第七話 八人勝ち抜き三先勝負
お兄ちゃんは男の人達を圧倒していた。
将棋がイマイチわからない私はどちらが有利なのかAIに判定してもらっていたのだけれど、途中からお兄ちゃんの勝ちが覆ることのない状況になっていたのだ。男の人達はもう逆転の目がないという事にも気付くことが出来ず、最後の最後まで指し切っていたのだ。
あっという間に八人勝ち抜いてしまったのだった。
「将棋が強くたって何の意味もないし。俺たちはみんな負けちゃったことに変わりはないけれど、本番はこれからだし。格闘ゲームだったら絶対に勝てるって自信はあるんだけどな。お前は格闘ゲームで俺に挑む勇気なんて無さそうだし、ココは素直に負けを認めてあげてもいいんだけど、お前はそれでいいのかな?」
「別に何と言われようと俺の勝ちだから気にしてないけど。そう言うわけだから、あとは俺たちの事ほっといてもらってもいいかな?」
「ああ、そう言う感じね。今時の若者って感じか。それはそれで仕方ないと思うけど、そんなお前を見て連れの女の子はどう思うんだろうね?」
「え、私ですか?」
「そう、君だよ君。君は将棋なんかで八人抜きした彼氏を見てどう思うかな?」
「いや、まー君は彼氏じゃないし。私は誰とも付き合ってないし。それよりも、将棋のルールは全然わかってないんだけど、みんなすぐに倒しちゃったのは凄いと思ったよ。将棋のことは詳しくないんでたまにニュースで見るくらいなんだけど、こんなに早く終わるもんなんだなってのが正直な感想かな。まー君とあなたたちの間にどれくらいの実力差があるのかわからないんだけど、ニュースで見る名人戦とかは二日に分けて戦ってたりするみたいだからもっと時間がかかるんじゃないかなって思ってたかな。でも、一人三分もかからずに倒しちゃってたのを見て、まー君って凄く将棋が強いんだなって思ったよ。それと、素直に負けを認めることも出来ないあなた達はちょっとカッコ悪いなって思っちゃった。それはみんなに伝えておこうかなとも思ったよ」
メガネの女の子の反応が予想していたものと全然違ったようで、お兄ちゃんに格闘ゲームでの再戦を切望していた男の人は目を丸くしていた。いったいどんな反応が返ってくると思っていたのか知らないけど、あの状況でお兄ちゃんの事をどう思うかなんて聞いてもメガネの女の子の反応と大差ないと思うんだよね。
それと、メガネの女の子がお兄ちゃんの彼女ではないという事が確定したのでそれは良かったと思う。お兄ちゃんの彼女にはふさわしくないなって思ってたからちょうどよかったけど、焦った様子もなく淡々と冷静に否定しているところは嘘をついていなって証拠なんだろうね。
だけど、お兄ちゃんの事をまったく何とも思っていなさそうな感じなのはどうなんだろうって思っちゃうよね。お兄ちゃんの事を好きでいてもらうのは困るんだけど、もう少しこう……なんて言うか、イイ感じに思ってくれてもいいんじゃないかなとは思うよね。
ほら、お兄ちゃんが昨日の夜からソワソワして気持ち悪いくらいに浮かれていたのを知っているからってのもあるんだけど、メガネの女の子も少しはお兄ちゃんに対して好感を持ってもいいとは思うんだよね。
だってさ、お兄ちゃんはメガネの女の子の事を守るために八人の大男と戦って勝ったんだからね。それを思えば、あそこまで無感情でいられるのって逆にすごい事なんじゃないかと思っちゃうかも。
それよりも、あの大男がお兄ちゃんにあっさり負けたのにグダグダと言い訳しているのは見苦しいを通り越して哀れに思えてくるよ。きっとあの大男の友達も私と同じように哀れに思ってるんだろうな。みんなの視線が冷たいっていう事にも気付いていないみたいだし、そう言う自己中な人なのかなって思えちゃうよね。
「もういいよ。お前がっていうか、俺たち全員こいつにあっさり負けちゃったんだよ。素直にそれを認めるのも大事な事じゃないかな?」
「でも、こいつは俺らのわからないところでズルいことをやって勝ったのかもしれないんだぜ。俺らが将棋をほとんどやったことがないとはいえ、ルールくらいはわかっているはずだよな?」
「まあ、定石とかは名前くらいしか知らないけど、多少は知っているつもりだよ。たまにやってるのを見ることもある程度には理解していると思うけどな」
「だよな。俺らがゲームでこんなにあっさり負けることなんてあってはいけないことなんだよ。どんな勝負でもあそこまで大差を付けられるってのは駄目なんだよ。俺ら八鬼神が簡単に負けるなんてあってはならないことなんだ」
八鬼神って何だろう?
何となくだけど、見ているこっちの方が恥ずかしいって思えてくるのはどうしてなのかな?
きっとお兄ちゃんもメガネの女の子も私と同じようなことを思っているんだろう。それを表情に出さないのはさすがお兄ちゃんだなとは思って見ていたら、メガネの女の子がちゃんとドン引きしているようなのでちょっと安心した。
私もモニターに反射している自分の顔が今までにないくらい呆れている感じになっていたので、ちょっとだけ恥ずかしさを中和できてよかったと思う。
それにしても、八鬼神ってネーミングはちょっとアレだよね。
「なあ、その八鬼神って何だ?」
「なんだって、俺らが八人集まったら八鬼神だろ」
「いや、初耳なんだけど」
「俺も初めて聞いた。前もなんか言ってたと思うんだけど、何だっけ?」
「三本柱とか、五代龍王とか聞いたことがあるかも」
「ああ、何かそう言うのあったな。俺もそれに入ってたのは衝撃だったけど、まだやってたのか?」
お兄ちゃんと戦う事をまだあきらめていない大男の味方であるはずの大男たちは八鬼神ではないらしい。
そんなどうでもいい情報はすぐに忘れたいところではあったが、なぜかお兄ちゃんは八鬼神の人と格闘ゲームで対戦するような動きをしていた。
お兄ちゃんがゲームをしているところも見た記憶はないけれど、お兄ちゃんならあっさりと買ってしまうんだろうなという信頼はあった。
八鬼神は恥ずかしそうにお兄ちゃんの隣に座ると、どっち側が良いか聞いていた。
一応、その辺は配慮してくれているようだった。




