第八話「干し芋が起こしたハプニングの件について」
割と書きたい物語が、日々更新されていくわけですが。
一旦コチラを立てなければ、アチラが立たず。
ということで、こっちを区切りまで持ってくのが、今週の目標です。
一応、十二章がそれだと思います。知らんけど。
「いやぁ、まさか。干し芋がそこまでいくとは……」
「ああ、まったくだ。……他人事のようだが、お前のせいでもあるがな」
あの掃除以来、よくお姉さんと食卓を囲むようになり、部屋は綺麗な状態を維持している。
俺としては存外満更でもなく、一概にこいつを責め立てる気にもなれなかった。
大変な目に遭ったのは、本当だが。
「それにしても、綺麗だな。ゴミを投げ捨てておくことも、できなくなったわけだ」
「最初から投げるんじゃねぇよ。……お前も一回お姉さんに説教されろ」
スバルには、掃除をした日の顛末を話してやったんだが。
なぜか興味を持ったらしく、こうしてはるばる、歓迎されていない家に来ているというわけだ。
「三時間も説教されたんだって? ……何したんだよ、ほんと。セクハラか?」
「違ぇよ、断じて違う。その話は長くなるから、言いたくねぇな。ただ、やましいことなど一つも無い。俺のノンデリが発動したってだけだ」
「ああ、いつものか。それなら、納得」
呆れてため息を吐いたかと思えば、すごい勢いで首を上下に振り始める。
……納得すんじゃねぇよ。
「しっかし、家も広いんだし、こんだけ綺麗なら友達とか呼びたくならんの?」
「……またお前流の皮肉か? それとも素か? 判別がつかん」
家に呼べる友達なんていねーっつの。来んのは、お前とお姉さんと……たまに、雲聲が押しかけてくるだけだ。追い返してるが。
「……あーじゃあ、俺の彼女でも呼ぼうか? いつまでも男二人っつーのも、味気ないしな。あいつとは普通に話せるだろ」
「んー、まあそうだが。干し芋男の彼女が何を持ち込むか不安なので、今日は遠慮しとく。今度だな」
これ以上、厄介ごとを持ち込まれても困る。
ただでさえ、進路やら、勉強やらで、悩みの種が増えてんだ。これ以上、不確定要素を増やす必要はない。
……今も割と、重畳な生活ではあるしな。
「なら、いいんだが。てか、そのお姉さんって何者? お前とつるむなんて物好き、なかなかいないぞ」
「さあ、知らないな。素性も知らんし、名前も知らん。興味もない。飯くれれば、俺は満足」
「またまたぁ。少しは気になってんだろ?」
「っ! 気になってねーし」
露骨に訝しげな視線を送るスバルに、少し狼狽えてしまう。
別に、特別な感情を抱いているわけじゃない。
しかしまあ、隣人としては好ましく思っている。
とは言っておこう、心の中でな。
「……お前の潔癖は相変わらずだな。もうちょい人を信用しても、バチは当たらんと思うが」
「んにゃ、俺は今の俺が好きだ。変える気は毛頭ない。孤高こそ至高だ」
「まーた戯言吐いてら。まあ、いいけどよ。お前が幸せなら」
「幸せの定義によるな。お前らみたいに、イチャコラ、ラブラブ、これが青春っ! みたいなのはないが、こうやって家でゲームできれば重畳だ」
「うわっ、また出た重畳。流行ってんのか? お前そういう言葉好きだよな」
「四の五の言うんじゃねぇ。普通の言葉は面白くないんだよな、なんか」
「知らねぇよ……」
なぜか難しいというか、少し気を衒ったようなワードを使いたくなるのはなんでなんだろうか。……ただの、ラノベの読み過ぎだな。
いや、言葉がそのまま伝わったら、つまらん。
多分、余白を残すのが俺のポリシー、理念、モットーだ。
「先、始めてるぞ。ボス戦」
「おい……俺、死んでんじゃねぇか。お前だけでいけんのか?」
「もちろんさ。僕を誰だと思っているんだ。学年二位だぞ」
「……ああ、そうかい。学年三位の俺の力はいらない感じか」
一応、今日こいつが俺の家に訪れたのは、テスト勉強という名目上なのだが。
男二人が集まって、勉強など始まるわけもなく、駄弁ったり、ゲームをしたりする。
それはもはや必然だろう。
スバルの家は厳しいらしく、以前、「家にいると息が詰まるんだよな」みたいなことを言っていた。
まあ、そういうこともあるか。
俺はその程度に受け止めていた。
「ほい、大勝利。未定も一人でやるか? 今回は俺一人でやっちまったし。不完全燃焼だろ」
「いや、そこはもうだいぶ周回してるからいい。次、行こうぜ」
「おうよ」
「てか、お前。回復使いすぎだ。秘薬なくなってんじゃねぇか」
「あはは、悪りぃ悪りぃ」
頬をかいてるスバルに、少し責めるような視線を送るが、「こっち見てないで、はよ行くぞ」と誤魔化された。
また俺のイライラポイントが溜まり始めていたところで、部屋にチャイムの音が響く。
「お? 噂をすればなんたらじゃないか。未定」
「……ぽいな。前は妹が来て、酷い目にあったが。今回はそのなんたらだろう」
「え、楓ちゃん来てたの? 呼べよー。お前より、俺に懐いてんだから、寂しいだろ」
「自意識過剰すぎんだろ……。俺かそれ以上だぞ」
「まあこういうこと言えんのも、お前だけだしな。それより、はよ迎えに行け」
「わあっとるわ。言われなくともな」
俺はコントローラーを置いて立ち上がると、「ボス戦、勝手にやんなよ」と言い残し、急ぎ足で玄関に向かう。
呼び鈴を押してから、何も言わないのは彼女らしいというか。
……また、鍋を片手に葡萄色の髪をくしくし梳いているだろう。
なんて、想像をしながら扉を開ける。
案の定、お姉さんがいた。
「よう、今日も飯ありがとな。……あとずっと疑問なんだが、なんで毎回髪くしくしやってんだ?」
「ん? 特に意味はないけど……。強いて言えば、癖かな?」
「ん、そうか。これで俺の中の未定がまた減って、安心した。せんきゅ」
「感謝されるようなことではないと思うけど、君が幸せならそれでいいか。……また、重畳ってやつかな?」
「おーよくわかったな。そうだ、重畳だ。お姉さんも免許皆伝だ。使っていいぞ」
「いや、いらないし。はい、それよりご飯。今日は一緒に食べれそ?」
と言った彼女の視線が、俺を通り越して後ろへ向いた。
……来やがったな。面倒なことにならなければいいが。
「うお、綺麗な人。どうもこんにちは、未定の親友、天海スバルです。よろしくどーぞ」
「親友じゃねぇよ。ただの幼馴染っつーか、悪友だ。お姉さんもこいつの見た目に騙されるなよ。ん? 何か固まってんだ」
スバルの顔を見てからピクリとも動かない彼女に手を振ると、
「君の家に、人が来ることなんてあるんだ......」
「マジで俺を何だと思ってんだ」
だが、反論する必要もないな……あなたも来てるんですけどね?
「いや、だって。君、人を家に入れるタイプじゃなさそうだったから」
「私の時も渋ってたしぃ」と、追求を受けるが、
「ごめんな、疑り深い性格なんだ」
多分、一生治らん。
「……まあじゃあ、今日はおいとましようかな。友達と一緒に食べてね。私お邪魔虫らしいし」
そ、そんなことは……あるのか、ないのか。
だが、ご飯ももらい、掃除も手伝ってしまった人をこのまま返すのは失礼だろう。
何か、土産でも……、そうだ!
「あ、そういえば。お姉さんがすっ転んだ、干し芋投げたのこいつね。ウケるだろ」
その言葉を言った瞬間、なぜか彼女の額に青筋めいたものが見える。
「ほ、ほんとに、デリカシーないね。私のことを流布するな、とは言わないけど。女性のそういう話は、人にしないほうがいいよ!」
次の瞬間、ゴツっという乾いた音が響く。
す、脛が……。
「あーあ、また未定がやってらー。僕、知らなーい」
そう言い残し、スバルはボス戦へ、お姉さんは芝刈り……じゃなくて、家に戻っていたとさ。
ちゃんちゃん。
「は、薄情者どもぉ」
× × ×
「……俺にこうしてご飯を分け与え続けるのに、なんの意味があると思う」
普通、労力もお金もかかる上に、面倒な隣人に積極的に関わる物好きは、変人か変人だ。
俺だったら絶対しないし、なんなら、遠ざけるまである。
ん? 待てよ。俺=変人、俺と違う行動をする人は、正常と仮定すると。
……彼女がまともなのかもしれないな。
「餌付けじゃね? お前を犬か猫かなんかと思ってるor好意があるかのどっちかだろうな」
鍋を突きながら、箸を向けながら、「ズバリ! そうでしょう!」とか、名探偵めいた芝居をするスバル。
「……好意以前に、名前すら知らなんだ。ご厚意というのならまだ分かるが、それも得があるかと言われると……いや、前に寂しいやらあーだこーだ言ってたな」
「それは結構大事なことだと思うが。てか、お前のその妙に色んな方言が混ざってるのなんなんだ。北海道弁はまだ分かるが、それはどこ由来なんだ」
「まあ、母親が元関西人だったりするからな。あとは……分からん。感覚で使ってるから、合ってるかも分かってないな」
自信満々にそう宣言する俺。
語感が気持ちいい言葉は、意味が通ってなくても言いたくなるな。
自己分析に励んでいると、テーブルをトントンと叩く音が聞こえる。
「話は戻るが、女子の寂しいは、僕的に割と重要な告白だと思うけどね」
「まあだろうな。だから、俺もそこには踏み込まないようにしてる」
感覚的に分かるほど情緒は発達していないが、長年の薄っぺらい人生経験からでも、そのくらいは推測できる。
一度言われたきり、そのような話題も出てないし、わざわざ俺が掘り返す問題でもないだろう。
俺も人に踏み込まれることを好む人間ではない。
「……そうか。お前のことに関して、とやかく言う筋合いはないが、名前ぐらいは教えてやってもいいんじゃないか?」
「んーまあ、名前っちゃ名前なんだが。あだ名みたいなもんだけど。俺も別に、嫌いじゃないしな。未定くんやら、未決定くんやらは」
「相当変わってるな……やっぱりお前は。普通はつけられたら、嫌なあだ名だぞ?」
「ん? そうか。そうだな。だが、名は体を表すとも言うだろう。別に、間違ったことじゃないし、気にするほどではない」
実際、間違っていないしな。
それならば、甘んじて受け入れるというのが道理であろう。
そういう風に見られるなら、そういうもんだ。
そこに不信感を抱いたところで、何かが変わるわけでもない。
「……僕には君が分からない。幼馴染というのを差し引いたら、関係が残らないぐらい君が分からない」
「なんだ、いきなり。変なスイッチ入れちまったか?」
普段、人に見せている人好きな笑顔はもうそこになかった。
滅多に見せない真剣な表情は、少し俺の心を逆撫でした。
……何にイラついてる。俺は。
「君が、本心から言ってるのか、戯言で逃げているのか、僕には判別がつかない。ただ、それは彼女に失礼だとは思わないのかい」
「……じゃあ、未定不確という名で、手を打とうか。これはほぼ、俺の名前みたいなもんだ。それでいいだろ?」
お気に入りのハンドルネームだ。二つ名ともいう。
「頑なだな。本名は君にとって、呪いかなんかなのか」
「分からん」
即答である。
「は?」
疑問符である。まあだろうな。
「実際、分からんと言うしかないな。感覚的なものだ。俺の防衛反応か、なんかだろ。知らんけど」
彼女に対して、「助かってる」と言う感覚はあるものの、名前を明かすまで「信用できる」かというと、首を縦に振ることはできない。
だが、確信を持って言えることもある。
お世辞などではなく、彼女は多分、「優しい女性」なんだろう。
俺が極端なラベル付けを嫌うために、そこにはどうしても「多分」というのが、付属してしまうんだが。
矛盾パラダイス。最っ高っ!
「……辛気臭い話をしてしまったな、すまん。僕はこういうキャラじゃないんだけどな」
「ほんとだぜ。キモいからやめろよ、マジで」
「い、いや。君の未定不確気に入ってる方が、世間一般的に見れば、だいぶキモいぞ。ゲームでもあの名前だし……」
はにかむような苦笑をしながら、そう続けるスバル。
おお、そうなのか。やはり、周りに一人常識人がいると、視野が広がるな。
ありがとう。そして、弾けて混ざれ!
「んな、ことはどうでもいいんだよ。それよか、飯を食い終わったし。ゲームに戻ろうぜ。俺の名前を世界に轟かせないといけないしな」
「やめてくれ……本当に、恥ずかしいから」
そう言って、二人とも立ち上がる。
食器を片付け、鍋を洗い、いつもの日常へと戻っていく。
これでいい。これでいいんだ。
俺は、これ以上は何も望まない。
ご高覧いただきありがとうございます。




