17 クラリスの過去②
それはあの森を探索した日から数十日が経ったとある日の真夜中の事でした。
----ドンドンドンドン!!!!
眠っていた私は家の外から聞こえてきた大きな音で目を覚まします。
「ん、なんの、おと……?」
眠い目を擦りながら、目を開けるとそこには普段はいる筈のお母さんの姿がありませんでした。
「っ、お母さんっ……?」
寝起きでぼんやりとしていた頭がはっきりとしていき、それに伴って次第に私の脳裏には一抹の嫌な予感が過ぎります。
姿が見えない一緒に眠っていた筈のお母さん、外から聞こえる騒がしい音。それだけでも、何か外で大変な事が起きていると私に思わせるのには十分でした。
着替える時間も惜しい私は寝間着姿のまま家から飛び出します。
「なに、これ……」
そして、家の外に出た私の目に飛び込んできたのは信じ難い光景でした。
見た事もない男たちが村の人たちを次々と襲っていたのです。しかも、村も酷い惨状で至る所から火が上がっており、私のお友達が住んでいる家も既に燃やされていました。
また、燃える家の近くには村の人の数人が倒れている姿もありました。彼等の体からは大量の血が流れ出ており、息もしていません。それを見た瞬間、私は嫌でも彼らが死んでいるのだと理解させられました。
そして、生き残った人たちも首輪のような物を嵌められ、馬車の荷台に無理矢理連行されています。
「そんなっ、酷いっ……!!」
その余りの光景に私は呆然とする事しかできず、私は無意識の内にそう声を漏らしてしまいました。
ですが、そこで声を出してしまった事が最大の過ちでした。私が声を出した瞬間、村の人を襲っている男たちはまるで、獲物を見つけた狩人の様な瞳でこちらへと視線を向けたのです。
「やっと見つけたぜ。ずっとお前の事を探していたんだ。さぁ、俺達と来てもらおうか」
「……っ」
この村の惨状を作ったのはこの男たちだ、男たちはこの村を襲いに来た夜盗だ、夜盗は私たちの敵だ。直感的にそう悟りました。
「【炎弾】!!」
そう唱えた瞬間、私の手に炎が現れました。
「行きなさいっ!!」
そして、私はその男たちに炎を放ちます。ですが、私の炎は何故か、夜盗に当たる直前、まるで何事もなかったかのように一気に霧散したのです。
「なっ、どうしてっ!?」
「この村にはお前たちの様な火狐がいる事は知っていたからな。当然、お前たちの炎の対策ぐらいは用意してあるさ」
そう言いながら、夜盗たちはニヤニヤとした表情で私に近づいてきます。すると、夜盗に捕まっていた村人の一人、木こりのジョンおじさんが私に視線を向けると、必死の形相で叫びました。
「クラリスちゃん、逃げてくれ!!」
その直後、叫んでいたジョンおじさんは夜盗に殴られて気絶してしまいます。そして、その男は私の元まで向かってきました。私は咄嗟にこの場から逃げ出そうとしましたが、その行動は遅かったのです。
「おっと、逃がすかよ!!」
夜盗の仲間が何時の間にか私の後ろに回り込んでいたのです。その私の体を羽交い絞めにすると、無理矢理首輪の様なものを私の首に嵌めました。その瞬間、体に力が入らなくなり男たちに抵抗する事が出来なくなってしまいました。
後に知る事ですが、私の首輪につけられたのは奴隷の首輪というもので、この首輪を着けられた者は、首輪の主人に絶対服従を強制されるという物でした。
「さて、命令だ。俺に付いて来てもらおうか」
「……はい……」
私はその命令に逆らえず、村の奥へと連れていかれます。
そして、連れていかれた先には気を失って倒れている数人の村人たちを庇いながら、必死に戦うお母さんの姿がありました。
お母さんは私の姿を目にした瞬間、悲痛な表情を浮かべます。
「ボス、連れてきましたぜ」
「おお、でかした」
私はボスと呼ばれたその男の前まで連れていかれます。その男は手に持っていた剣を私の首元に近づけました。
「さて、これでお前の娘は俺の手の内だ。これ以上抵抗するなら、お前の大事な大事な娘の命がどうなるか、分かっているよな?」
「おかあ、さん……」
「俺だってな、お前たちを殺したくはないんだよ。大事な大事な商品になるんだからな。だけど、お前がこれ以上抵抗するのであれば……」
その男はそこまで言うと、剣の刃先を私の首筋にそっと添えました。直後、首筋からは一筋の血が流れ出ます。
「くっ……」
その瞬間、お母さんは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべました。そして、お母さんは投降を示すように両手を上げます。
「……分かった、わ……。あなた達に投降する。だから、これ以上、娘には手を出さないで」
すると、その男はお母さんの元まで近寄ると、その首に私が着けられた物と同じ奴隷の首輪を嵌めました。
「さて、これでお前たちはこの俺、グスタフの奴隷だ。俺たちのアジトまで来てもらおうか」
そして、私はお母さんや村の人たちと一緒にグスタフと名乗ったその男の奴隷として連行される事になったのでした。




