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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora


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第12話 転生勇者、周辺の魔物を知る

“シュッ、スー、シュッ、スー、シュッ”

ジェイク少年が村の元冒険者ボビー老人の元に弟子入りして、三ヶ月の月日が経った。その間彼は一日も休む事無く、黙々と木刀を振り続けた。


入門当初は彼も剣術道場に通う普通の子供達の様に結果を求め、より強くなる自分を夢想していた。共に学ぶ幼馴染みのジミーやエミリーと己を比べ、その中での己の優劣に心を揺らした。


そんな彼が変わったのは入門から一月(ひとつき)が経った頃だろうか。彼が魔法に目覚めスライムに敗北した翌日、悩める彼に彼らの師は剣士の至る一つの完成形を披露した。

子供達はボビー師匠の剣技に魅せられ心踊らせた。


彼の中でボビー師匠の言葉が反芻(はんすう)された、彼の中で明確な目標が定まった。憧れが、理想が、具体的な姿として脳裏に焼き付いた。

彼は己を見詰め直し、再び前に進む為に、あの敗北の地に(おもむ)いた。自身に立ちはだかる壁を真っ直ぐに観察する為に、彼我の差を知る為に。

その結果分かった事は“自分は弱い”と言う当たり前の事実であった。


転生者であると言うこと、ゲームキャラクターの“赤髪のジェイク”ではないかと言う期待は、無根拠に自らが最強であると思い込ませ、自身を特別な存在であると確信させた。だが、その全てが幻想であると言う事を“ただのでっかいスライム”が教えてくれた。


“シュッ、スー、シュッ、スー、シュッ”

彼は今日も木刀を振り下ろす。弱い自分が出来る事、それは一振り一振りに魂を込めて木刀を振り下ろす事。丁寧に、そして正確に、一刀一刀に明確な“切る”と言う思いを乗せて。


“ブンッ、ブンッ、ブンッ”

隣ではエミリーが力強い振り下ろしを見せている。“えいっ、えいっ、えいっ”と言う可愛らしい掛け声は変わらないが、その一刀には明確な目標、目指すべき姿が重ねられていた。


“スパンッ、スー、スパンッ、スー、スパンッ”

彼らの兄弟子ジミーにも、ボビー師匠の剣舞は熱い情熱を注ぎ込んだ。剣舞と呼ぶにはあまりにも実戦的で隙の無いものではあったが、その無駄の無い舞はある種の芸術性を持って彼の心に焼き付いた。

子供達は素晴らしい指導者、元冒険者ボビー老人の元、その実力を確実に伸ばしていった。


「そこまで。木刀を納め集合しなさい」

ボビー師匠の言葉に子供達は木刀を下ろし、彼の元に集まった。


「良いかな?今日はお前達にこの村周辺の魔物について教えたいと思う。お前達は魔物についてどれくらい知っておるかな?」

師匠からの問い掛けに、弟子のジミーが手を上げる。


「はい、村の中で目にする事が出来る魔物としてはスライム、ビッグワーム。それとごく稀にビッグクローと言う鳥の魔物を見ることが出来ます。周辺の森ではホーンラビットにボア、稀にマッドボア、それと過去にゴブリンが確認されたことがあると聞いています」


とても六歳児とは思えない的確な答えに一瞬息を飲むボビー老人。だが師匠と言う立場と威厳を守る為、そんな姿はおくびにも出さない。そうした点は流石歴戦の元冒険者と言ったところだろうか。交渉事にしろ不意の事態にしろ、積み重ねた経験の厚みが違うのだ。


「ジミーは良く勉強しておる様じゃな。スライムはこの村では村外れの水辺におるから見た事もあるじゃろう。ビッグワームは畑仕事をしておったり森の落ち葉の下を漁ればお目に掛かる事もあろう。こやつらは基本的に無害じゃ。森や田舎では不思議と増え過ぎると言う事もない。

王都や領都と言った人口の多い街では下水道などで増え過ぎて定期的に間引きされておるようじゃが、それはそれだけ大量の廃棄物が出ておる証拠じゃから致し方がないと言えるかの。

都会の下水道には他にビッグラットと言うネズミの魔物が大量繁殖して問題に成る事がある。こっちは肉食で子供が襲われる事もあるから注意が必要じゃな。


話が逸れたの、村の周辺の魔物じゃが、ホーンラビットは近頃は食卓にのぼっておるから姿を見たことがあるであろう?周辺の森でホーンラビットが増え過ぎた事が確認された為、男衆で定期的に山狩りを行っておる。

こやつらは突進してその鋭い角で敵を刺し貫こうとする危険な魔物じゃ、決して近付いてはならんぞ?

ボアは、まぁ突進する事しか考えておらんバカじゃから余程油断せんかったら問題ない。マッドボアはただ大きくなっただけじゃの。


厄介なのはゴブリンじゃ、こやつらは知恵を使うからの。こやつらのせいで滅んだ村も多い。

“一匹見たら十匹はいると思え”、ほんに面倒な生き物じゃ。ホーンラビットと言いゴブリンと言い、厄介な相手は何故か繁殖力が旺盛じゃ。数の暴力は絶大、ほんに気を付けねばならんの。


他にもこの村から領都に行く道中にはグラスウルフの出る草原やオークの森が存在しおる。この辺境の地はそうした魔物の危険に常に晒されておると言う事を自覚せねばならんの。


魔物討伐はスライムに始まりスライムに終わると言う言葉がある。スライムをいかに油断無く無駄無く倒す事が出来るか。スライム討伐を行う際は、魔物の命をいただいていると言う自覚を持ち、真摯な態度で討伐に当たって欲しい。そして調子に乗って森に入ろうなどとは決してしない様に」


「「「はい、分かりました、ボビー師匠」」」

子供たちの元気な返事に顔をほころばせるボビー老人。

この年代の子供、特に剣術を習い始めて三か月目のこの時期は、自身が強くなったと思い込み木刀片手に森に入り込む子供たちが後を絶たないのだ。

特に今は“勇者病”<極み>に罹患したジェイクがいる。ジェイク一人のみならず子供たち全員を危険に晒す恐れがある。かと言って下手にジェイクをしかりつける事は彼の成長を阻害するばかりか彼を歪めあらぬ方向に追い込みかねない。危険性があるからと言って閉じ込めるなど指導者としてあるまじき行為である。


だがこの二月(ふたつき)、魔法に目覚めスライムに敗北したあの日からしばらく経った頃からジェイクは変わった。

勇者病は鳴りを潜め、ただ真摯に、愚直なまでに剣に向き合っている。それは勇者病<真性>のそれともどこか違う、剣の道を只管に歩む剣士のソレ。


「ジェイクよ、お前は二月(ふたつき)前に魔法に目覚めスライムに敗北を喫してから何かが変わった。これまでの剣との向き合い方は只強さを求めるもっと荒々しいものであったが、今はコツコツと地道に積み重ね積み上げる様に剣そのものに向き合っておる。

お主に何があったのかは儂には分からん。だがその気持ちを忘れるでないぞ?お前のその思いはいつかお前自身の助けとなる」


「はい、ありがとうございます、ボビー師匠。僕は只自分の弱さに気が付いた、それだけです。

村の子供、トーマスさんちのジェイク、それが俺であり俺の全てですから。明日もよろしくお願いします」


子供の成長は早い、自身が自分の弱さに気が付いたのはいつの頃だっただろうか。ボビー老人は眩しいものを見詰めるかのように目を細め、手を振り家に帰って行く三人の幼い教え子たちを見送るのでした。



―――――――――――――


「お~い、大福~、飯だ飯!」

“ドサッ”


俺は肩に担いだ麻の袋を地面に下ろす。俺の呼び掛けに気が付いた大福が水面(みなも)から姿を現しピョンピョン飛び跳ねながらこっちへやって来る。

俺は今日も麻の袋に詰めたビッグワームを持って水辺を訪れていた。


ポーション級ビッグワームの衝撃、本当にあの時は大変だった。自身の緊急用保存食の作製はそれほど難しくはなかった。ビッグワームの風味改良を始めた当初から準備はしていたし、必要な知識も学んであった。


ものがモノだけにそれほど大量に保存するのもどうかとも思ったが、食べる分にはただの肉、“バレなきゃいいのよ、バレなきゃ”の精神で当初の予定分の干し肉を作成、畑の簡易納屋に保存する事とした。

家に持ち帰らないのか?そんなリスクは掛けられません、これはあくまで緊急用ですから。(おやつとして食べますが)


問題は加工し切れなかった分。こいつらには申し訳ないが存在がバレるとまずいので大福の餌と言う事で。数日を掛けて水辺の大福の所に運んで食べていただきました。

まぁ大福の喜ぶこと喜ぶこと、もう飛び跳ねまくってましたから。


どうもこのポーションビッグワーム肉を食べるとエネルギーが有り余っちゃうみたいです。頻りに遊んでほしい旨を伝えて来るので、俺も全身に魔力を纏って大福をぶん投げたりして遊んでやりました。

しこたま遊んだ後にポーションビッグワーム肉ジャーキー加工済みを取り出し齧っていて気が付いたのですが、どうもこのお肉、体力と魔力の回復効果もあったみたいです。

そりゃ食べた瞬間天国に行っちゃうわな、全身癒されまくっちゃうっての、大福まっしぐらですっての。


「これ、マジでヤベえ」

思わず独り言をつぶやいちゃうくらいには危険な品(主に自分の身が)、ますます人前には出せないと気を引き締めるケビン君なのでありました。


そうして一週間ほどかけて研究用の個体(二匹)を残し全てのポーションビッグワームを処分、ほっと一安心と思ったんですけどね。


“スリスリスリ”

ウチの食いしん坊さんがですね~。どうも大福、ポーションビッグワーム肉のお味がお気に召してしまった様でこうして催促するようになりまして・・・。

ですよね~、美味しいもんね、ポーションビッグワーム。あれだけ食べたら忘れられないよね~。

と言う訳でこうして少量飼育(ミニプールを作りました)して、大福に定期的に差し上げてると言う訳です。


「はい、今日の分はこれでお仕舞。後は魔力水をあげるからそれで我慢しなさい」

そう言い大福に口?を開けさせ魔力マシマシウォーターをドバドバと。ピョンピョン跳ねて喜ぶ大福、そんな俺と大福の背後からズルズルと近付く何かの気配。

“ズイッ”

姿を現したのは二本の太い綱、それこそ俺の太ももよりも太いそれは・・・。


「緑、黄色、お前らついて来ちゃダメって言ったじゃん」

育ちに育った実験生物、ポーションビッグワーム(観察用)なのでした。


てかデカ過ぎるわ、ジャングルの奥地に生息する巨大アナコンダか。そりゃ大きく成長すれば大人の腕位に育つ個体もいるとは聞いてたよ?(元冒険者のお爺さん情報)でも自分の飼ってるビッグワームがこれほど大きくなるなんて思わんやん、ワームプール(ミニ)には収まりきらなくてすでに畑で放し飼いですわ、本当にどうしてこうなった。


水辺に現れた二匹のポーションビッグワーム、緑と黄色は大福と仲良くじゃれ合い始めます。こうなったらしばらく放置、傍から見てるとモンスター同士の戦闘にしか見えないしね。

“いけ、マッドボールだ!”とか言いたい。気分は某モンスタートレーナー。


暫く見てると互いの位置を離したスライム(大)とビッグワーム(大×2)、ビッグワームが鎌首をもたげると口の周りに何かが集まり“ズバンッ”・・・っておい、それって<アースボール>じゃねぇか。何でお前らそんな事が出来んだよ!


しかしそこは相手が悪かった、“カキーン”大福君、緑の放った<アースボール>を見事打ち返してしまいました。


すると今度は黄色が口の周りに何かを集め“ズバンッ”、それを今度は口を開けてキャッチ、そのままゴックンって黄色涙目。

しかし今黄色が出したのって、<ウォーターボール>じゃなかった?二匹とも凄いな。

俺が二匹のビッグワームに感心していると大福が物凄い勢いでピョンピョン跳ねて喜びを表現しておられます。


「・・・なぁ黄色、さっきのって本当に<ウォーターボール>だよな?さっき出した水、少しだけこの皿に出してくれる?」

俺はそう言い木製小鉢にお水を少々。臭いは無い、味は透き通る様な爽やかさ、そして全身に広がる様な温かい感覚、何か身体が癒されて行くような。

腰に刺したナイフを取り出し腕にすこーし傷をって痛いの嫌だな~。「ウッ」分かってても自傷行為は嫌でござる。

たらりと流れる鮮血もそのままに小鉢に残った液体をちょろちょろと。痛みは消え、布で拭った先には傷一つない九歳児の腕。(先月九歳になりました)

額から何故か流れる液体がたらり。


「はい、みんな集合~。これより《《普通の》》<ウォーターボール>の練習をします。大福君、この二人にお手本を見せてあげてください。

緑と黄色は大福君の魔力の流れをよく観察して、これまでのモノとは違う《《普通の》》<ウォーターボール>を習得する様に、いいですね?」

こうして緑と黄色の特訓は日が沈みかけるその時まで続くのでした。


「お前たち、これを習得するまで毎日水辺で特訓だ!!」

ケビン君の苦悩はまだまだ終わりそうにありません。

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