9 全知の片眼鏡
冒険者ギルドでの登録を終えた日の翌日の事、俺は街を出て近くの森へと来ていた。その目的はただ一つ。経験値稼ぎのためだ。
森に入るなり、早速と言わんばかりに襲ってきたのは三体のゴブリンだった。
「グギャアアアアアアア!!!!」
「【断罪の復讐剣】、召喚」
そして、俺はそのゴブリンに動揺する事なく、断罪の復讐剣を召喚するとそのまま向かってくるゴブリンを迎え撃った。
「まずは一体」
「グギャアアアアアアアアアアアア!!」
「二体目、三体目」
だが、所詮はゴブリンだ。この程度の魔物であれば、今の俺であっても苦戦などする筈も無い。
三匹のゴブリンを瞬殺した俺は討伐した魔物達を先日の護衛依頼の報奨金で購入した空間拡張ポーチの中へと仕舞っていく。
「試運転としてはまずまず、か」
そして、俺は今の身体能力を確かめる様に何度も手を握っては開いてを繰り返す。
この辺りはクルストの街からほど近い場所だ。その為、弱い魔物しか生息していない。今の俺ならば低下したステータスを加味したとしてもこの辺りの魔物は苦戦する相手ではないだろう。
「低下したステータスの影響は想像以上に重いな……」
それでも、俺はこの状況に思わず歯噛みしてしまう。現状のレベルは1、ステータスは全盛期から考えれば悲しくなるほどに低い。この状況では復讐を成すどころか、何処かで呆気なく死んでしまいかねない。
「だが、ステータスは下がっても、技量はそのままだ。ならば、低下したステータスはそれで補えばいい」
勇者として戦い続けた日々、その中で培われた強敵との戦いの経験や技量、ステータスという目に見える数値ではないそれが皮肉にも今の俺の持てる強さを支える一つの柱だった。
「兎に角、今はこの状況に慣れるか、経験値を稼いで力を高めるしかないか」
そんな事を考えながら俺はひたすら魔物を狩り続けた。討伐数は時間と共に1体、また一体と増えていく。
そして、魔物狩りを始めてから数時間が経過した頃だった。
「……そろそろ、だな」
魔物の討伐数も三桁近くになろうとしており、同時に感覚的に自分の中にある経験値が目的の量まで貯まった事を感じていた。今なら今日の目的となる固有技能を解放できるだろう。
「【全知の片眼鏡】、解放」
直後、俺の中にあった力の一つ、【全知の片眼鏡】が解放された。そして、俺は早速解放されたばかりである【全知の片眼鏡】を召喚する。
「召喚、【全知の片眼鏡】」
そう唱えた瞬間、俺の右目の前には装飾が施されたモノクルが現れた。そして、次に俺はこのモノクルの力を使う。
「鑑定開始」
そう、このモノクルの力の最初の力、それは鑑定だった。
だが、ステータスを見るだけであれば、冒険者ギルドにある鑑定の羅針盤で同じような事が出来るだろう。
しかし、このモノクルには鑑定の羅針盤では代用できないある大きな利点があった。それこそが俺がこの【全知の片眼鏡】を最初に開放した理由だ。
そして、【全知の片眼鏡】による鑑定結果が表示される。
・名前:アークス
・種族:人間・勇者
・レベル:1 Next:250 stock:150
・状態:正常
・ステータス
生命力:281/281 魔力:152/152
腕力:101 知力:62
体力:128 敏捷:84
耐久:115 器用:92
・スキル
なし
・固有技能:2種類解放済み
【断罪の復讐剣】:Lv1 Next:2000
【全知の片眼鏡】:Lv1 Next:1500
そこに表示されたのは冒険者ギルドで鑑定を行ったときに現れたものと同じステータスだ。だが、所々に冒険者ギルドで見たステータス時には表示されていなかった物が表示されている。
そう、このモノクルでの鑑定は、本人の状態や現在の獲得経験値や本来は見る事が出来ない勇者の固有技能の開放状況、更にはその開放や固有技能の成長までに必要となる経験値まで数値として正確に知る事が出来るのだ。
今後レベルを上げれば【全知の片眼鏡】の更なる力を解放出来るだろうが、今の段階で出来る事は鑑定だけである。
それでも、レベルや固有技能の解放に必要な経験値が数値として明確に出るのは今後の経験値稼ぎでも有益だろう。
「やっぱり、レベルも上げられないか」
また、経験値の方も【全知の片眼鏡】を解放したばかりで、殆ど残っていない。今の経験値では他の固有スキルを解放するどころか、レベルを上げる事すらままならない。
今後も暫くの間は復讐の時の為に力を蓄える事が必須だろう。
そんな事を考えていると、遠くの方から新たな魔物がこちらへと向かってきている気配を感じた。恐らく、この辺りに散らばっている魔物の死体から流れ出た血に惹かれてきたのだろう。
「丁度良い、お前らも経験値にしてやるよ」
その後、俺は日が落ちるギリギリまで魔物狩りを続けるのだった。




