第七十四話 神をボコす
お兄ちゃんと髪を見分けることも出来ない哀れな女たちがわめているのを横目に見ながら、私はお兄ちゃんと神を交互に見ながらあらためて考えてみた。
こんなに違うのに見分けられないなんてどういう神経しているんだろう?
「あ、ゆまちゃん。ちょうどいいところに来た。神がまー君の姿をマネしているんだけどどうしたらやめさせられるかな?」
「それとも、まー君が神に合わせて余計な動きをしないように言ってもらえる?」
「そんなことしなくてもお兄ちゃんがどっちかわかると思うんだけど。二人はどっちがお兄ちゃんかわかってないの?」
私の質問に二人が答えられるとは思っていなかった。意地悪をしてみた感じになってしまったけれど、私にしてみればお兄ちゃんと神を見分けることが出来ない方がどうかしているという事になる。たぶん、愛華ちゃんも見分けることが出来ないとは思うけど、ずっとお兄ちゃんの事を勝手に見てきた二人ならわかりそうなのになという感情も無かったとは言い難い。
質問に対して質問を返してくるようなこともなく、うまなちゃんもイザーちゃんもお兄ちゃんと神を交互に見て違いを探そうとはしていた。
私に言わせると、そんなにじっくり見てわかるのもおかしいと思うけれど、これだけ時間をかけても見分けられないというのは愛が足りないとしか言いようがない。
「仕方ないから私が教えてあげるよ。どっちが本当のお兄ちゃんで、どっちがお兄ちゃんの姿を騙っているバカな神なのかをね」
私は二人の間にまっすぐ向かい、順番に顔を見比べてみた。
遠くで見た時よりも違いは分かりやすかったし、これ以上ないくらいに偽物である証拠が目に入ってきた。
まあ、お兄ちゃんも神様みたいなところがあるから見分けるのが難しいと言われたら悪い気はしないけれど、どうせ真似をするのであれば違いがわからないようにしてもらいたかった。
「今からお兄ちゃんの姿を騙っている頭の悪い神をボコボコにします。途中で泣いても止めることはしないので覚悟しておいてください。謝るんだったら今のうちだけど、どうするのかな?」
お兄ちゃんは当然私に謝る事なんてしないんだけど、お兄ちゃんの姿を騙っている神も私に謝ることは無かった。
もしかしたら、まだバレていないと思っているのかもしれない。二分の一の確率で当てることが出来るんだから外れを引くとでも思っているのかもしれない。
でも、私がお兄ちゃんの事を見間違える可能性が少しでもあると思っているんだとしたら、それは大いなる過ちと言っても過言ではないだろう。
今の状態でも限りなく完璧に近いと思うけれど、より完璧に近づけるために私は二人の手首をつかんでからニッコリと微笑んだ。
「うん、やっぱり私の勘は間違ってなかったみたいだね。もう謝っても遅いからね」
私はお兄ちゃんの手を掴んでいた右手を離して、そのまま拳を固く握って神の顔面へ叩き込んだ。ちょっとだけ当たり所が悪かったので頬骨に当たってしまったのだけれど、骨を叩いたというよりはスポンジを押し込んだ時の感触に似ていた。この時点でお兄ちゃんではないと確定してしまっているのだけれど、私は神の手を掴んでいる左手を離すことなくもう一発右拳を顔面に叩きこんだ。
先ほどと同じようにスポンジを殴っている感触しか伝わってこないのだけれど、神は情けない声を上げながら許しを請うような眼差しを向けてきた。
そんなことしても許すはずがない。そう心に誓っている私は顔面をもう一度殴りつつ左手を引くと同時に足払いをかけて神の体を宙に舞わせた。もちろん、がら空きになった顔面にもう一発拳を叩きこんだのだけれど、今回は全体重を右手に乗せて地面に向かって振り下ろした。私は神の手を掴んだ左手は離さなかったので、神の右手だけは天に向かっていたのだ。
「ちょっとやりすぎな気がするんだけど」
「神ってあそこまでボコボコにして平気なのかな?」
うまなちゃんとイザーちゃんは私の行動にかなり引いてしまっているようだが、周りで見ていた人達からも歓声ではなくどよめきが上がっていたのでちょっとだけ後悔しそうになった。
でも、お兄ちゃんは別に困っている感じも無かったので気にしないことにした。
意識があるのかないのかわかりにくい神だったので、私はもう二三発殴って確かめようと思ったのに誰かが私の右腕を掴んで引っ張ろうとしてきた。その力に抵抗しようとしたのだけれど、私の意思とは関係なく力が抜けていってされるがままになりつつあった。
それでも、神の手を掴んでいる左手を私は離すことをせず、私の右手は神から離れつつあって左手は神のすぐそばにある。私はせめてもう少しだけ攻撃したいという思いを強く持ち、左足で神の体を何度か蹴っていた。
「それくらいで勘弁してやってくれ。そいつだって悪気があったわけじゃないんだ。ただ、この世界で一番勝てる奴になっちゃう性質なんだよ。でも、おかしい話だよな。単純な戦闘力だったらまー君よりも強い奴なんてたくさんいるはずなのに、どれだけ試行回数を重ねても最後に勝っているのはいつもまー君なんだよ。個人の力が強いってのもあるけど、まー君を助けようって力が強すぎるのかもしれないな。もちろん、その筆頭にあんたがいるわけだけど」
「別に私は怒ってないし、やめろと言われたいつでもやめるよ。でも、最初に謝ってくれたらもっと良かったんじゃないかなって思うよ」
「そう言ってもらえるのはありがたいけど、それだったらもう蹴るのをやめてもらえたら嬉しいかな」




