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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora


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第11話 転生勇者、敵を知る

古来より人は様々な名言、諫言を残してきた。それは後世の人々を導き、新たなる一歩を踏み出す切っ掛けを与えるものでもあった。

“敵を知り己を知れば百戦危うからず”と言う言葉がある。これはいかに情報と言うものが大事であるか、事前分析の重要性と慢心の危うさを教える言葉である。


ジェイクは思った、“俺は奴の事を何も知らない”と。強大な敵に対峙した際、相手を分析し必要な手段を用いるのは戦闘においての基本であり、鑑定と言う素晴らしいスキルを授かった自分に取れる絶対的なアドバンテージでもあった。

自分はその事を怠った。魔法と言う絶大な力を得る事で慢心し、周囲が一切見えなくなっていた。

戦わなければならない、敵を打ち倒さなければならない。強大なでっかいスライムを前に、ジェイクの思考は酷く狭量なものになっていた。そして何も分からないまま自分は敗北した。


マリアお母さん曰く、自分はケビンお兄ちゃんに助けられ自宅に担ぎ込まれたとの事。ケビンお兄ちゃんには本当に感謝してもし足りない。

ボビー師匠は言った“努力は裏切らない”と。自分はまだまだ脆弱な六歳児、トーマスさんちのジェイク君。変に前世の記憶を思い出す事で勘違いしてしまっていたのだ、自分が他とは違う特別な存在であると。


今の自分はジミー君(心の師匠)には決して及ばない。彼の剣技は自分に剣の素晴らしさを教え、剣術の道へと導いてくれた。

今の自分はエミリーにも及ばないかもしれない。愛らしい彼女はその可愛らしさとは裏腹に自身に秘めたスキルの力を開花させ、力強い振り下ろしで鋭い剣技を身に付けつつある。

自分はどうなんだろうか。そんな不安が脳裏を過ぎる。だが焦ってどうなる、迷ってどうなる、俺は特別でもなんでもないただの六歳児、トーマスさんちのジェイク君なんだから。

一歩一歩ただ前へ、ボビー師匠の教えを信じただ只管(ひたすら)に。

ボビー師匠は言った“今は土台を作る時である”と。


俺は部屋の隅に立て掛けてある木刀に目をやる。これはトーマスお父さんが俺にくれた宝剣、俺に託してくれた願い。

“勇気と無謀をはき違えない、お母さんを悲しませない”

父の信頼に自分はどう答えられるのか。


「お母さん、僕ちょっと遊びに行って来るね」

「あら、今日も修行?本当にジェイクちゃんは偉いわね、流石は私たちの息子。遅くならないうちに帰って来るんですよ」


母マリアはジェイクの柔らかい髪を優しく撫で、彼の出発を見送る。

“お母さんは全てお見通しか”

ジェイクは恥ずかしそうに頬を掻きながら目的地に向け歩を進めた。奴が待つあの水辺へ、我が宿敵“ビッグスライム”の元へ。


水辺には爽やかな風が吹き抜けていた。その風に任せ揺れる草花、周囲に(しげ)る低木群がブラインドになり、その木陰に隠れる様に身を寄せるスライムたち。

以前は日向に出て悠々と自由を楽しんでいた彼らも、このところの連日に渡る人間の襲来に、多少は危機意識に目覚めたのか?いや違う、ただ単に子供たちが日向のスライムを狩りつくしてしまっただけなのではあるが。


だがジェイクはそんな彼らには目もくれず、目の前に広がる水辺をじっと見詰め、何かが現れるのを待っているかの様であった。しかしてその何かは現れた。


突如盛り上がる水面(みなも)、それは体表に水滴を滴らせ、ゆっくりと岸辺にやって来る。

“奴だ”。自身に初めての敗北を齎した強大なる壁、己の未熟さと慢心を嫌と言うほど直視させた打倒(うちたお)すべきライバル。

ジェイクはゆっくりと深呼吸をし、己の波打つ心を鎮め、奴に向かい宣言した。


「<鑑定>」


名前 大福

年齢 五歳

種族 スライム?

スキル

魔力吸収 魔力操作 食い溜め

魔法適性

なし

称号

進化せし者


「なっ、ただのスライムだと!?」

ジェイクは戦慄する。これまでスライムの上位種だと思っていた相手が普通のスライム種だったと言う事に。そして自分はただの“大きいだけのスライム”にすら敗北を喫する弱い存在だったと言う事に。


“ハハハハ”、乾いた笑いが漏れる。反省した、自らを省みた、明確な目標も見つかった。自分は変わった、そう思っていた。

だが、心の底にべったりと張り付く“ここはゲームの世界、自分は勇者赤髪のジェイク”と言う“思い込み”は、前世の記憶と共にしつこいぐらいに自身に影響を与えていると言う事に改めて気付かされた。


「本当に何をやっているんだ俺は、最弱モンスタースライムにも劣る勇者なんてあり得ないだろうが。何が勇者だ、何がゲーム世界だ。あ~、止め止め、俺はただの六歳児、トーマスさんちのジェイク君、それでいいじゃね~か。

折角の転生、折角の異世界、剣と魔法、相手にとって不足はない。俺は主人公なんかじゃない、スライムにすら劣るただの転生者トーマスさんちのジェイク!

やい、そこのでっかいスライム、いつかお前を打ち倒して一人前の村人になってやるからな!」


ジェイクは目の前のライバルにそう宣言をすると、踵を返して去って行った。

その場に残されたでっかいスライム“大福”は、新しい遊び相手が出来た事に喜び、プルプルと身を震わせるのであった。



――――――――――――


「これ、マジでヤベえ」


実験農場の簡易小屋で作業を行っていたケビンは、自らに起こった現象に頭を抱えていた。それは先日完成したワームプールで飼育しているビッグワームの試食を行うべく、前日に捕獲し一夜干しにしておいたビッグワームを焚火で炙ってから頂いている時に起こった。


スライムを与えて泥抜きしたビッグワームの美味しさはすでに知っていた。だがこのワームプールでの飼育で同じ結果が得られるかどうかはまだ分からない。不安が消えると言う事は無かった。

それにこのビッグワームたちには畑で生い茂ってしまった癒し草も与えている。以前泥抜き前のビッグワームに与える事で比較的風味の改善につながった癒し草、問題があるとは思えないがそれがどの様な変化をもたらすのかは未だ未知数と言うのも、ケビンの心配を掻き立てる原因であった。


焚火に焙られ肉の焼ける美味しそうな香りを広げるビッグワーム、グググと鳴る胃袋からのサインは、この肉が最上のモノであると脳髄に訴え掛けるものであった。口腔に溢れる涎は、“隊長、いつでも行けます!”とスタンバイの完了を知らせる。

滴り落ちる肉汁が燃え盛る薪に触れ、“ジュ~ッ”と言う音色と共に旨そうな香りを辺り一面に撒き散らす。


“ハムッ“

焼き上がった肉串を豪快に口へと放り込む。程よい噛み心地に“肉を食べている”と言う喜びが湧き起こる。その味わいは淡泊であったビッグワーム肉に癒し草のアクセントが加わり、例えるのなら若鳥のハーブ焼きの様な独特の風味。

前回の反省を生かし村長の下で手に入れた岩塩(すり潰し済)を一摘み。


“qwertyuiop@fghjk!?"

崩壊する言語中枢、突き抜ける旨味、蕩けきる思考。天上の食卓、至高の一品。もはや言葉はいらない。ただ黙々と食べ進める一介の獣。


恐ろしいものを生み出してしまった、まさかすべての思考を奪うほどの食材がこの世に存在するとは。

ファンタジー小説に存在する漫画肉に憧れた、ドラゴンステーキと言うパワーワードに心踊らせた。“勇者病”<仮性>大いに結構、だって美味しいものを食べたいじゃん。夢の食材、ロマン溢れる食との出会い、料理の知識も技術もない俺では決して辿り着けない境地。

俺は決して料理人になりたい訳じゃない、美味しいものが食べたいだけのただの村人なのだ。


“これは危険だ”

そう、この“癒し草で育てた泥抜きビッグワーム肉”は旨過ぎるのだ、それこそこの地に争いを呼ぶ程に。


古より権力者はその膨大な権力と有り余る財力に物を言わせ、究極の料理を求めて来た。古く中国の宮廷で行われていたと言う満漢全席然り、この世界の王宮で嘗て開かれたと言うドラゴン討伐祝賀会然り。

その背後にどれだけの犠牲があろうとも、己が権力を示す為、己が欲求を満たす為、彼らは妥協などしないのだ。その結果ドラゴンの怒りを買い、滅ぼされた国や地域がいくつあった事か。(冒険者のお爺さん情報)

ドラゴンステーキの事を指して“愚者の夢”と言うのも、そうした歴史的背景があるからだ。


こうした権力者の自尊心は自らを特別なものとし、画期的な料理のレシピなどを門外不出のモノとして料理人を屋敷の外に出さないと言った事を平気で行う。

庶民の間からの新たな食文化の発信は許さない、見つけ次第自身の勢力に取り込む。この世界の料理の発展が遅れているのも、こうした権力者の独占欲が原因と言われている。(村長情報)


つまり美味し過ぎる食材の開発は、自身の身ならず地域全体を危険に晒す可能性を秘めているのだ。貴族恐い。


物事には順番と言うものがある、一足飛びの発展は誰にも理解されないどころか多くの者を不幸にする。

先ずは現在のビッグワーム肉の改良版を作り出そう。臭みが減り食べやすくなったワーム肉。完成形はすでにあるんだ、デチューンを行うくらいはわけ無い作業。後はその塩梅に注意すればいい。

辺境の村人ケビン、まだ死にたくないでござる。


そうして試食の評価と今後の課題、先々の方針決めを終えた俺は、この場を片そうと立ち上がったところで固まった。

先ほどまで使っていて汚れた串、その串を拾い集めていた左手の(てのひら)には、大きな切り傷があった。正確に言えばあるはずであった。これは今回ワーム肉を捌く際に使用したナイフで負った傷であった。


村長の所で貯めに貯めた貯蓄で購入した新品のナイフ、一年分の働きの詰まった一品であった。その切れ味たるや何の抵抗もなくビッグワームを切り裂く優秀さ、流石元商人、その目利きの鋭さはいまだ健在であった。そしてビッグワームを持つ私の掌にはナイフの性能証明が刻まれてしまい、急いで掛けたプチヒールも空しくガッツリ縦線が残ってしまったのである。

で、その栄光の刻印が、鋭さの証明が・・・。もしやと思いズボンの裾を捲ると、六歳の時に石に躓いてザックリ切った膝小僧の古傷が。


「これ、マジでヤベえ」

エミリーちゃんのお母さんミランダさんが作るポーションにはいくつかの種類がある。簡単な腹痛や、ちょっと深めの切り傷擦り傷に効くローポーション。骨に入った罅や単純骨折、すっぱり切った切り傷などに効くポーション。命に係わる傷に効くハイポーションである。


この中でローポーションに関しては薬草の知識があれば一般人でも作れるが、ポーションやハイポーションに関しては調薬系の職業またはスキルがないと作る事が出来ないとされている。問題は古傷を治す薬はハイポーションに分類されると言う事実である。


ワームプールを見る。そこに蠢くのはハイポーションに匹敵する薬効を持ったビッグワームたち。これ絶対人には話せない奴じゃん。下手しなくても戦争案件じゃん。

額からドバドバ流れる冷や汗、ナイフで手を切ったのは昨日の話、掌の傷はまだ親にはバレていない、ハズ。


このワームたちはどうする?一部を残して処分決定、大福のおやつにしよう。魔力も豊富だし絶対喜ぶはず。そんで緊急時用に長期保存塩漬け干し肉に加工する分も確保、これから忙しくなるぞ~。


急ぎ証拠隠滅を図り、ただのワームプールへの修正に取り掛かるケビン君。その表情はこれまでにない真剣さを帯びた男の顔なのでありました。(死活問題)

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