第六十六話 痴漢の群れ
助けを呼んだとしてもお兄ちゃんが来てくれるとは思っていなかったし、こんな危ない状況にお兄ちゃんを巻き込みたくないという思いもあった。
魔物たちは今にも私に襲い掛かるのじゃないかという動きを見せているけれど、私の近くにいる魔物たちがあまり積極的ではないみたいで気付かれないように後ずさりしていた。
「兄貴、この可愛い女の子をどうしたらいいんですか?」
魔物たちは皆、兄貴の言葉を待っている。多少はいた私に注目していた魔物たちも兄貴の方をジッと見ている。
兄貴は皆の期待に応えるべく、私の方へまっすぐに手を伸ばして号令をかけた。
「あの可愛い女の子を孕ませろ。一人二人じゃなく全員で孕ませてしまえ」
その言葉に呼応するように後ろにいた連中が一斉に前へと詰め寄ってきた。最前列にいた控えめな魔物たちは道を譲るように体の向きを変えると、その隙間を縫うように血気盛んな魔物たちが私めがけて凄い勢いで近付いてきた。
この時にはすでに気持ち悪いや怖いとの思いよりも、なんだか気の毒な連中だなという感情の方が私の中の大部分を占めていた。
私が喜んでこんな魔物の相手をするわけも無いし、無抵抗で受け入れるはずがない。そんな事もわからないのかと思うがゆえに、彼らの事を気の毒に感じていたのだ。
本来であれば一人一人丁寧に対応してわかってもらうことが重要なのかもしれないけれど、私がそんな面倒なことに時間も労力も使う必要なんてない思った。名前も知らない、性格も知らない、そんな魔物を自分と対等に扱う事なんて無駄なことでしかないのだ。
私は襲い掛かってくる魔物たちに対して攻撃したいところなのだが、気持ち悪い魔物に素手で触れるという事に抵抗があったので何か良いものが無いかとあたりを見回してみた。
もちろん、魔物が私に近付くまでの一瞬の時間を引き延ばしての行動だったが、運のいい事に私の後ろにいた比較的人間に近い魔物が持っていた大きな剣を奪い取ることに成功した。
剣だと思って手に取ってみたのだけれど、実際に持って確認してみたところ、それは私の足よりも太く分厚い鉄の塊だった。体格の良い魔物が剣を持っているように構えていたから勘違いしてしまったのだが、私が持つと剣ではなくただの鉄の棒と言ってもいいような代物であった。
だが、これ以外にめぼしい武器は見当たらないという事で、渋々その鉄の棒を向かってくる魔物たちを薙ぎ払うように一掃してみた。
引き延ばされた時間の中でもゆっくりと魔物の肉体を潰しているという感触は手に伝わり、高質化している胴体や鎧を砕いていくメリメリという感触はある場面では不快であり、また違う場面では快感であった。中にはほとんど抵抗もなく上下真っ二つになってくれる魔物もいたので、そう言った嬉しい手ごたえを見せてくれる魔物ばかりを探すようになってしまったかもしれない。
だが、高質化していない魔物などはそこまで数も多くなく、ほとんどの者が手に嫌な感触を与えてくる固いだけが取り柄のようなバカの寄せ集めでしかなかった。
嬉しい誤算というか、そうなると良いなと思っていたことなのだが、魔物も人間と一緒で死んだ時には体が消滅してどこかへ行っているようだ。
魔物の体が積み重なっていくのはちょっと不快だなと思っていたので助かった面もあるけれど、次から次へと向かってくる魔物たちには諦めと私にかなうはずもないという事に気付いて欲しかった。
バカな魔物たちは私が疲れて動けなくなるんじゃないかと思って波状攻撃を仕掛けてくるけれど、自分の体重よりも重い鉄の棒を振り回しているというだけなのだから疲れるはずもない。
それに、重い鉄の棒を振り回していると言っても慣性の力を利用しているのでそこまで疲労も無いのだ。ちょっと固い魔物がいた時に力を少しだけ入れる程度の事だし、それで疲れるのは老人かつかまり立ち歩きを覚えたばかりの子供くらいだろう。
とてもゆっくりで優雅な時間が流れているため、兄貴が何を言っているのかさっぱり理解出来ない。そのため、魔物たちがいつまで私に向かってくるのか、どうしたら諦めてくれるのかという事もわからないまま時は流れていた。
多分もうすぐ、私にかなわないと思った魔物が距離を取り始めると思うのだけど、とんでもない数の魔物たちが押し寄せてきているのを見て今のペースでは時間がかかりすぎると感じた私は次の策を練ることにした。
鉄の棒はいったん置いておいて、最前列にいる魔物たちの背中と後頭部が爆発するようなイメージで魔法を放ってみた。
私の想像していた通りの結果になり、最善の魔物たちの体は全面だけを残して爆発し、その爆発エネルギーを受けた魔物たちは同じように爆発してかなりの数の魔物を減らすことに成功したのだ。
最初からこうすればよかったなと思ったりもしたけれど、鉄の棒を振り回すのも良い運動になったという事で間違いではなかったと考えてみた。
終わりなく襲ってくる魔物たちを今みたいに連鎖爆発させるのもいいとは思うのだけど、素手では触れたくないけど自分の手で葬る事が使命だと感じた私は鉄の棒を改造してみることにした。
鉄の棒が赤くなるくらいまで熱せられた状況にし、柔らかくなっている部分をたまたま落ちていたハンマーで叩いて衝撃に負けない程度の厚さまで薄く伸ばすことにした。切れ味なんて無くてもいい、魔物の体を真っ二つにすることが出来る程度の鋭さと頑丈さがあればそれでいい、その思いを込めながら一心不乱に赤くなった鉄の塊を叩いて伸ばしていったのだ。




