第八十二話 マッサージを受けるかい?
なんだかんだ言いながらもちょうどよい暇つぶしにはなっていた。
そろそろ、うまなちゃんとイザーちゃんの事をどうにかしてほしいと思いながらも待つことしかできない私。お兄ちゃんも何か考えてはいるみたいだけど、あの顔はどうでもいい事を考えているとしか思えない。
次は何をしようかと考えていたタイミングで白衣を着た集団がゾロゾロと入ってきた。怪しい感じは一切ないのだけれど、味方でもないような不思議な感覚であった。
「今からお前たちの体をほぐすためにマッサージをさせてもらう。お前たちに拒否権は与えられているけれど、拒否をするのであればこの世界から出るための審査を厳格に行わなければいけなくなってしまう。これは神様が決めたことだから覆ることは無いし、お前たちがいくら抗議をしたところで何の意味も無いという事だ。さあ、お前たちは私たちにマッサージされるのを選ぶのか。それとも、拒否してしまうのか。どっちだ?」
先ほどまではそこまで怪しいとも感じていなかったのに、話を聞いてみると怪しさしか残らない。世界から出るための審査を厳格に行うと言われたところで、いったいどうなるのかもわからないところがもどかしい。この世界から出られない事のデメリットはとんでもなくたくさんありそうだし、ここは素直にマッサージを受けた方がい良いのかもしれない。
お兄ちゃんは私と同じようにマッサージを受けると思うんだけど、うまなちゃんとイザーちゃんはどうするのだろう?
岩盤浴を見つけた時と違って明らかにテンションが下がっている二人だし、もしかしたらマッサージを受けずに厳格な審査を受けるとでも言うのだろうか。あの二人ならどんな審査でも通過できそうだと思うけれど、神が絡んでいる以上は何か裏があると思う。
白衣の集団は私たちに答えを急かすようなことはせず、私たちの考えを尊重してくれているようだ。
「確認したいことがあるんだけどいいかな?」
「答えられる範囲だったらいいぞ」
うまなちゃんとイザーちゃんが私たちには聞こえないように何か話し合った後にうまなちゃんが口を開いた。その様子を黙って見ているイザーちゃんは時々私の方を見て大丈夫だと伝えるようなジェスチャーをしていた。
何が大丈夫なのかわからないけれど、私は何となくイザーちゃんに向かって頷いてしまっていたのだ。
「そのマッサージって、痛いやつ?」
「痛くは無いと思う。上に乗ったり力任せに押したり引っ張ったりはしない。コリをほぐす時に多少は力を入れるかもしれないけど、それはマッサージの範疇に収まるものだと思う」
「痛くないんだったら、マッサージを受けてみようかな。ゆまちゃんとまー君はどうするのかな?」
「私はマッサージを受けるよ。外に出る審査ってのがどんな感じなのかわからないんで選びようが無いんだけど、マッサージをしてもらえるってのは普通に嬉しいし」
「俺もマッサージを受けようとは思うよ。別に体に不調があるってわけじゃないけど、何かそう言うところを見つけてもらえるかもしれないしね」
私たちは全員マッサージを受けることになった。
白衣の集団のあとに続いてマッサージ室へと歩いていったのだが、その途中に見えていた庭の景色は四季を巡っているような不思議な空間であった。
春のように桜が咲き、初夏を思わせる新緑のあとには池に反射する強い日差しがあり、枯れ葉が踊るように舞うところを見ていたと思ったら真っ白い雪に覆われた世界になっていた。
時間にして一分も歩いていないとは思ったのだけれど、一人で歩いていたのならば立ち止まってじっくり見ていたいと思ってしまう程であった。
「これからお前たちには別々に仕切られたマッサージ台の上で横になってもらう。一応男女だという事で気を遣ってみたんだが、お前たちなら別に気にすることも無かったようだな。とりあえず、男のお前はあっちの黄金の部屋でマッサージを受けて来い。お前たち三人はあっちの白金の部屋でマッサージを受けるんだ」
岩盤浴では一緒だったのにマッサージではお兄ちゃんと別になるという事に若干の不満はあったけれど、ここで何か文句を言ったところで意味なんて無いという事はわかっている。
私はなるべく無駄なことはしたくないし、ここでごねることによって無駄に時間を浪費するという事も理解している。
だから、私は素直に白金の部屋へと歩いて向かっていた。
「ねえ、男女で分ける必要なんて無いと思うんだけど、まー君も一緒じゃダメなのかな?」
「逆に聞くが、一緒じゃないといけない理由はあるのか?」
なぜこのタイミングでそんな事を言うのかと思ったが、私もうまなちゃんの意見には概ね賛成だったので心の中で拍手を送っていた。
でも、白衣の人はそんな事を言いだしたうまなちゃんの事を快く思っていないらしく、無表情だった眉間にかすかに皺が寄っていた。
「一緒じゃないといけない理由とかは無いけど、せっかくならまー君も一緒の方が良いと思っただけだし」
「私もまー君と一緒の方が良いなとは思うけど、一緒じゃないと絶対に嫌って理由は無いんだよね」
うまなちゃんに続いてイザーちゃんも参戦してしまった。
この流れだと私も続いた方が良いと思うのだけど、変にこじれて時間がかかるようなことになってしまっては意味がない。
でも、私も二人に続いてしまったのだ。
「私もお兄ちゃんと一緒の方が良いかも」
「……。そうか、それなら四人一緒の方が良いな」




