第十話「raven hair」
やあ
「雲聲、話がある」
「なに? あなたから話しかけて来るなんて、珍しいじゃない」
ああそうだろうな。俺だって本当は、話しかける予定なんてなかった。
しかしながら、俺はある問題に直面している。
連絡先を交換した翌日、「そういえば、名前見れるかも」と思い、アプリを開くと『KFK』と書かれた不可解な友達が増えていた。
俺のネームセンスとそう変わらないじゃないか。と悪態をつきたいぐらいには、不可解だと言ってもいい。
ただ、それだけで言えば大した問題ではない。
お姉さんの変わり者っていう、イメージが助長されるだけだ。
……追加情報があるんだよな。
誕生日:12月25日。
クリスマスはどうやら、彼女の誕生日らしい。
さあて、俺はどうしたものか。ということで、雲聲だ。
「誕生日ってのは、プレゼントを渡した方がいいと思うか?」
「……話が飛びすぎてわからないけど、相手が女子の場合はYESね」
でしょうね。わかっているから、お前に聞きに来ているんだが。
……さて、ここからどう切り出そうか。
「黒髪がよく似合う女だな。お前は」
「何。未定。嫌味かな」
「いやいや、本心だよ」
雲聲茜の腰丈ぐらいある、手入れの行き届いた黒髪は綺麗だ。
それに関して嘘はない。
ただ一つ難癖をつけるのであれば、ゆるふわウェーブではなく、ストレートにして欲しい。
「そんな女子力が高いお前に頼みがある」
「なによ」
「……付き合ってくんない?」
「どういう意味で?」
「んー買い物だ」
「ああなるほど。意中の女子がいるってわけね。それを手伝って欲しいと。……私はそんな都合の良い女だったかしら?」
「だから髪褒めただろ」
「……本当に、ノンデリね。あなた」
雲聲は侮蔑を込めるように、俺の顔を下から覗き込む。雲聲の顔が急に近づいたので、思わず半歩下がってしまった。
「……十二月二十五。何の日か知ってるか?」
「クリスマスじゃない。周知の事実よ」
「そうだ。俺が毎年、どっちがイブでどっちがイブじゃないのか、わからない日だ」
「どっちがイブだと思う? 未定は」
「……」
俺がわからないと見えると、雲聲は自慢げに胸を反らし、答えを発表する。
「二十四でしたっ。そんなんだから、彼女の一つもできないんだぞ」
「よーお前ら、そんな細かい日付覚えられんな。俺には一生かかっても無理そうだ」
「んで、その二十四に何か用があるの?」
「いや違う。用があるのは、二十五の方だ」
そう俺は雲聲に伝えると、スマホの画面を操作し彼女のプロフィール画面を見せてやる。
「……人の個人情報あまり見せて良いものではないと思うけど。で、誰この人」
「隣人さんだ。最近お世話になってる」
「隣人ねぇ……好きなの?」
「好意的ではあるが、恋愛感情は特にない。いつもお世話になってる礼を兼ねてと思ってな」
まあ勘違いされても仕方ないと思うが、その辺は割とどうでもいい。
俺があげたいと思ったから、あげる。そんだけだ。
「だから手伝ってくれ、雲聲。頼れるのはお前しかいないんだ」
スバルにバレるとうざいしな。
「……まあ、わかったわ。今週の日曜でいいかしら」
「おう。それで頼む」
通常通り、いつも予定は未定だ。問題ない。
「じゃあ、日曜ね。よろよろ〜」
雲聲はそう言って手を振ると、足早に去っていった。
……よし。これでいいな。
「面倒だけは起こってくれるなよ……」
ご高覧いただきありがとうございます。




