第13話 転生勇者、八歳になりました
「エミリー、右から回り込んで!こっちで気を引くからタイミングを見計らって打ち込んで!ジミーは俺とスイッチ!」
「「了解!」」
そこはいつもの水辺、俺達は今日もでっかいスライム”大福”との激しい戦闘を繰り広げていた。
「やい、糞饅頭、俺が相手だ!」
俺はスキル<挑発>を発動、大福の意識をジミーから自分に移す。その隙にジミーは後ろに下がり息を整え次の攻撃に備える。
「うおおおおおおおおお!!」
俺はワザと大きな声を出し、力を込めて大福に攻撃を仕掛ける。一振り一振りが本命の振りであるかの様に、相手にこちらの意図を悟らせない様に。
「せい!」
“ドスコンッ”
エミリーの渾身の一撃が大福の身体を正確に捉え、奴に致命の衝撃を与えた、かに見えた。
“バウン“
「衝撃拡散、だと!?」
奴は自らの種族特性である全身が水分で構成された身体を生かし、エミリーから与えられた衝撃を波動として地面に流し込むことにより威力を拡散。
モロに攻撃を受けているにもかかわらず威力だけを受け流すと言う絶技を披露した。だが、
「後は任せろ」
俺の背後で全ての準備を終えたジミーが合図を告げる。咄嗟にその場を離脱する俺とエミリー、次の瞬間。
「一刀・・・両断」
“ズバンッ”
ジミー必殺の一撃が最強の敵に襲い掛かる。全てはこの一撃の為に、全てはブラフ、全ては囮、奴は俺たちの術中に完全に嵌まっていたのだ。だが油断は出来ない、その事はこの二年でいやと言うほど学ばされた、奴に対して絶対はない。俺とエミリーは油断無く奴を睨み付ける。しかして。
“ズボーン”
“ウゴッ”
大福はジミーから受けた斬撃を衝撃に変え自身の身体を引き伸ばすことで吸収、伸び切った身体を急激に元に戻しその際生じた位置エネルギーを全てジミーに叩き付けたのだ。それはまさに前世で散々見て興奮したゴム人間のそれ。しかも打ち付けた際に触手をジミーに張り付け吹き飛んだ彼を再び引き戻す凶悪仕様。
吹き飛ばされ引き戻されたジミーは大福の身体で“ボヨ~ン”。
ゆっくりと丁寧に地面に下ろされたジミー。俺たちは今日もこのでっかいスライムに敗北するのであった。
「やい、このデカスライム、次は絶対泣かせてやるからな!覚悟しておけよ!」
俺たちはジミーを肩に掛け一路エミリーの家を目指す。背後の水辺では、にっくきデカスライムが楽しそうにポヨンポヨン跳ね続けているのであった。
「あら、いらっしゃい。今日も三人揃ってボロボロね~。はい、いつものローポーションとスタミナポーション」
エミリーのお母さんミランダさんは俺たちの姿を見るや“仕方がないわね~”と言いながら棚からポーション瓶を取り出し、俺たちに渡してくれた。
「ミランダさん、いつもすみません。今日も“大福”に負けてしまいました」
そう言いガックリと肩を落とす俺たちにウフフと笑みを向けるミランダさん。
「元気出しなさい、あなた達は運が良いのよ?あなた達が束になっても敵わない強敵がこんなに側にいるんだから。
しかもちゃんと相手をしてくれる上に手加減までしてくれる、本当に大福ちゃんは頭が良いスライムよね~」
温厚で決して自ら人を襲わないスライム種、しかも子供達の全力を受け止めちゃんと手加減までしてくれる。やんちゃな子供を抱える親としてはこれ以上無い子守り役のスライム“大福”に、いつも感謝しきりなのである。
「くそ、今日も負けてしまった」
ポーションを飲み、すっかり回復したジミー。スタミナポーションを飲んで体力を回復させた三人は部屋の隅にかたまりああじゃないこうじゃないと本日の戦闘の反省会を始める。
そんな子供たちの様子を、遠目から楽しげに笑顔で見守るミランダなのであった。
「そこまで。三人共集合しなさい」
ボビー老人の声に練習を止め集合する子供達。皆この二年で逞しく成長し、其々が一端の戦士であると言っても過言ではない実力を身に付けていた。
「うむ、今日も真剣に剣に向き合う姿勢、誠に結構。前々から告げておるように、明日、全員でホーンラビットの討伐に向かう。現在はホーンラビットの繁殖期は過ぎておる、その為その時期に比べれば安全であると言えるが森では何が起こるか分からん。ちょっとした油断や隙が大きな事故や怪我の元に成る。その事を努々忘れることの無いように。では本日の修練を終了する」
「「「ありがとうございました、ボビー師匠」」」
元気良く返事をし自宅へ帰って行く三人。そんな弟子たちの姿を見送りながら思う、“あの子ら強過ぎじゃないかの?”と。
自身の見立では既に初級冒険者どころか中堅冒険者並みの実力、あの子らまだ授けの儀すら迎えておらんはず、これで職業を得たらどうなるんだか。
「今日も良い天気だの~」
ボビー老人はあまりにも優秀過ぎる弟子たちに戦慄し、額から一筋の汗を流すのであった。
「ねぇジェイク君」
ボビー師匠の所からの帰り道、ジミー君が僕に向かい話し掛けてきた。
「お兄ちゃんが大福とも良い勝負をする様に成ったし、そろそろ緑と黄色も参戦させようか?って聞いて来たんだけどどうする?」
“ギギギギッ”
錆び付いたブリキ人形の様に緩慢な動きでジミーに振り向く俺とエミリー。緑と黄色ですと!?あの化け物たちが参戦って・・・。
「僕もそろそろ良いかなって「「勘弁してください!」」そう?分かった、そう言っておく。あ、そうそう、ジェイク君の魔法の訓練だけど、“次回から大福の反撃が入るから頑張ってね”だって」
いつも干し肉をくれるケビンお兄ちゃん、ミランダさんの家にポーションをストックしておいてくれるケビンお兄ちゃん、何かと僕たちのサポートをしてくれる優しいお兄ちゃん。
その優しさはとてもありがたく嬉しい、嬉しいんですけども!少しは手加減してください。(T T)
俺はケビンお兄ちゃんの優しさ(試練増し増し)に、嬉しさのあまりガックリ膝を突いて項垂れるのでした。
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「うん、今日も良い出来ね。ローポーションにスタミナポーション、解毒ポーションに関しては完璧です。初級薬師の称号を差し上げちゃいます」
そう言いニッコリ微笑むミランダさん。褒めてくれるのは嬉しいんですけど初級薬師なんて称号ありませんから。勝手に作ったらお役人様に怒られちゃいますから。
でもミランダさんのお陰で薬草の知識が手に入ったのは助かったよな。薬草の正しい採取の仕方や保存方法、必要な下処理の仕方なんて知らなかったもんな。特に周辺地域の毒草について知れたのがでかい。
山菜料理を食べて倒れたりしたら目も当てられない。
在りし日の記憶では、キノコ狩りに行って中って入院なんてよくある話だったもんね。セリと毒セリを間違えて食中毒なんてのもあったよな、あんなのどうみても別物なのに知らないって怖い。
北海道ではヨモギとトリカブトを間違えての食中毒なんて事もあったし、森の毒草マジ怖い。
この世界の野草って知ってるものに似てるから、逆に思い込みに気を付けないとね。
でも収穫だったのは周辺で取れる香辛料代わりに成りそうな野草を知れたこと、お陰様で私のお肉ライフがより豊かに成ったでござる。(要秘匿)
「でも驚いたのは“授けの儀”を受ける前なのにポーションを作れちゃったことよね~。儀式前でも魔法を使えたり大人の真似をしたらスキルが発現したなんて話もあるから、ケビン君はもしかしたら調薬系のスキルを授かっているのかも知れないわね」
そう言い髪をくしゃくしゃ撫でてくれるミランダさん。でも多分俺ってそんな便利スキルは持ってないと思うんですよね~。
ミランダさんに見せてもらったポーションの作り方はいたって簡単。良く下処理をした癒し草一束を調薬鍋に入れ、清浄な水を適量。手をかざし呪文を一つ、“大いなる神よ、その慈悲を持って我に良薬をもたらさん、クリエートポーション”と唱えるだけ。
えっ!?って思っちゃいましたから。何その手抜き、まるでゲームじゃん、技術の発展糞くらえじゃん。
この“良薬”ってところがポイントでハイポーションの場合は“妙薬”に代わるとか、材料がもう一つ加わるとか、熟練度が低いと中々成功しないとかってどうでもいいわ!薬の調薬嘗めんな!
お前らは目分量でお菓子作って“心を込めて作ったの”とか言ってる女子中学生か!“不味いなんて酷い、あんた最低ね”とか言ってる自称親友さんか!レンジでチンして“手料理です”って主張する自称インフルエンサーか~!!
ってくらいの衝撃でございました。そのショックたるやクリエートブロックの比ではなく、一晩寝込んだのは良い思い出です。
ローポーションがあれだけ“調薬”してたのにこれって。癒し草を天日に干して乾燥させたものを丁寧に下処理し、沸騰しない火加減で煮出し作業を三時間、清浄な布で濾した後一晩おいて分離した上澄みだけを抽出したものがローポーションなのよ!?因みに“調薬スキル”でローポーションを作る場合水分量を三倍にして呪文の“良薬”ってところを“癒しの恵み”に代えるだけって言うね。後必要なのは魔力だけ?魔力万能説、当然ふて寝しましたともさ。
さて、そんな便利スキルなんてないケビン君がどうやってポーションなんて“奇跡の良薬”をこさえたかと言いますと、完全に努力と魔力。
材料はローポーションと同様なため、水分量を減らし同様の工程で作製して失敗。
煮出しの水を魔力水に代えて失敗、煮出し時間を調節するも失敗と数多くの失敗の果てにたどり着いたポーション作製。
でもまさかここでもスライムに助けられるとは。スライムの欠片を一緒に煮込むことで灰汁を吸収してくれるって、村のお婆ちゃんたちに聞いた“上手な煮物の作り方”がこんなところで役に立つとは思わなかった。
この調合レシピは師匠であるミランダさんに進呈、村のお子様ヘンリーさんちのケビン君が持っていてもどうしようもないしね。誰も信用しない俺よりミランダさんが発表した方が説得力が高いかと。面倒事は勘弁でござる。
因みにウチの畑の癒し草で作ったところハイポーション級のポーションが出来ちゃった事は黙っておこう。材料がもう一つ必要って話は何処へ行った。(冷や汗)
「それじゃ、ケビン君のローポーションとスタミナポーションはいつもの様に元気っ子たちにあげていいのよね?」
俺が修行で作ったポーション類は、全てミランダさんに預け子供達の為に使って貰う様に頼んでいる。
勝手に村で配ればミランダさんの立場を危うくするし生活を脅かしかねない。かといって村長経由で行商人に売る訳にもいかない。いずれもミランダさんの既得権益を侵す行為に他ならない。
その点毎日の様に大福と遊んで傷を作る元気っ子たちに使って貰えれば、こっちも助かる。互いにWin-Winの関係。
「あの子たちは僕の弟妹ですから。僕と違って元気の塊だから心配で。あの子たちの事、これからもよろしくお願いします」
そう言い頭を下げ、ミランダさんの所を後にした。俺を見送るミランダさんが“優しいお兄ちゃんね”と言ってニコニコ笑っている事には気が付かずに。
「黄色、緑、畑の草取りありがとう」
俺がミランダさんのところに調薬の勉強に通い始めてから、畑の管理は主にこの二匹が行ってくれるようになっていた。
で、水やりの時ポーション水を撒かなかっただろうね。やけに元気の良い作物に二匹をジト目でみる。
頭をブンブン横に振る緑に対して俺の足元で頭をスリスリ擦り付けて可愛さをアピールする黄色。お前やったな!
しょっちゅう間違えてポーション水を撒く黄色に頭を抱える俺氏。マジで気を付けて下さい、ウチの野菜は只でさえ品質が良いと評判なんですから。
生産者の顔が見える我が村の作物たち、俺の出品する野菜たちは色艶が良い、味が良い、日持ちが良いと三拍子揃って大評判。行商人曰くお貴族様や大店からの注文が引っ切り無しだとか。
お陰で村の野菜全体の評価も上がり、村長と村の監査役人様の笑いが止まらないとの事。実際村の野菜栽培もかなり変わったんで品質が向上したのは事実なんですが。でも一番変わったのは。
体表を硬い鱗が覆い、陽光を浴びて鈍く煌めく濃紺色の守護獣。作物を狙う不埒ものは許さないとばかりに畑を縦横無尽に移動する緑と黄色、お前らマジで変わり過ぎ。
俺、身の丈にあった田舎暮らしがしたいだけなのに。どうしてこうなったと頭を抱えるケビン君なのでありました。




