第八十一話 麻雀の神と呼ばれたおじさん
口が回るわりには実力のないおじさんは圧倒的に弱く、誰よりも大きなマイナスをたたき出していた。点数計算が出来な私に気を遣って点数を多くしてくれたんじゃないかと思うくらいたくさんの点をくれたのだけど、途中から見に来た別のおじさんにも点数の不正は無いと断言されていた。意外と真面目なおじさんだったのかもしれないが、麻雀の腕は誰よりもなかった。
「色々解説しながら打っていたから強いのかと思ってたんだけど、おじさんって弱いんだね」
「面目ない。こう見えてもおじさんは元の世界では麻雀のプロをやっていたんだよ。一応、参加できるタイトルはすべて獲得してきたくらいの実力はあるはずなんだけど、お姉ちゃんたちの待ちは全然読めなかったよ。今日みたいな麻雀を打っていけば、お姉ちゃんたちでタイトルを独占することも出来るんじゃないかな」
「そんなに凄い人だとは思わなかったよね。凄いよく喋る人だとは思ったけど、麻雀の時ってそんなに喋っても良いの?」
「競技麻雀の時は会話は駄目なんだけど、今回は楽しんでおいでって神様から言われたからね。ちなみに、おじさんも元の世界では麻雀の神様って呼ばれてた時もあるんだよ」
随分とたくさん神様がいるんだなと思いながらも、おじさんが私とうまなちゃんとイザーちゃんの事にしか触れていないのは気になった。
実際にお兄ちゃんにだけ振り込んでいないという事もあったんだけど、お兄ちゃんの方がほんの少しマイナスが少ないので実力は認めてあげてもいいんじゃないかな。
「気のせいかもしれないけど、昔ネット番組でおじさんに似ている人が麻雀をしてるところを見たことがあるかもしれない。その時は今よりも麻雀に興味が無かったからハッキリとは覚えてないんだけど、おじさんに似ている人が開始と同時に上がってみんなから驚かれていたような気がする」
「天和の時だね。今までおじさんはテレビ対局で三回ほど天和を上がってるんだけど、どの時かな。お兄さんの年齢から考えると、去年の対局の可能性が高いと思うよ。おじさんの相手に髪の薄い人がいた?」
「ああ、いたような気がします。髪が薄くて紫のスーツを着て蝶ネクタイをしていたような気がします」
「それなら去年の対局で間違いないね。まあ、おじさんのいた世界とお兄さんのいた世界が同じ時間軸とも限らないんだけど、おじさんの事を知っていてくれる人がいたってだけでもうれしいもんだね」
「見たことがある程度で知っているわけではないんですけどね。名前も知らないですし」
「まあ、これだけ大きくマイナスになっちゃったから名前を知られてなくてよかったとは思うよ。じゃあ、またどこかであったらリベンジさせてもらおうかな」
おじさんは立ち上がってお盆を手に取ると、一人一人のグラスを回収して外へ出ていった。いったいこの時間は何だったのだろうという疑問はありつつも、私たちはそれなりに時間を潰すことが出来たので良かったと思う事にした。
「そんなに強い人だとは思わなかったけど、ゆまちゃんって麻雀上手なんだね」
「上手っていうか、全部見えてたからね。何もかもが見えてたから、負けるわけないんだよ」
「何もかもが見えてたって、どういうこと?」
「どういう事って、みんなは魔法を使ってなかったの?」
みんなも私と同じように魔法を使っていると思っていた。
最初の時はみんなが魔法で自分の手を誤魔化しているのではないかと思って警戒してみたのだが、途中からみんなが周りに対して妨害するような魔法を使っていないという事に気が付いた。
というよりも、誰一人として魔法を使っている形跡は無かったのだ。
なぜ私だけ魔法を使っているのかという疑問はあったものの、特に何か咎められることも無かったので継続して魔法を使用していた。何か問題があれば途中で指摘されるとも思っていたし、途中からやってきたおじさんも魔法については何も指摘してこなかったのでいいのかと思って安心してしまった。
もしかしたら、みんな魔法に頼らずに実力でマージャンを楽しみたいのかなとも思ったけれど、そんな事をしても何の意味もないし魔法を使うことだって実力のうちだという思いがあったので何も気にしなかった。気にすることで手を抜くというのもよくないことだと考えたのだ。
でも、実際はみんな魔法を使わなかったのではなく、魔法が使えなかったという事らしい。
「逆に聞くんだけど、なんでゆまちゃんは魔法が使えたの?」
「何でって言われても、普通に使えたから使っただけだけど。みんなはなんで魔法を使わなかったの?」
「いや、ここら辺一帯は魔法が使えないようになってるし。ゆまちゃんだけが魔法を使えるのかもしれないけど、私たちは魔法を使えないんだよ」
「魔法が使えたとしても、ゆまちゃんに妨害されて結局意味がなさそうだとは思うけどね。多分だけど、私とうまなちゃんが協力して魔法を使ったとしてもゆまちゃんに勝てないんじゃないかと思うよ」
「そうだよね。私たちの魔法だってそこそこ強いとは思うんだけど、ゆまちゃんと比べるとカスみたいなもんだよ。自分で言ってて寂しくなっちゃうけど、仕方ない事なんだよ」
寂しそうな顔で会話に入ろうとしないお兄ちゃんを見ていた私。
それに気付いたお兄ちゃんは私からそっと目を逸らしてしまった。




