13 襲撃
あの冒険者ギルドでの騒動から暫くの日数が経ったある日の事。その日、俺はクルストの街の一角にある道具屋で買い物をしていた。その目的は今後の旅において必要となる道具を買い揃える為だった。
「店主、調理器具一式を用意してくれ。それと、小さめのテントと寝袋も欲しい。後は……」
そう言いながら俺は続けて旅に必要となる道具を注文していく。
「全部で金貨六枚、銀貨五十枚と銅貨十枚になります」
「分かった」
店主のその言葉に俺は道具袋から金を取り出して、店主へと手渡す。結構な金額になったが、これまでの魔物討伐でかなり稼いでいる。今の懐事情なら問題なく支払えた。
「ありがとうございます。では、ご注文の商品を用意しますので少々お待ちください」
店主はそう言うと店の奥に入っていく。そして、それから暫くすると店主が注文した商品を持って戻ってきた。
「お待たせいたしました。こちらがご注文の商品になります。ご確認ください」
「分かった」
俺は店主の言葉通り、それらの商品を確認していく。
注文通りに問題なく全てが揃っている。それを確認した俺は店主に一言礼を言うと、注文した商品一式を手に取り、そのまま立ち上がった。
「当店のご利用ありがとうございました」
そして、そう言いながら頭を下げる店主の姿を背にしながら道具屋を出た俺はそのまま借りている宿へと戻る為、街中を進んでいく。その道中で俺は今後の事を考え始めていた。
(ここもそろそろ潮時か……?)
元々、ここに俺の復讐対象となる人間はいない。ここに留まっているのは経験値稼ぎと今後に必要となる路銀の為だ。
しかし、この街の周囲にいる魔物で稼げる経験値ではそろそろ頭打ちを迎えてきている。それに、路銀の方も十分に貯まってきている。
そして、旅に必要となる道具もつい先ほど買い揃えた。なんなら、今すぐに旅に出ても問題はないだろう。まぁ、今まで使っている宿の退出手続きや冒険者ギルドへの報告も必要になる為、もう数日は留まる必要があるだろうが。
「日も落ちて来たな。そろそろ宿屋に戻るか……」
そして、俺が宿屋の方角に歩みを進めようとしたその時だった。
「っ、これ、は……」
俺の中にある感覚が告げていた。自分に敵意を向けている存在が複数人いる事を。
かつての逃亡生活によって、自分に向けられている敵意を察知する感覚は極まっているという自負がある。まず間違える筈も無い。
(相手は十人、いやそれ以上、か……?)
俺に敵意を向けている相手の数は間違いなく十人は超えているだろう。
しかし、分からないのは敵意を向けてきている連中の正体だ。
かつての逃亡生活時代ならいざ知らず、今の俺に敵意を向けてくる相手、しかも十人以上の相手に向けられる覚えに心当たりなど全く無かったからだ。
だが、相手が俺に敵意を向けてくる以上、対処しない訳にはいかないだろう。そして、俺はその敵意を察知した直後、いつでも襲撃に対処できる様に敵意を向けてくる相手に悟られない様に身構える。
だが、その敵意の持ち主は今の所、俺からある程度の距離を保っており、今すぐには襲い掛かってくる気配は感じられない。襲ってこない理由は単純にこの辺りに大衆の目がある為だろうか。
(さて、どうするか……)
正直、相手の目的が分からない以上、これからも敵意に気が付かないふりをして宿に帰り、相手の出方を伺うのも選択肢の一つだろう。
だが、その選択肢を取れば、このまま尾行を延々と続けられる事になる。それはそれで面倒だ。更に言うなら、宿にいる間に襲われでもしたら面倒な事になるだろう。ならば、取る選択肢はもう一つの方だ。
(仕方がない。あそこに誘い出すか……)
俺は連中の視線に気が付かない振りをしながら、街中を進んでいく。
そして、俺が辿り着いたのはこの街のスラム、その更に奥にある一角だった。昔の逃亡生活の際にここに隠れていた時期があった為、この辺りであれば大衆の目は殆どない事を俺は知っていた。そして、それは今でも変わっていない様だ。
ここであれば、諍い事を起こすにはうってつけの場所だろう。
「あの道具屋を出たあたりから俺を尾行しているのは分かっている。そろそろ出てきたらどうだ」
そして、俺は連中が隠れている方角に向かってそう叫ぶ。すると、物陰の奥から十数人の男たちが俺を取り囲むように現れた。男たちの正体は分からないが、こいつら全員が俺に明らかに敵意を向けている。
「……お前達は何者だ?」
そう尋ねた直後、一人の男が前へと出てきた。
「よう、あの時にお前に与えられた屈辱、返させてもらうぜ」
「お前は……」
俺に強い恨みを秘めた視線を向けながら、そう告げるのは先日の冒険者ギルドであった決闘で戦った男、レオナルドだった。
「アークス、お前にはここで死んでもらう!! お前を始末しなきゃ、俺のこの屈辱は晴れないんだよ!!」
そして、レオナルドは視線を自分の隣にいる男へと視線を向けた。
「おい、ザック!! わざわざ高い金を出したんだ、必ずこいつを始末しろよ!!」
「分かってるさ。おい、お前たち、やるぞ!!」
そう言いながら、ザックと呼ばれた男は仲間へと合図を送る。その一方で俺は周りにいる連中の練度からこいつらの脅威度を見積もっていた。
(この練度の低さ、プロではないな)
かつての逃亡生活の際、帝国が雇った凄腕の暗殺者に命を狙われた事が何度もあった。だが、俺はそんな危機を幾度も乗り越えてきたのだ。
そんな連中に比べたら、こいつらはぬるすぎる。素人よりは練度はかなり上だろう。だが、明らかにプロの暗殺者とは言えない。
恐らく、この街の裏社会の人間か何かだろう。レオナルドは金でそいつらを雇ってこうして俺を襲いに来たのだろう。
「だが、そんな事をしていいのか? 冒険者同士の正当な理由のない私闘は重い罰則がある筈なんだろう?」
「ああ、もし今回の事をお前がギルドに通報すれば俺はギルドを追放されるかもな。だが、そんな事はあり得ない。何故なら、お前はここで死ぬんだからな!!」
「そう、か」
正直、先程まではレオナルドに恨みはなかった。今後関わり合いが無ければどうでもいい相手だった。だが、殺意を以て俺を殺そうとするのであれば話は別だ。
「俺を殺そうとするんだ。お前たちもそれなりの覚悟はできているんだろうな?」
俺はそう言いながら、臨戦態勢へと移行する。
「お前たち、やれっ!!」
すると、男たちはザックの放ったその言葉を皮切りに一斉に俺に襲い掛かってきた。
正直、この程度の相手であれば、今の俺であっても断罪の復讐剣を使わずとも勝てるだろう。だが、こんな連中に一秒たりとも時間を使うのも馬鹿らしい。
「召喚、【断罪の復讐剣】」
そして、俺は断罪の復讐剣を召喚し、そのままの勢いで襲い掛かってくる連中を切り殺していく。
「なっ、速いっ!?」
俺はあの決闘の日から今迄の間、魔物を狩り続けて経験値を貯めてきた。それによって、俺は固有技能である断罪の復讐剣のレベルを上げ、最初のスキルである身体能力強化のパッシブスキルを解放していた。
今もってなお、魔王を討伐した時のような全盛期の力は取り戻してはいない。全盛期の力に比べればスズメの涙ほどしかないだろう。しかし、それでもこの程度の相手であれば、苦戦する筈も無い。
そして、三人目を切り殺した時、連中の間に動揺が走ったのが見て取れた。
「は、話が違う!!」
「俺たち全員で掛かれば楽勝だったんじゃないのか!?」
どうやら、連中は俺の事を簡単に勝てる相手だと聞いていたようだ。しかし、連中の事情や聞いていた話とやらには、興味もなければ知りたいとも思わない。
仲間達が次々と倒れていく光景に連中の間に怯えの空気が走った。
「い、いやだっ。死にたくない!!」
「もうあんたに手を出さないと約束するっ!! だから……」
「死ね」
自分から襲撃してきたというのに不利になった途端に命乞いだ。呆れて言葉も出ない。しかし、こいつらの命乞いなど、俺にとっては路傍の石の価値すらもなかった。
そして、数分も経たない内にレオナルドとザックの二人を残してこの場にいた敵を全滅させた俺はその視線を残る二人へと向ける。
「さて、これで残るはお前たち二人だけだな」
そして、俺は断罪の復讐剣の切っ先を残る二人へと向ける。
「さぁ、まずはお前からだ」
「ひぃ、来るなっ、来るなぁ!!」
自分が雇った連中が全滅した事で狂乱状態に陥ったレオナルドの手からは魔法が放たれるが、俺はそれを断罪の復讐剣を振るう事でそれを弾いていく。未だ全盛期の力を取り戻していないとはいえ、この程度の魔法を弾き返す事など造作もない事だ。
その後も俺はレオナルドの手から幾度も放たれる魔法の数々を断罪の復讐剣を以て弾き返していく。
「くっ、来るなあぁぁ!!」
「終わりだ」
俺はレオナルドの心臓を突き刺した。その直後、こいつは膝から地面へと倒れ、そのまま絶命する。
そして、俺はこの場から逃げ出そうとしていた最後の一人、ザックへと視線を向けた。
「さて、最後はお前だな」
「ひいいいいっ!!」
ザックは俺の視線に怯えた直後、なりふり構わない様子を見せながら、俺に背を向けてこの場から逃げ出そうとしていた。
だが、俺はこいつを逃がすつもりはなかった。勢い良く駆け出し、そのままの勢いでこいつの背中に勢い良く蹴りを入れた。
「かはっ!!」
直後、ザックは勢い良く近くの壁へと激突し、そのまま地面へと倒れ込んだ。これでこいつはもうこの場から逃げ出せないだろう。
そして、俺はこいつの元まで歩み寄ると、その姿を上から見下ろした。
「さぁ、これで最後だ」
そして、俺はこの男に止めを刺すべく、断罪の復讐剣を振り上げる。すると、ザックは明らかに焦った様子で、その口を開いた。
「こっ、こんな事をしてただで済むと思っているのか!? ここで俺を殺せば、グスタフさんが黙っていないぞ!!」
「今更、苦し紛れの脅しか? だが、そんな程度の低い脅しに俺が屈するとでも……」
しかし、俺の言葉はそこで止まった。何故なら、その瞬間、俺の脳裏にある予感が脳裏を過ぎったからだ。
俺を襲撃してきた表社会の人間とは思えないこの連中、今こいつの口から放たれたグスタフという名前。
そして、俺はその予感に促されるまま目の前にいる男へと問いかける。
「……まて、聞かせろ。お前が出したグスタフという奴、そいつはお前たちの組織のボスか?」
「なっ、どうしてお前にそんな事を答えなきゃならない!?」
どうやら、こいつは今の自分の立場を分かっていないらしい。怯えながらも、屈しようとしないザックに向けて、俺は強い殺気を放った。
「答えろっ!!!!」
「ひっ!? そ、そうだ!! グスタフさんは俺達の組織のボスだ!!」
その瞬間、俺の中にある復讐の炎が一気に燃え上がった。どうやら、俺の直感は正しかった様だ。
「そうか、そうかそうかそうかそうか!!!! あはははははははは、あははははははははははは!!!!」
「ひっ、ひいいいいっ!?」
突如として、嗤いだした俺を見たザックは 明らかに怯えた様子でこの場から逃げ出そうと後退りをするが、もう目の前にいるこいつなど俺には眼中になかった。
「あはっ、あははははははははははっ!! あははははははははははっ!!!!」
そして、俺は用済みとなったこいつを一瞬で切り殺すと、そのままこの男を足蹴にする。ああ、止まらない。心の内から溢れ出る憎悪が止めどなく溢れ出てくる。その憎悪は心の内に収まらず、口からも嗤いとして零れ出てしまう。
「あはははははっ!!!! まさか、生きてるとはな!!」
あの時、死んだと思っていたがどうやらあの爆発から無事に生き残っていたようだ。
自分の中から溢れ出す憎悪が止まらない。まさか、あいつが生きているとは思わなかった。
もし、この事件が無ければ、俺はあいつがまだ生きていると知る事が出来なかっただろう。そういう意味では俺にとってこの襲撃は望外の幸運だったかもしれない。
「丁度良い。まずはお前から復讐してやるよ。さぁ、復讐を始めようか」
そして、俺は高らかにそう宣言するのだった。




