
その余りの痛みに私はうずくまり何とか痛みを堪えます。また、お母さんも私と同じ薬を飲まされた為か、痛みに悶えています。
ですが、私を見下ろすグスタフの表情は不満の色を含んでいました。
「おい、薬がまだ残ってるじゃねえか。ちゃんと、全部飲み干せ」
「いやっ、もう飲みたくないっ!!」
私は首を横に振って必死に薬を拒絶しますが、その様子を見たこの男はその視線を自分の後ろにいる部下の男たちへと向けました。
「おい、お前たち、こいつに薬を飲ませろ」
「「「はい」」」
そして、グスタフの指示を受けた男たちの手によって私は無理矢理押さえつけられ、そのまま口を開けようとしてきます。
「やめてっ、やめっ、ごふっ……」
私は必死に抵抗しますが、そんな抵抗も空しく口の中に薬を流し込まれ、そのまま嚥下してしまいます。
「あがっ、あああああああ!!!!」
薬を再度飲んだせいか、先程と同じ痛みが私の体を襲います。それを見た男たちは私の元から離れていき、お母さんの元へと向かっていきました。
続けて、その男たちはお母さんにも私と同じ様に残った薬を無理矢理飲ませます。
そして、そんな私達の様子を見てグスタフは口元を歪に歪めました。
「よしよし、薬はちゃんと飲み干せたようだな。おい、次の薬の投与はいつだ?」
「三日後です」
「そうか。おい、三日後にまた来る。次は抵抗なんかせずにちゃんと薬を飲み干せよ」
そう言い残すと、この男は部下と共にこの場から去っていきました。
そして、それから数日後、グスタフは先日の言葉通り、また私達の元へとやってきて先日と同じように謎の薬を飲むように命令を出してきました。
間違いなく、あの時と同じ薬です。あの耐えがたい痛みを再び味わうのだろうと思った私は薬を飲みたくはありませんでしたが、グスタフは命令によって薬を飲む事を強要してきます。
まさに地獄のような苦しみですが、首に嵌められた奴隷の首輪によって私たちには自死という選択肢すらありませんでした。
それでも、私はお母さんの存在だけを唯一の心の拠り所にしてこの地獄のような日々を耐えてきました。




