第六十七話 魔王の部屋へ向かう
鉄の塊を叩いて伸ばしている時にイメージしたのは絶対に折れないのに切れ味が鋭い無敵の刃だった。魔法を使うという意識は全くなかったけれど、叩くことに満足したときに完成したのは素人でもわかるような逸品であった。
もともとが鉄の塊なので重量はそれなりにあるのは仕方ないのだが、持ちやすいように取っ手でも付けておけばよかったと後悔していた。
が、取っ手が付いている姿をイメージしていたら、いつの間にか取っ手が付いていて持ちやすくなっていたのだ。重量は変わっていないけれど、取っ手があることによって随分と持ちやすくなっていた。
私は剣と呼ぶにはあまりにも異質だが、切れ味はどの刃物よりも鋭い武器を構えて魔物の群れへと向かって行った。
魔物たちは私が持っている得物に気付いていないのか、何も考えずに突進してくるばかりで魔物たちの体は次々と上下二つに分離して消えていった。誰一人として私に殺されているという事に気付くことは無く、襲ってくる魔物たちがいつまでも止まらないため私も進むしかなかった。
どんどんと切り捨てられているのにも関わらず、魔物たちは一切行動を変えようとしない。前に進むことしか許されないのかと思うくらいに一直線にこちらへと向かってきていた。兄貴がそんな指令を出しているからなのかもしれないが、それにしても実直すぎると思う。こんなところもバカだと感じてしまう原因なのかもしれない。
あれからどれくらい進んだのだろうか。距離にしてみれば大したことが無いのかもしれないが、切り殺してきた魔物の数は政令指定都市の人口を超えていると思われる。少なく見積もっても、百万近い数は殺してきたはずだ。
それなのに、魔物たちの進行は止まることもなく、ただ無意味に命を落としているというかわいそうな状況になっているのだ。
そんな時でも、兄貴は私の事を襲うようにと指令を出すだけで細かいところは何も考えていないのかもしれない。数で押せば何とかなるという考えしかもっていないのだろうが、絶対的な力量差のある相手に対してはいくら物量があったとしても意味がないという事を学んでほしいとは思う。
最初から気付いていたことだが、魔物の中で兄貴が一番バカなのかもしれない。
「お兄ちゃん、あの兄貴を殺しちゃって」
私の願いが届いたのか、どこからか飛んできた光の矢が兄貴の頭と胸を射抜いた。
兄貴は矢が体を貫通したと同時に消えてなくなった。一瞬で命を落としたという事だろう。
その瞬間、私に向かって一直線に走ってきていた魔物たちは急に我に返り、立ち止まって私の事を見ていた。
私も魔物たちと同じように立ち止まっているのだが、魔物たちは何かを察して後退してしまった。後ろの方にいた魔物たちも何が何だかわかってはいないのだろうけれど、血相を変えて逃げてくる魔物の圧におされて一緒になって逃げてしまった。
魔物が向かってこなくなったのはいい事なのだけれど、私が持っているこの武器はいったいどうしたらいいのだろう。携帯性は皆無だし、これ以上この武器を持って行動するのも面倒くさい。誰かにあげるにしても、こんなのを欲しがるようなもの好きは存在しないだろう。
どうすればいいか考えた結果、この武器を思いっきり壁に突き刺せばいいんじゃないかという結論に至った。
「これでいいかな。何かあったとしても私の責任じゃないし」
鉄の塊は綺麗に壁に刺さって持ち手の部分だけ飛び出ていた。知らない人が見たら引き出しでもあるのかと思ってしまう程綺麗に鉄の塊が壁の中に消えてしまっている。
逃げて言った魔物たちの後を追うわけではないが、私はまさ先輩のいるであろう場所を目指して前へ進むことにした。
逃げそびれた魔物たちが怯えたような顔でこちらを見てくるのを横目に見ながらまっすぐ前へと進む。
途中に何度か空気の読めない魔物が襲ってくることもあったけれど、私は丁寧に相手をしてあげた。
そんな事を幾度か繰り返していると、魔王の部屋と書かれたサインボードが掲げられた部屋にたどり着いてしまった。
きっとこんな分かりやすいモノは罠に違いないと思いつつも、私はその扉を何の躊躇もなく思いっきり開けてみた。
「うわぁ、ちょっとびっくりするじゃない。いきなり開けるなんてよくないよ。何もしてなかったからいいものの、俺が何か良くないことしてる最中だったらどうしてたのさ。って、ゆまちゃん?」
「何もしてないのにもほどがあるでしょ。まさ先輩は魔王なんだからそれっぽいことしててくださいよ。お兄ちゃんと一緒に来なくてよかったって心から思いましたよ」
「今日はまー君と一緒じゃないのか。ゆまちゃんが一人行動するなんて珍しいね」
「別に珍しくないと思いますよ。それで、この世界はどうですか?」
「どうって言われてもね。魔王をやってみて色々と感じたのは、気楽な稼業じゃないってことだね。意外と気も使うし、強くないといけないってのもあるからね。そっちはまー君と上手くいきそう?」
「全然だめです。お兄ちゃんはやっぱり私の思い通りにはならないっぽいです」
「そうだろうね。じゃあ、次はどうするのかな?」
「うーん、もう諦めようかなって思ってたところですよ」




