11 決闘
「アークスさん、ここが訓練場です」
「案内、助かった」
そう言いながら、俺は決闘が行われる訓練場へと入る。すると、そこには既に決闘の準備を終えていたレオナルドが待ち構えていた。その腰には一本の剣が装備されている。
「おう、逃げずに来たな」
そう言いながら、レオナルドはニヤニヤと笑みを浮かべている。また、周囲には冒険者らしい人間が多数いる。恐らく、先程までこの訓練場を利用していた連中だろう。
「掛け金はそっちの机の上に置きな」
「分かった」
そして、俺は掛け金をレオナルドに指定された場所に置くと、レオナルドが待つ訓練場の中央へと足を運んだ。
「さぁ、そろそろ始めるとするか」
俺と相対するレオナルドは余裕の表情を浮かべている。恐らく、こいつは俺の事を簡単に勝てる相手だと思っているのだろう。
そして、俺はこの街の武器屋で購入したばかりの腰に差している普通の鉄製の剣を抜き放ち、レオナルドと向かいあう。
流石に今の状況では断罪の復讐剣を使えない。こんな所であれを大衆の目に晒す訳にはいかないからだ。
因みに、俺がこの決闘で使う普通の剣だがこれは偽装用として購入したものだ。俺が普段の魔物狩りで使っているのは断罪の復讐剣だ。しかし、冒険者が武器の一つも持っていないとなれば訝しまれるだろう。
それ故にこの普通の剣を使うのは実はこれが初めてだったりする。
すると、レオナルドは俺をここまで案内してくれた受付嬢へと視線を向けた。
「おい、あんた、決闘の審判をやれ」
「わ、分かりました」
レオナルドの言葉に首肯した受付嬢はそのまま俺とレオナルドの間へと立った。
「では、これより決闘を始めます」
そして、受付嬢が決闘の開始を告げた。すると、その直後だった。
「うおおおおおおお!!」
レオナルドは先手必勝と言わんばかりに、果敢にこちらへと攻撃を仕掛けてきたのだ。そして、俺はレオナルドのそんな一撃を受け止める。
「っ、速く重いなっ……」
こいつの初撃を防いだ俺は思わずそう呟く。だが、俺はこの結果を予想していた為、そこまでの驚きはなかった。
(レベル、ステータス面においてはあちら側の方が有利、か)
今の俺は復活してそれほどの日数が経っていない。この街に来てからは魔物討伐に時間を費やしたため、少しばかりレベルは戻ったが、所詮は付け焼刃程度だ。
しかも、俺の場合、固有技能の方にも経験値を振っている為、レベルやステータスと言った部分に関してはどうしても疎かになりがちな所があった。
それに比べて、レオナルドはBランク冒険者だという。当然、それ相応のステータスやスキルを持っているだろう。
そういった面で俺が劣っているのは至極当然の話だ。だが、だからと言ってそれが勝敗に直結している訳ではない。
(足りないレベルは技量で補えばいい)
強敵との激戦、その経験とそれによって培われた技量という点においてだけは目の前にいるレオナルドに遥かに勝るという自負が俺の中にある。
それに、もう一つだけ気付いた事がある。それはレオナルドの使っている剣だ。
「魔剣、か」
「まさか、一発で見抜かれるとはな。その通りだ」
魔剣、それは何らかの特殊能力が付与された剣の事だ。高価な物であれば、それこそ一国の宝物庫に納められるクラスの物もある。
実際、俺は何度も国宝クラスの魔剣を目にした事がある。昔、俺を追ってきたオルフェリア帝国の騎士団長が使っていた魔剣は面倒極まりない能力を持った代物だった事もよく覚えている。
だが、こいつの持つ魔剣はそこまで高価なものではない様に見受けられた。
(こいつの使っている魔剣、付与されている能力は恐らく切れ味向上と耐久力向上だろうな)
魔剣の能力としては至極、一般的でよく出回っている物だがそれ故に汎用性がある能力だ。だが、このクラスの魔剣であっても普通の冒険者では手が出ない程度には高価だが、レオナルドはBランクだ。それ位の魔剣を買える位には稼いでいるのだろう。
一方で、俺の持つ剣は普通の鉄剣だ。断罪の復讐剣であるならまだしも、今の俺が使うこの鉄剣で何度もアイツの魔剣の攻撃を受け止めれば、耐久値に限界が来て壊れてしまうだろう。
「だが、方法はある」
簡単な話だ。レオナルドの使っている魔剣の効果が切れ味を向上させるというのであれば、その対策方法もそれほど難しくはない。こいつの攻撃を防ぐのではなく、受け流せばいいのだ。
無論、それをする為には高い技量が求められるだろう。だが、俺はこれでも勇者として数々の激戦を潜り抜けてきたのだ。当然、その程度の技量は既に持っている。
そして、俺はレオナルドとのステータス差を技量で補いながら戦いを続けていく。
「ちっ、中々やるな。俺に決闘を申し込んでくるだけの事はあるという事か」
そう言いながら、レオナルドは舌打ちをする。その表情には明らかに苛立ちが浮かんでいた。
「だったら、これはどうだ!?」
そう叫びながらレオナルドは再度攻撃を仕掛けてくる。だが、レオナルドのその攻撃は今迄と何も変わり映えのしない直線的なものだった。そして、俺は先程までと同様にこいつの攻撃をスッと受け流す。だが、その直後、俺の勘が何かを囁いた。
すると、その次の瞬間だった。
「行けっ、【ライトニングボルト】!!」
その瞬間、レオナルドの手から放たれたのは雷属性の中級魔法の【ライトニングボルト】だった。
「っ!!」
咄嗟の事で一瞬だけ反応が遅れたが、それでも俺は自分の勘を信じて何かが来ることを覚悟していた為、ギリギリの所で回避をする事が出来た。
「ちっ、まさか今のを避けるとはな」
「魔法剣士、だったのか」
魔法剣士、読んで字の如く魔法を扱いながら戦う剣士の事だ。だが、剣の才能を持ちながらも魔法の適性を持つ人間はそうは多くない。
また、未熟な状態では器用貧乏になりやすいが、極めればそれこそ剣と魔法の両方を扱える優秀な戦士になる。実際、昔に俺と共に魔王軍と戦った連中の中にも魔法剣士がいた。まぁ、目の前にいるレオナルドはアイツほどは強くはないようだが。
因みに俺は魔法を使う事が出来ない。その原因は勇者としての力にある。かつて、光輝なる聖剣を与えられた際、生まれながらに俺が持っていた魔法適性も光輝なる聖剣の力の一部として取り込まれたのだ。
そして、それは蘇った後も変わる事は無かったのである。
話を目の前の決闘に戻そう。レオナルドは虎の子だった魔法を晒した為か、魔法を隠す事無く、剣戟の間に魔法を放ってくる。
剣戟の合間に魔法を挟む事で自分の隙を潰しながら、相手の隙をつく。確かに有効な戦術だ。しかも、その魔法も速度が速い雷属性の魔法だ。
レオナルドがBランクというのも頷ける。しかし、それだけだ。
「もらった!! 【ライトニングボルト】!!」
そして、レオナルドは俺との間に交わされる剣戟の中に出来た一瞬の隙を突き、間隙に差し込む様に魔法を放ってきた。
「遅い」
しかし、その隙は俺が敢えて作った隙だった。俺は自ら隙を作る事でこいつが魔法を使う様にうまく誘導したのだ。
こいつは今迄も魔法で相手の隙を狙う癖がついていたのだろう。レオナルドは俺の思惑通り魔法を使ってきた。だが、魔法が放たれると分かっていれば、それを回避するのは容易だ。
しかも、こいつは魔法を使った際、その反動でほんの一瞬だけ硬直する隙があったのだ。
それを見抜いた俺は手から魔法が放たれたその直後、一瞬の硬直の間に最短でこいつとの距離を詰め、そのままレオナルドの首元に剣の切っ先を突きつける。
「なっ……」
こういった相手は自分の得意とする間合いでは強いが、それを詰められれば途端に何も出来なくなる。
無論、相手もそれを分かっている為、そう簡単に間合いを詰められない様に立ち回っていたが、それでもこの場で出たのは戦闘経験の差だった。
レオナルドは確かにBランク冒険者として戦闘を積んできたのだろうが、それでも強敵との戦闘経験は俺の方が圧倒的に上だろう。
そして、俺は切っ先をレオナルドへと突き付けたまま視線を審判役の受付嬢へと向ける。
「これは俺の勝利、という事で問題ないか?」
「は、はい。この決闘はアークスさんの勝ちです」
受付嬢が俺の勝ちを宣言した。これで、勝敗は決まった。そう判断した俺は剣を鞘へと仕舞い、そのまま俺はレオナルドに背を向けるが、その直後だった。
「くそっ、くそっ、俺があんな新人に負けるわけがねぇ!!」
レオナルドが怒り狂った様な声を上げながら、俺に手の平を向けてきたのだ。
「食らいやがれっ、【ライトニングボルト】!!」
その瞬間、レオナルドの手から放たれたのは今迄の決闘で何度も使ってきた【ライトニングボルト】だった。
しかし、レオナルドの放ったそんな一撃にも俺は体を軽く捻る事で躱した。
「なっ!?」
レオナルドは驚きの表情を浮かべているが、俺はレオナルドのその不意打ちに驚きも無かった。何故ならば、レオナルドの殺気が丸出しだったからだ。
かつての逃亡生活の際も俺は今の様な不意な攻撃を何度も受けてきた。それに比べれば、今の攻撃を躱すのは難しくない。本人は不意を突いたつもりとはいえ、殺気が丸出しだったあんな直線的な攻撃であれば避けるのは簡単だ。
しかし、その一連の行為を見た受付嬢や辺りにいる冒険者は騒然としている。流石に決闘の勝敗が決まった後での不意打ちは色々とまずいのだろう。
「レオナルドさん、流石にこれは見逃せませんよ!!」
受付嬢が咎める様にレオナルドへと迫っていく。元々の素行の悪さもあって、レオナルドは嫌われていたのだろう。彼女はこれ幸いとこの男へと詰め寄っていった。
その一方で俺はレオナルドを冷めた目で見つめる。
「なぁ、決闘も終わったしそろそろ帰ってもいいか?」
「良いのですか。先程の不意打ちに関して、レオナルドさんを訴えれば、賠償金を取る事が出来ますが」
だが、俺は受付嬢のそんな提案に首を横に振る。
「賠償金は手続きが面倒そうだから必要ない。レオナルドの件に関してはそっちに一任する。何らかの罰則を与えてくれれば十分だ」
「分かりました。ですが、本当に我々に任せてもらって大丈夫なのですか?」
「ああ。正直、もうこいつと関わり合いになりたくない。そっちで適当に処理しておいてくれ」
この程度の相手に関わるのも面倒だ。仮にレオナルドを訴えたとしても、賠償金を受け取るまでには面倒な手続きが必要になるだろう。それにそうなれば俺はこの街に暫くの間、拘束される事になる。
だが、今の俺にはそんな余裕はない。そんな事に時間を取られるぐらいならば、一体でも多くの魔物を狩って経験値を稼ぎたいのだ。
それに賠償金も必要はない。今の俺なら魔物を狩れば金はいくらでも稼げるからだ。
そして、未だに忌々し気に俺を睨みつけるレオナルドを背にすると、机の上に置いてある掛け金を回収した後、そのままギルドを出るのだった。




