第八話 八鬼神との最終勝負
お兄ちゃんと戦う八鬼神は自信満々のようだ。
そんな自信満々な八鬼神と戦う事になった指だけではなく腕全体のストレッチをおこなって万全な体制で迎え撃つようだ。
たかがゲームだと思って見ていたのに、お兄ちゃんも八鬼神も今までに見たことが無いくらい真剣に準備をしている。そこまでしないといけないのかと思いつつも、本気で立ち向かうお兄ちゃんは格好いいと思ってしまった。
「最終戦ってことで、三先じゃなくて十先でどうかな?」
「別にいいけど、愛華ちゃんは大丈夫?」
「大丈夫かと言われれば大丈夫じゃないって答えるしかないんだけど、この勝負はただのエキシビジョンなんで結果なんてどうでもいいって思ってるかな」
「エキシビジョン?」
八鬼神だけがエキシビジョンという言葉に納得がいかないようだが、そのほかの大男もまー君も勝負はもうついてしまっているのだから仕方ないよねという空気感をまとっていた。八鬼神だけが腑に落ちないという表情を浮かべてはいるものの、八人全員がまー君たった一人に瞬殺されてしまったという事実を覆して新たに勝敗を分けるという事は難しいだろう。
八鬼神を説得するために大男たちはちょうど良い機会だと割り切って今まで思っていたことをぶつけていた。
その様子は、はたから見ていても少し可哀そうに思えた。
「さすがに八人全員が良い勝負にもならなかったのにやり直そうなんて虫が良すぎるよ」
「ココは素直に負けを認めておいた方が良いと思うよ。ごねたところで誰も得しないし、そこで勝ったとしてもむなしいだけじゃないかな」
「やり直したいって気持ちはわかるけど、今の俺たちにはその資格なんて無いと思う」
「お前の得意なゲームで勝ったところで誰もお前の勝ちだなんて思わないんじゃないかな。プライドが無いって言うんだったらそれでもいいと思うけど、俺たちはそんなお前の姿を見たくはなかったな」
「だいたい、お前はいつもそうやってワガママを言えばどうにかなると思っているところがお子様だって言うんだよ。この店は別にお前を中心に動いているわけじゃないし、もっとみんなの気持ちを考えてみるのも大人として必要な事じゃないかな」
「いつも思ってたんだけど、お前のネーミングセンスってちょっと痛いよな。まだ内輪だけで盛り上がる分にはいいんだけどさ、今回みたいに高校生カップルの前でもそのノリを継続するのはヤバいんじゃないか」
「俺はお前が羨ましいよ。思ったことを実行して自分だけがスッキリ出来るっていいよな。俺もお前みたいに再戦したいって思ってはいるけどさ、あんなに一方的にやられた後じゃ何をしたって報われることなんて無いよな。それが理解出来ないお前が本当に羨ましいよ」
「それに、お前は別にここで一番って顔してるけどさ、お前が一番なのっていったい何だっけ?」
「ラジコンとか上手かったと思うけど、メチャクチャ凄いって事でもないよな。プラモデル作りとかも普通だし、お前の得意なのっていったい何なの?」
「早食いとかは一番じゃないかな。いつも一番先に食べ終わってるイメージあるし。先に食べ終わって一人でゲームしてるのよく見かけるよ」
「それって、ただ偏食が凄いから食べられるものが少ないってだけじゃないか。完食しているところ見たことないけど」
「え、でも片付けるときに何か残ってるってことはなかったと思うよ」
「ごめん、皆が残したヤツは俺がほとんど食べてた。ちゃんと許可はとってるから問題ないと思ってたんだけど、みんなにも言っておいた方が良かったかもしれないね」
「別にそれは良い事なんじゃないかな。食べ残して捨てるよりは全然いい事だと思うよ。作ってる方もその方が嬉しいとは思うけどね」
「作ってる方って言ってもさ、ほとんど出前か宅配弁当だよね。そんなに気にしてないんじゃないかな?」
「色々と面倒くさい世の中だし、完食するのはいい事だと思うよ。で、何の話してたっけ?」
「確か、八鬼神があの子とゲームで戦うのはどうだろうって話じゃなかった?」
「そう言えばそうだったな。でもさ、実際のところ八鬼神がゲームで勝ったところで何があるんだろうって話だよね。あの子はもうすでに俺たち全員と戦って完勝しているわけだし、八鬼神が勝ったところであいつが気持ちよくなるだけだよな。それでも、勝負をしようっていう気持ちになるのはどんなメンタルなんだろうな?」
「羞恥心とか持ち合わせてないってだけの話だと思うよ。俺たちはまだそこまでの極地に至ってないわけだし、理解は出来ないんじゃないかな。でも、理解出来るようになりたいとは思えないけど」
「勝てることが出来ればまだいいんだけど、ここでまた負けたりしたらどうなるんだろうね。しかもさ、十先なんて実力差がはっきりとわかっちゃうわけだし、今回も運で片付けることは出来なくなっちゃうと思うな。将棋の時みたいにルールをちゃんと把握していないって言い訳は出来なくなっちゃうと思うんだけど、八鬼神はそこんとこどう考えてるの?」
「やる前から負けることなんて考えてないけど、みんなちょっと言いすぎじゃないかな。さすがの俺でも傷付いちゃうよ」
少しだけ涙目になっていた八鬼神を見ていたゆまはほんのちょっとだけ八鬼神の事を哀れだなと思っていた。
それと同時に、お兄ちゃんに対してあまりしつこくしないように気を付けようとも思っていたのであった。




