第七十五話 何でもします
「ねえ、これ以上神様に攻撃するのをやめてよ。攻撃したって何の意味もないことくらいわかってるでしょ。だから、もう攻撃するのはやめてって。お願いだから、もうこれ以上神様を攻撃しないでください。何の意味もない攻撃だとしても、神様も嫌だと思うんだからさ。ね、わかってもらえるよね。だから、もう攻撃しないでって。お願いします。これ以上攻撃しても何の意味もない事なんだし、許してください。何でもしますから。お願いします」
誰だかわからない人のお願いを聞く必要なんてないと思うけど、何でもしますって言われたんだったら聞かないわけにはいかないよね。何でもしますって言うのは、相当重い言葉だと思うけど、それをちゃんと理解しているのかな?
「何でもしますって、嘘じゃないよね?」
「嘘じゃないです。本当です。でも、私に出来ることだったらですけど」
「あなたって、何が出来るの?」
「何が出来るのって言われても答えようが無いんですけど」
「じゃあ、この世界の物を動かすことは出来る?」
「それなら出来ます。この世界の食べ物を持って帰りたいってことですか?」
「いや、それはどうでもいい。ちょっと考えるから待っててね」
「待つのは構わないんですけど、考えてる間も神様を攻撃するんですか?」
「あなたが私の願いを聞いてくれるかわからないから。それがハッキリするまではやめるつもりはないよ」
私だって別に神が憎くて攻撃をしているわけじゃない。お兄ちゃんの姿を騙って人を騙そうとしている根性が許せないだけなのだ。
どうせだったら、お兄ちゃんの名声を高めるような何か素晴らしい事でもすればいいのに、お兄ちゃんの真似をしてやっていることがうまなちゃんとイザーちゃんの事をからかっているだけなのだ。……あれ、それだったら別に何の問題も無いんじゃないかな?
まあ、どっちにしろ今更引っ込みもつかないわけだし、長時間お兄ちゃんに会えなかったストレスをここで発散しておくのも悪くないよね。
そう言うわけで、もう少しだけ神を蹴り続けることにします。
「あの、そろそろ決まりました?」
「うーん、もうちょっとだけ待ってて」
「それは良いんですけど、蹴ってる足の方が痛くなりません?」
「それは大丈夫。痛みを感じない魔法を使ってるから」
「え、そんなこと出来ないと思うんだけど」
出来ないと思うって言われたところで、実際に私は足の痛みを感じない魔法をかけているわけだし、何がおかしいんだろう?
そうだ、せっかくなら私の感じる痛みを神に押し付ける魔法でも使ってみるのはどうだろうか?
ちょっと面白そうな試みだと思い、私は自分の足が本来受けるはずだった痛みを神に押し付けるのをイメージしながら蹴り続けた。イメージがだんだんと具体的な物になり、私が受けるはずだった痛みを神が受け取ることになっていった。イメージが固まったと同時に、私の足に伝わる感触は白玉をこねている時のようなモノへと変化していった。
「ちょっと、何も感じないはずの神様が苦しそうにしてるんですけど。いったい何があったって言うの?」
「何があったって、私の痛みを神に押し付けてるだけだけど。それがどうかした?」
「それがどうしたって、そんなこと出来るはずが無いのに。この世界に直接干渉することは封じられているっていうのに、どうしてあなたはそんなに普通に魔法が使えるの?」
「どうしてって言われても困るんだけど。別に何か特別なことなんてしてないし、普通に使ってるのにおかしいとか言われても知らないし。って、この世界で魔法は使えないの?」
「外界からやってきた生物はこの世界で生きることと観察することしか許されていないんだよ。それ以上の事をやるには神様の許可が必要になるんだけど、自分を傷付けるようなことを神様が許可するわけもないし。他に可能性があるとするならば、神様の力が及ばないくらい力量の差があるってことになっちゃうと思うんだけど、そんなはずがないよね。もしもそうだったとしたら、神様はあなたになっているはずだし。謎は深まるばかりだわ」
「そんな事よりも、本当に何でも聞いてくれるの?」
「私に出来ることだったら。神様を殺せとかは無理だけど」
「そんなのはわざわざあなたに頼まないって。私には出来ないけどあなたになら出来ることを頼んでもいいかな?」
「私に出来ることなら何でもするけど」
私は神を掴んでいた左手を離して彼女にそっと耳打ちをした。
お願いを聞いた彼女は最初のうちこそ戸惑ってはいたけれど、ちゃんと考えてみた結果、私のお願いを聞いてくれることになった。
不可能なことを頼んでいるわけじゃないし、彼女にとってはそこまで難しい事でもないお願い。失敗なんてしないと思うけど、あまり過度な期待はしないでおこう。
私が手を離した神はお兄ちゃんの後ろに隠れてしまった。
そんなに怯えなくてもいいとは思うんだけど、私と目を合わせることが出来なくなった神はお兄ちゃんの姿に似ていなければもう一度、いや二度三度と蹴っていたかもしれない。
「じゃあ、準備も整ったのでやってみます」




