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現代に残る聖杯伝説について  作者: 乙黒


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第二の手記

私が杯について調べ始めてから、かなりの時が経ったと思う。正確な時は覚えていない。何故なら既に私がいる場所は、まともな時間が流れていないからだ。そうなったのはいつだっただろうか。私は気が遠くなるような時間を、研究室で杯とともに過ごした。だが、部屋から出てみるとまだ殆ど時間は経っていないのだ。


 その原因は、おそらく〝霧〟だと思う。

だいだい色の霧が、私の部屋を包んでいるのだ。またそれは私の足元を包み、僅かに冷たく感じられる。おそらく私の時間が狂った原因は、この橙色の霧だと思った。これは杯から発生しているのだ。これに気付いたのはいつだっただろうか。杯を同じ場所に置いて、赤い液体を暫く採取しなかった時のことだと思う。その頃には私がこつこつと集めた赤い液体が数十本も瓶が溜まったので、当分の間は杯から赤い液体を取らないことにしたのだ。そして数日が経った時、杯に――異変が起こった。


杯から橙の霧が出てきたのだ。それは霧散することなく、床の上に漂っている。また杯から橙の霧は尽きることなく生み出されているのだ。私は最初、これを赤い液体が気体になったものだと思った。それは遠からず間違っていないようであるが、液体の時と少々効果が違う事に後々気づいた。私は既に赤い液体を飲んでいる。体にその変化は僅かであるが出ている。頭に生えている角は日々成長し、体も少しずつ赤くなってきた。また赤い液体を飲むことで得られる快楽も覚えた。最も、まだそれに溺れていないが。


私が最初に試したのは橙の霧を飲んでみることだった。床に滞留している橙の霧をコップで掬ってみた。やはりコップに入れても橙の霧が散ることはなく、コップの中で漂っている。私は最初、これは空気よりも重い物質なのかと思ったが、重要なのはそこではない。私は赤い液体と同じものかと思いながら飲むと、残念ながら無味無臭であり、体の中に取り込んでも何の変化も無かった。味もしなければ、飲むことで強い快楽を得ることもない。また赤い液体を飲んだときのように、体が変わることもなかった。また、それを私は他の者にも飲ませたが、やはり赤い液体のような効果はなかった。飲んでも何の効果もなかったのだ。


だから私は橙の霧に興味が無くなって、橙の霧が出てもそのままにしておいたのだが、私が異変に気付いたのは思わず時間を忘れて研究に夢中になって、それから一週間経ったときであった。その時にはもう部屋中の床を橙の霧が包んでおり、また少しは部屋から出て外にも逃げ出している。私は食事も研究室内に用意しておいたので、一週間の時をそこで過ごして外に出てみると携帯電話の表示がおかしいことに気付いた。私は確かに一週間、それも研究室にあった時計を見ながら時間の経過を体で感じている。またその時計には日時も表示されており、私は確かに研究室で一週間過ごしたはずだった。それなのに携帯電話の日付を見てみると、六日前、つまり研究室に入ってからまだ一日しか経っていなかったのである。私は自分の目を疑った。狐につままれたようであった。私はすぐに自分がまともかどうか、もしかしたら赤い液体を飲んだことによって幻覚症状に悩まされているのではないかと思い、すぐに車を出して一番近くにあったコンビニに駆け寄った。そこでもう一度店員に日付と時間を聞いてみると、やはり今日は六日前、つまり研究室に入ってからまだ一日しか経っていないことになる。


私はこの時、確かに正気であった。

 だから私は屋敷に戻り、もう一度橙の霧で包まれた研究室で過ごすことにした。もう一週間経った。今度は時計を見たまま過ごした。そして部屋から出ると、今度は外では二日しか時が流れていなかった。どうやら決まった時間ではないが、橙の霧で包まれた空間には時間を歪ませる効果があるみたいだ。


私はこの事に感謝した。何故なら人の寿命には限りがある。だが、この橙の霧の力があれば私は何年でも何十年でも、もしくは百年を超える時でさえも研究を、人類の更なる進化を促すかも知れない研究を続けることが出来るのだ。私はこの事に感謝した。


 そして私が研究所で赤い液体の研究を進めて時間が経つと、やがて橙の霧は屋敷を包むようになった。その時にはもう橙の霧が時間を歪める範囲は研究室だけではなく、屋敷にも及んだ。その頃から私はもう、研究所に食料を溜め込むことはしなくなった。屋敷内で自由に生活するようになった。何故なら屋敷内にいれば問題なく時間の遅延という恩恵を受けることが出来るからだ。


それからまた時が経った。

橙の霧はやがて屋敷どころか外まで範囲が広がり、花が咲いてある庭まで橙の霧は及んだ。屋敷を橙の霧をその時に私は不思議な事に気付いた。私は屋敷から正門を通って出ようとすると、外に出られるのだが、例えば策を超えて外に出ようとすると、私は正門から花が咲いている庭に出てきた。要するにまた屋敷内に戻ってきたのだ。


私はこのことが気がかりになって、何度も何度も正門以外から出ようとするが、やはり何度試しても私は正門から屋敷に入ったことになった。この時、私は空間が捻れているのではないかと思った。そしてそれは正しかった。私はさらなる調査を続けた。そしてまたこのような事が分かった。屋敷は橙の霧で包まれているので、正門以外から出ることも出来なければ、また入ることも出来なかった。要するに橙の霧は包んだ場所の時間を狂わせるとともに、空間も歪ませたのだ。


何ということだろうか。この杯は赤い液体についてもそうであるが、橙の霧でさえも、現代の科学を遥かに超える力を持っている。もしもこれらを解析することが出来て、量産と制御ができるようになれば人類の可能性は大きく変わる。それほどまでの価値が、杯にあることに私は驚愕した。


それから私は赤い液体について研究を進めるとともに、橙の霧についての研究も私は同時にすることにした。


 ――それからページを飛ばす。赤い液体についても、橙の霧についても、杯についても、有力な情報が書かれていなかったからだ。また本も変えて三冊ほど何のせいかも上げられなかったのだが、また別の本に手を伸ばした。すると、その本にかかれていたのは先程までの筆跡とは変わっていた。全てがひらがなで書かれており、また字も歪んでいる。まともな人間が書いたとは思えないほど字はいびつで、また文字の大きさも一つ一つが揃っていない。まるで新聞から無造作に切り取った文字のようだ。執筆者が変わったのだろうか。それとも、書いていた者の字が汚くなったのかは分からない。


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